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クリソプレーズの瞳 ~ルービンシュタイン公爵夫人は懺悔して夫と娘を愛したい!  作者: 星野 満
最終章 エリザベスを巡る人々

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233/241

229. 王宮の館と転移魔法

※ 2025/8/23 修正済

◇ ◇ ◇ ◇



王都の王宮殿内。


後宮よりも左南西の位置に林があり、抜けると3階建ての館がある。

見る限り厚く頑丈な石造建築である。


ここは古代の遺跡痕を修繕して建築した館だった。

大昔から王宮内で発症した感染した病人や、重病人を隔離する目的で建てられたものだった。

主に、王侯貴族や高位貴族を隔離するもので、平民の従者などが感染した場合は、市街の病院へ隔離させていた。


抗生物質のない時代。

風土病の斑点病(はんてんびょう)を隔離することがなによりも大切で、感染を拡大させないための処置であった。

そのために何百年以上も前から造られた石造りの病院である。


感染者が少ない春から秋までは、王室の病棟として内科や外科の治療も行っており、年間通して医師と看護婦、使用人含め7,8名ほど常駐している。



◇ ◇



林の野鳥も寝静まった深夜。


突如、屋敷の正門の前で(まぶ)しい閃光が走った。

まるで、神々が降臨してきたような眩い金の光が()()()()

その光が消えると、ロッドバルトが目を(つぶ)ったエリザベスを抱きかかえて地上に佇んでいた。


どうやら公爵本邸(ホームハウス)の寝室から、王宮殿の館である目的地へ無事にたどり着けたようだ。


開口一番、ロットバルトが歓喜する!


