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クリソプレーズの瞳 ~ルービンシュタイン公爵夫人は懺悔して夫と娘を愛したい!  作者: 星野 満
最終章 エリザベスを巡る人々

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217/241

213. 村長宅でのひととき 

※ 2025/7/14 修正済


◇ ◇ ◇ ◇



秋のじゃがいもの収穫を視察したエドワードとエリザベスは、30分くらい農夫たちとの交流の後、村長のギルが公爵夫妻を、せっかくだからと家の朝食に誘ってくれた。


コゼミッツ村のウェイン村長宅の居間。

木造の二階建て。

古い作りだが、強風や大雨もしのげそうな、がっしりとした造りの家だった。



「エドワード様、奥様、大したものは何もありませんが、どうぞ召し上がってくだせえ」

村長のギルは満面一杯の笑顔でもてなした。


コゼミッツ村の村長一家は、村長のギル、妻のメイ、祖父のバート、そして息子が3人と娘が2人と合計8人家族だった。


末の息子は去年生まれたばかりの0歳だった。


あいにく妻のメイは病いにふせっており食卓にいなかった。

長女のヨナは17歳と年長らしく、赤子の世話をしている。

先に朝食を済ませて、隣人宅に赤子のお乳をもらいにいってて留守だった。


テーブル席には長男のロル、次男のジョン、次女のミニーがいた。

心なしか子供たち一同は突然、領主夫妻が食卓にいて緊張しているのかじっと2人を見入っていた。


特に幼き子供らは、妻のエリザベスの緑の眼と銀色の髪の美しさに、心を奪われているようで口をポカーンと開けている。


クリの木で作った頑丈なテーブルには、パンの代わりに先ほど採れたばかりの秋ジャガイモのふかしイモと、牛のミルク。南瓜(かぼちゃ)のポタージュスープ。

赤カブとキャベツの酢づけ、卵焼きと豚肉の炒め物が並べられていた。


「わあ、これは朝からご馳走じゃないか。ギル、いつもありがとうな!」

エドワードが食卓の料理を見て大喜びだ。


「いえいえ、このくらい当然です。エドワード様にはコゼミッツ村には、多大な支援をしてもらってますだ。本当に村の者たちはありがたいと感謝してますだ」


「領主として当然だよ。この村のジャガイモや豆類は、クィーンズ市民にはかかせない主食だからね──エリザベス、本邸で食べているジャガイモと豆も、この村で作ったものばかりだよ」


「まあ、そうですの。いつも美味しく召し上がってますわ。村長、わたくしまで急におしかけてしまって悪かったわね」


「いいえ、めっそうもないです奥様。まさかこうしてエドワード夫妻一緒に、我が家に来てもらえるなんて、ウェイン家末代まで誇りとなりますだ」


村長のギルはずっとにこにこ笑顔である。


年は40歳という。立派な体躯でとても若く見える。


「エリザベス、余り緊張するな。私は春と秋の早朝視察で毎年、朝食をウェイン家でご馳走になっているんだ」


「そうじゃ奥方様。ワシはエド坊ちゃんが、ヨチヨチ歩きの頃から知ってますだ。もう先代が視察に連れてなさる時から肩車してなあ。こんなに立派に大きゅうなって、先代様もさぞ大喜びでしょう」

と髪と髭が白髪交じりの、ギルの父親のバートが涙目になりながら言った。


バートは60歳で少々腰が曲がっていたが、杖も付かずにジャガイモ畑を手伝っていた。

息子に村長の役職は譲っても、まだまだ農作では現役なのだ。


「ははは、バート爺には叶わんなあ、私はもう27だぞ……」

エドワードが子供の頃の話をされて少し赤くなる。


「こら、父さん流石に図々しいぞ!」

「あいや~、ついついすまんですな、エド坊っちゃん……」


「いいえバートさん、おかまいなく。夫の子供時代を知りたかったので楽しいわ。夫はこうして、皆さんとずっと交流なさってたのね」


「はい、エド坊ちゃんはワシらのことを、常に考えてくださってる。とてもありがたいことじゃ」


「バート、余り褒めるな。何だかこそばゆいよ。私の父が毎年こうやって収穫シーズンになると、この村に連れていってくれたから延長でしてるだけだ──なにせ、この村のとりたてのジャガイモは、ホクホクしてて実に上手いんだ。私の大好物の、南瓜スープも村長の家は絶品なんだよ」


「まあ、それは旦那様にはたまらないわね、旦那様は南瓜に目が無いの。わたくしが作るプリンもベロっと食べちゃうのよ。子供みたいでしよ」

「おいおい、よせよ。恥ずかしいだろう」


一同、どっと笑いがでた。


エドワードが、じゃがいもと南瓜が好物なのを村長家族は、知っているらしい。


「さあどうぞお二人共、冷めないうちに召し上がってくだせえ」

とギルは再度勧めた。


「そうだな。それでは頂こうとしよう!」

とエドワードは大好きな南瓜スープから、木のスプーンでスープを吸って口にした。


「ああ、上手い。この南瓜の甘味がたまらん!」と微笑み何度も味わう。


「美味しそう。わたくしもいただきますわ」

エリザベスは、木の器に入ったミルクを飲んだ。


「まあ、とても濃厚で甘くておいしいわ」


「えへへ、良かった。あたしが、まいあさ、牛のおちちをじい爺としぼってるのよ。()()()()


