24. エリザベス・サイドの結婚式(1)
※ エリザベス側から見た結婚式の風景です。
※ 2025/4/28 修正済
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結婚式当日、大聖堂の入口の大きな扉が開く──。
パイプオルガンの音色が鳴り響き、結婚マーチのフレーズを奏でた瞬間、
ウエディングドレスを着た新婦のエリザベスが颯爽と登場した。
彼女は父親のマクミラン侯爵にエスコートされて、正面奥の祭壇まで続く道──。
バージンロード、つまり“今まで歩んできた道”を父親と共に歩くのだ。
エリザベスは片手に白百合と白薔薇のウェディングブーケを持ちながら、一歩ずつ父親と歩幅を合せながら、楚々と歩き始めた。
聖堂内には両家の親族、両家の領主関係者の友人知人、大商会など取引先の上級市民、王侯貴族の代表が揃ってエリザベスを一斉に注視した。
観客一同、息を止めて感嘆する者、溜息を零す者、ざわざわと囁く者たちの声が聞こえてくる。
『まあ、なんて綺麗な花嫁なのでしょう!』
『ちょっとあなた見てちょうだいな、まるで一幅の絵画のようだわ』
『……リズお姉さま、とっても素敵!』
『ああ、僕らのリズ嬢がこんなに早くお嫁にいってしまうとは…!』
ざわめく喧騒の中、静かに美しく列席の人々の横を通過していくエリザベス。
その後ろから2人のブライズメイドの少公女が花嫁の後ろを歩いてくる。
ひとりはエリザベスの白いロングヴェールが、床につかないようにヴェールの先を持つ係りだ。
もうひとりは新婦と同じ花束を持つ係り。
彼女たちはエリザベスの親類縁者の貴族の娘だった。
緑の瞳のエリザベスお姉さまの結婚式とあって、小公女たちはこぞってブライズメイドに立候補した。
その中から選出された2人だけあってとても可愛らしく、エリザベスたちの歩幅に合わせて、ちょこまかと歩く姿が微笑ましい。
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祭壇の奥には司祭様と、右側にモーニング姿の見目麗しい殿方が待っている。
エドワード公爵は頬を上気させながら、花嫁姿のエリザベスを奥から熱い視線を送っていた。
──あら、エドワード様は白のモーニングコートの着こなしが見事だわ。
エリザベスは未来の夫になるエドワードを、冷静に観察しながら素直にそう思った。
エリザベスはとてもご機嫌だった。
大聖堂内の豪奢な雰囲気も気に入ったし、何より参列者たちが花嫁姿の自分を一心に称賛しているのは、とても気持ちが良かった。
紳士淑女等の驚嘆する視線が痛いくらい伝わってきて、背筋がぞくぞくしていた。
ああ、これよ、これなのよ!──このところわたくしは、王太子妃から脱落して落ち込んだけど、こうしてみんなの中で歩いていると凹んでいた心が軽くなっていくわ。
そうよ、エリザベス、貴方しっかりなさい!
貴方は常にこの視線を浴びて来たのではなくて!
ああもう堪らない!──。
今日はわたくしの結婚式、わたくしが本日のヒロインよ。
ふふふ、この真白なウエディングドレス姿ならば、きっと誰よりも光|輝いているに違いない!
とエリザベスは自画自賛しつつ、弱気になっていた気持ちをも鼓舞した──。
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彼女が気合を入れる時は、いつも長い睫毛をパチパチと瞬かせて、エメラルドグリーンの瞳を大きく見開らかせる。
気分がハイになったのか口角をさらに高く上げて、背筋もシュッとし、女王のようにバージンロードを大股で闊歩して歩き始めた。
父親のマクミランはエリザベスの速度に少しよろめきそうになるほどだった。
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──あら?
エリザベスは、ふと前列にいる王族関係の参列者の熱い視線に気が付いた。
上座にいるのはメルフィーナ王妃、その横にロバート王太子、隣は妹のマーガレットが座していた。
熱い視線はロバート王太子であった。
ん 何かしら? ロバート王太子様の妙に潤んだそのおめめは?
もしかしてわたくしを見て泣いてらっしゃる……?
エリザベスは何とも微妙な気持ちを感じた。