「おお、今回は無事に目的地に着けたよ! それも館門前とは最高じゃないか!」

ロットバルトは計算通りの着地ができて、とてもうれしそうに自画自賛した。


「え、もう着いたの?」


「そうだよ、リズ、安心したまえ。目を開けて大丈夫だ」

エリザベスはロットバルトに抱き抱えながら、固く眼を(つぶ)っていた(まぶた)をおそるおそる開いた。


「あらら……本当だ。少し暗くて分かりづらいけど、ここは王宮殿の離れの館よね、たしか見覚えがあるわ」


「ご名答、フレディが隔離されてる場所さ」


「ロット、驚いたわ。転移魔法って本当に凄いわ。正直、怖くて寝室から眼をぎゅうぎゅうに瞑っちゃたけど、ほんの何十秒で目的地に着くとは!」


エリザベスは緑の眼を何度もパチパチと瞬かせた。


「ふふ一応、転移魔法は『瞬間移動』だからね。時間でいうとほんの何秒単位だよ。えへへ……僕の初の魔道具は優秀だな」

ロットバルトは、エリザベスに褒められてまんざらでもないようだ。


「いえ凄すぎるわよ。こんな機械あったら、良からぬ悪事もやろうと思えばできちゃうわ。ちょっと怖いくらいよ」


「う……ん、まあね、やりようによってはね。でもガーネット王国は他国には魔法力を隠してんだよね」


「うわあ、恐るべしだわ。ガーネット王国」


「あ、でも転移魔法は特別だよ。ガーネット王室でも知らないはずさ。だって作った僕が最近、ようやく開発した魔法だしね」


「…………」


エリザベスの緑の瞳はまじまじと、ロットバルトを見つめた。



──おお、本当に恐るべし魔道具よ。

この男を敵にまわしたら偉い事になるわ。絶対にガーネット王国とは友好国のままにしないと。

万が一戦争でも起こったら、クリソプレーズ王室は平和ボケしてるから一網打尽になるわ。


「なんだい、エリザベス。そんなにじっと、僕を見つめちゃってさ。もしかして()()()()()()()()?」


「な、違うわよ。貴方ってつくづく凄い人だなぁって。医者で錬金術師で魔法まで使えるんだもの」


「はは、僕はこう見えても魔人の先祖の端くれだからね」


「とかいって、さっき確か乳母のゲーテルのおかげとか言ってなかった?」


エリザベスは威張るロットの顔が鼻についてきたので意地悪くいった。


「う、それいわれると弱い、実はそうなんだ。ゲーテルと先祖の助けがないと1人では無理だったよ」

ロットバルトは少し自慢しすぎたなと苦笑した。

エリザベスの言う通り、手柄は乳母のゲーテルだと認めるしかなかった。


「それよりロット、いつまでわたくしを抱き上げてるのよ、もう着いたんだから降ろしてちょうだい」


「あ、はいはい!」

といいながら、ロットバルトはエリザベスを地上にそっと降ろした。


ロットバルトがエリザベスを抱き上げた理由は、本邸で夫婦の寝室に着いたのはいいが、着地時にロットバルトが頭から落ちた為だった。


無事に目的地に着いたものの、転倒は予想外だった。今回は転倒しないように用心して空間移動中に、エリザベスを抱きかかえて転送した。


エリザベスも地面にしりもちつくのは嫌なので、ロットバルトの提案を素直に従った。


「もう少し君と2人きりの時間旅行を楽しみたかったけど、あっという間だったね」

ロットバルトはにやにやしてエリザベスを見つめて名残惜しそうにいった。


「はぁ、帰りもあるでしょう。それより、貴方とこうしてる間にもフレデリック様は、病いで苦しんでるのよ、無駄話している時間はないわ、早く行きましょうよ!」


「はいはい」

と、ロットバルトは軋んだ館の門を開けた。



◇ ◇


ホーホーと王宮の森の中で梟の低い鳴き声が遠くから聞こえる。


館門をくぐり抜けて正面玄関から入ると、両脇には等身大の緑の女神と勇者の古い石像が壁に掘られていた。


緑の女神と勇者イルフォンだ。

勇者イルフォンが魔王を倒した英雄の象徴といわれており『魔王』が悪しき病原体として、邪気払いの為にイルフォンの石像を彫刻したという。

数百年程前に著名な彫刻家が彫ったものだった。


イルフォンの彫刻は大分傷みがあるものの、顔の部分は修繕したのか目鼻立ちの美しい輪郭は健在だった。

どことなくエドワード公爵を思い起こす風貌だ。


エリザベスとロットバルトは、石像の前に立ち止まってじっと見つめた。


「とてもよくできてるわね。まるで患者を守る番人のようだわ」

「そうだな、緑の女神と勇者イルフォンはこの国の絶対的な守り神だからね……病人の邪気を祓ってくれるのだろう……」


心なしか、ロットバルトの表情が曇って見えた。


「行きましょう。時間が無いわ」

「うん……」


2人は館内のエントランスから居間に進むと辺りはシーン……と静寂だった。


館内は深夜でもガス燈が所々に壁に設置してあって、薄暗いが室内の調度品の見分けはついた。

石油ストーブで暖を温めているからか、少し石油臭い匂いがした。

部屋の中はとても温かい。



「(小声で)ねえロット、真夜中には医師や看護師はいないの?」


「(小声で)いや、夜勤の宿直がいるはずだ。ちょうど休憩してるのかもしれない」

「(小声で)病室は2階にあるの?」

「(小声で)そうだ、案内するから僕の後についてきて」

「(小声で)わかったわ」


ロットバルトが階段を登っていく後ろに、エリザベスが続いた。

階段は木造でできており、古びていて1段1段登るたびにギシギシときしむ音がした。


静まり返った館内の真夜中は、さながら幽霊屋敷のようで、エリザベスは少々薄気味悪かった。


2階に上がると廊下を隔てて10室くらいの病室があった。

一番左手前のドアを開けて、静かに部屋に入っていくロットバルトとその後に続くエリザベス。


病室は簡素で大きなベッドとサイドテーブルと椅子と机だけ。

壁際に石油ストーブが置いてあるので部屋内も暖かだった。

ストーブの上にのせたヤカンが、しゅんしゅんと小さな湯気をたてている。

感染者を乾燥させない為だろう。


「エリザベス、フレディだよ」


エリザベスはロットバルトに促されてベッドにゆっくりと近づいた。


「あ?」



──おお、フレデリック王子様、()()()()()()()()()お姿なのでしょう。


ベッドで横たわるフレデリックの姿を見て、エリザベスは、手袋をつけた両手で口を押えてしまった。







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