ギルのとなりにいる、末娘の幼いミニーが自慢げにしゃべった。

眉毛の上で前髪を揃えたおかっぱ頭がとても可愛い。


「こら、ミニー。言葉づかいに気を付けろ!すみません奥様」

とギルが謝る。


「いいのよ、ギル。娘さんとっても可愛い。年はいくつなの?」


「へえ、6歳になりましただ」

「まあ、わたくしの娘より一つだけ上なのに、家のお手伝いをしてるなんてとっても偉いわ」


「えへ、それほどでもないわ……」

とミニーは、手で鼻を(すす)って嬉しそうに笑った。


「ミニー早くミルクをお飲みよ!」

「そうだよ。ミニーは食べるの遅いから、喋ってないで早く食べろよ」

と長男のロルと二男のジョンが注意をした。

「はい、お兄ちゃん!」


エリザベスは、村長の子供たちを見て微笑ましかった。



──なんだかわたくしも男の子が欲しくなってきたわ。

きっとリリアンヌなら、産まれた赤子をさぞや可愛がってくれるに違いない。


ふかしジャガイモにバターをたっぷり塗って、頬張っているエドワードを横目に見てエリザベスはほくそ笑んだ。



朝食後、子供たちが2階の部屋に上がり、大人たちが残った。

薬草茶を飲んでいる公爵夫妻。


「まあ、では奥様は1年近くも床に伏せっているの?」


「はい奥様。どうも妻は産後の肥立ちが悪いのか、この夏はずっとふせっております。赤子の乳もでないので、隣の家の奥さんにお乳をもらってるんですだ」

とギルは浮かない顔で辛そうにいう。


エドワードが薬草茶を飲み終わった後で

「以前、エリザベスの産後の時にくれたあの薬草茶でも効かないのかい?」


「え? あの時の薬草てこの村の人が採取してくれたの?」

エリザベスは驚いた。


「そうだよ。君が産後の時にこの村の人たちが森でわざわざ採取してくれたんだ」


「まあ、そうでしたの。あの時は辛くて苦しかったけど頂いた薬草茶を飲みだしたら途端に良くなったのよ。ちょっと苦くて飲みづらかったけど──今頃お礼となってしまったわ。本当にどうもありがとう」


「いえいえ奥様、とんでもない。ワシらはエド坊ちゃんが『妻が薬草のおかげで元気になった』と聞けただけで採って来たかいがありましただよ。だけんど義娘(むすめ)は同じ薬草茶飲んでも効かないですだ。困ったものよ」

とバートは少々顔を曇らした。


「そうか、困ったな。まだ末の子も0歳でお乳も欲しいだろうからな」


「ええ、クィーンズの街医者にも行って診てもらい、薬も処方してもらったんですが、なかなか良くならなくて……」


エリザベスも黙って考え込んでいた。



──どうしよう、わたくしの力で治りそうだけど、むやみに魔力を使うなとモック爺からは云われている。


でも、彼等は以前わたくしを助けてくれた恩人だわ……ほってはおけない。


エリザベスは決意した。

「ギル村長。わたくしに奥様のお見舞いをさせて欲しいんだけどよろしいくて?」


「へえ、妻は今寝てますけど……でも後で、奥様がお見舞いしてくださったと妻に言えばきっと喜びますだ。どうか一度見てやってくださいまし」

ギルはとても嬉しそうだった。


「ありがとう──」

エリザベスが優しく微笑した。




村長宅の寝室。

ギルに連れられてエリザベスは部屋に入った。

古い木のベッドと、衣装タンスとサイドテーブルがあるだけの部屋だった。


「さっき妻は朝食は食べたくないといって、そのまま直ぐに眠ってしまったんです」

ギルは(うつむ)き加減でいった。

妻のメイは眠っていたが“はあはあ”と呼吸が荒く苦しそうだった。


エリザベスはベッドの側に近づき、メイの細い腕をとった。

そのまま瞼を閉じたエリザベス。



──ああ、ここね、感じるわ。この(とどこ)っている箇所に、魔力を入れれば良く治りそう。でも……確か魔力注入してると、傍目からは、わたくしが光って見えるとキャリーがいってたわね。


エリザベスはギルに振り向いた。

「村長、わたくしも『緑の女神様の加護』があるよう祈願したいの。悪いけど少しだけ1人にしてくださる?」


「え? はい。わかりました。外にいますので何かあったら呼んでください」

「ええ、わかったわ」


ギルは“領主の奥方が、自分の妻に祈願するとはと、面食らったがエリザベスの言う通りに部屋から出て行った。


その後5,6分程度だろうか──。

エリザベスが部屋からそっと出てきた。


「村長、お祈りは済ませたわ。また近いうちに、奥様のお見舞いにきてもよろしいかしら」


「は、ええ。それは勿論でございます。こんなむさ苦しい場所でよければいつでもどうぞ。領主の奥様に妻を見舞ってくだされば病いも回復しそうですだ」

とギルは頭を下げる。


「そうね、きっと良くなりますわ」

とエリザベスはにっこりと確信に満ちたリズ・スマイルをした。




数日後、公爵領本邸ホームハウスに、コゼミッツ村のウェイン村長がやってきた。


村長が言うには、公爵夫妻が来た後、寝たきりの妻が見違えるように良くなり、赤子のお乳も出るようになった。

更にジャガイモの収穫を手伝うくらいに回復したと。


村長はそのお礼に野菜や果物を山ほど持ってきてくれた。



それからは雪が積もる真冬になるまで、毎週のように村長がエリザベスへのお礼なのか、ホームハウスに野菜や果物を差し入れるようになった。


村長が持ってきてくれた南瓜を使って、エリザベスがエドワードの好物の南瓜のプディングを毎日デザートを作ったが、さすがのエドワードも飽きてしまうくらい食べた。




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