表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クリソプレーズの瞳 ~ルービンシュタイン公爵夫人は懺悔して夫と娘を愛したい!  作者: 星野 満


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/241

34. リリアンヌ誕生

※ 2025/10/4 加筆修正済

※ ※ ※ ※



7月12日未明、ルービンシュタイン公爵本邸(ホームハウス)で新しい命が誕生した。


その日の正午近く、ようやくエリザベスは目を覚ました。



『エリザベス、起きたかい…』


『……旦那様』



エリザベスは目の前に、エドワードのなんとも優しい幸福そうな顔があった。



エドワードが、愛おしげにエリザベスの顔や髪を触りそっと撫でつけた。



そしてベッドの脇に腰かけて、エリザベスの手をしっかりと握って手の甲にキスをする。



『よくがんばったね、大変な思いをして、産んでくれてありがとう』


『そんな………』


『大丈夫かい。喉がかわいたろう』


サイドテーブルの水差しから白湯(さゆ)をコップについでエリザベスに渡す。



エリザベスはゆっくりと上半身を起こして、口の中を(ゆす)いでから水をゴクリと飲んだ。



喉元から身体の中に白湯がしみわたる感覚が、エリザベスの意識を徐々にはっきりさせていく。



エリザベスは突然、ハッとして──、


『……あ、赤ちゃんは………女の子でしたのね、わたくし⋯⋯跡継ぎ産めなくてごめんなさい』


申し訳無さそうに項垂(うなだ)れる。



『は、何いってるんだよ。私がどんなに嬉しいかわからないのかい? 君は無事に可愛い元気な赤ん坊を産んでくれたんだよ。こんな嬉しいことはないよ!』


とエドワードはきっぱりとした声でいった。

そして、エリザベスの肩を自分に引き寄せて、優しく抱きしめた。



『旦那様……』


エリザベスもようやく夫の歓びを実感した。


『赤ちゃんはどこ…?』

『こちらにいますよ』

『サマンサ……』



エドワードの後ろにいた、サマンサがベビーベッドから柔らかそうな真綿布に、くるんだ赤ちゃんを抱いている。


サマンサは近づいてきて、エリザベスに赤ちゃんを見せる。

眼を閉じて、すやすやと眠っている赤ちゃん─。



『先ほど、乳母がお乳を飲ませたので良く眠っておりますよ』

『まあ…………』


エリザベスが、身を乗り出して少しふらついたが、エドワードがしっかりと身体を支えた。



サマンサは、エリザベスに赤ちゃんを抱かせた。



()()()()()()赤ちゃんの重さを感じるエリザベス。


見た目よりけっこう重かった。



──これがわたくしの赤ちゃん?


エリザベスはまじまじと、胸の中に抱いている赤ちゃんを見つめた。


『はあ、とっても赤い顔をしているのね⋯⋯まるで()()()()みたいだわ……』


思わず顔をしかめたエリザベス。


『えっ、おいおい、自分の娘に向かってお猿さんは酷いだろう!』


『え、でも旦那様、なんだか想像していたのと違って、()()()()てしてません?』


サマンサが頷いてうふふと笑う。


『──奥様、産まれたての赤ちゃんは皆そうですよ。直ぐに奥様と旦那様にそっくりな、とても可愛いお顔になります』


『そうなの⋯⋯あら見て?』


エリザベスが赤ん坊を見て驚く。


『ちょっとだけ髪の毛があるわ! とっても()()()()よ。わあ、旦那様と一緒だわ!』



『ああそうだね、おまけに瞳はとても()()()()()()()()だよ、君と一緒さ!』



『まあ、そうなのですか? 私と同じ瞳……赤ちゃん、()()()を開けないかしら……』


ようやくエリザベスの顔がほころんだ。


『ぅう、うぐぅ…うぇっ…』


赤ちゃんが周りの騒々しさに、ちょっとぐずりだして目を覚ました。


そうこうするうち赤ちゃんの大きな瞳がゆっくりと開き、エリザベスをじっと見つめた。



『あ、本当だわ。とても綺麗な緑色!──ねえ見てちょうだいな、わたくしと同じ瞳だわ!』



『くくく、だから綺麗な緑色と言ったろう。 ()()()()()()()()()~!()()()()()()()()()()()


エドワードが赤ちゃんに向かって、人差し指と親指で自分の目を大きく開かせてお目々、ぱっちりの変てこ顔をする。



『ぶはっ! やだ、旦那様ったら!』


エリザベスは、おどけたエドワードの顔がおかしくてクスクスと笑う。



──旦那様って面白い方! 

端正なお顔のくせに、けっこう子供じみたことするのね。



エリザベスはエドワードの新たな一面を知って朗らかに笑った。



『ほらほら、どうか私にも赤ちゃんを抱かしてくれ!』


エドワードはエリザベスから赤ちゃんを受けとって、自分の胸に抱きあげたまま立ち上がった。



『うぇ…うぇっ…』ぐずりだす赤ちゃん。


『よ~しよしよし──』

とあやしながら抱っこをする。


『うんうん、どうした()()()()()ちゃんはお腹すいたのかな?』


()()()()()……?』



エリザベスが聞き返す。


『ああ、今決めた。リズ見てごらん! あの花瓶の百合(リリアン)の花を、とても見事だろう?』


エドワードの蒼い瞳が、キラリと輝いた。


エリザベスはその視線の先を見つめると──。


『まあ、立派な百合の花だこと……』


鏡台に飾ってある花瓶には、大きな薄桃色と白色の笹百合(ささゆり)の花が4,5本、とても見事に生けてあった。


笹の葉の形をしている笹百合は、ラッパの形の花びらが少し項垂(うなだ)れているのが可憐で上品でもある。



『な、とても綺麗だろう!』


エドワードは嬉しそうに言った。


『──今朝、庭師のベン爺が赤ちゃんの誕生祝いといって、庭園に咲いた花をたくさん摘んできてくれたんだ。その中でこの百合の花が、とても可憐だったから花瓶に飾ってもらったんだよ』


エドワードは、屋敷内の庭園を小さい頃からとても大切にしていて、花や草も庭師と一緒に時間があれば、手入れもするくらい熱心だった。



『夏に咲く百合の花は甘くフローラルな香りがするし、大輪なのに花びらがたおやかで美しい。エリザベス、この娘にぴったりな名前だと思わないか?』



エリザベスはエドワードの()()を関心しながら聞いていた。


そしてパチパチと睫毛を瞬かせて頷いた。


『リリアンヌ⋯⋯素敵な名前……そう愛称は()()()かしら?……とても良い名前だわ』



『そうだろ、私たちの娘の()()()だ!』


エドワードはベッドに駈け寄り、抱いていたリリーをエリザベスに大切に渡した。


『──この子がわたくしの娘リリーなのね⋯⋯』



エリザベスは自分の胸に抱いている赤子は、とても小さくて不思議な生き物だと、エドワードには言わなかったが、内心複雑な気持ちで赤子を見つめていた。



──ああ、この子が()()()()()最高だったのに。


でも、これでまた旦那様と、以前のように一緒のベッドに寝起きできるのね。




エリザベスはとりあえず、リリアンヌを産んでお腹が凹んだと同時に、ずっと晴れなかった心のモヤつきが、出産したことで解消されるのだと安堵した。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
可愛いリリーちゃん♪無事産まれてくれてよかったですね(*^^*) いっぱいかわいがってもらいましょうね♪
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