204. 満開の向日葵と家族たち
※ 2025/9/13 修正済
◇ ◇ ◇ ◇
公爵領本邸屋敷内のエントランス。
「戻ったぞ、アレク!」
エドワードが被災地のカルセドニー市から戻ってきた。
足早にエントランスに入ってくる。
「お帰りなさいませ、旦那様、予定は夕方との連絡でしたが早いお帰りでしたね」
「ああ、思ったより水害の死者もなく怪我人も少数だったんだ。大規模洪水にしては最小限で済んて良かったよ。家屋を流された被災者支援も、領主たちと現地の関係者たちに引き継げた。ゴミ処理対策も領民が手分けしてやってくれて、今回派遣した王宮騎士団も一緒に帰宅したよ」
「左様でございましたか。それはひとまず何よりでございました」
「ああ、食糧や救援物資は既に王室に追加申請したしな、まあ、被害状況の確認含めて街の治水対策の課題は残った。今後は何度か赴かんといかんだろうがな」
アレクはエドワードの脱いだマントを丁寧に受け取る。
「エリザベスは家にいるのか──?」
「はい、ちょうど庭園でリリアンヌ様と遊んでおられます」
「そうか、リリーと一緒か……」
エドワードの精悍な顔が、朗らかに綻んだ。
◇
本邸の庭園内。
青空と陽光煌めく夏本番の中、庭園の花壇はラベンダーや向日葵、他、赤やピンクの夏の花が満開だった。
屋敷の窓から庭園を見ると紫、黄色、赤やピンクと花壇のグラデーションが見事な花景色である。
特に向日葵は満開だった。
輝く太陽の下、元気いっぱいに咲く向日葵を見るだけで、とても明るい気持ちになれる。
「ああ、気持ち良いわね!」
「本当ですね、奥様」
「きもちいい!」
「ウォン!」
花壇の前を、白いレースの大きな日傘を差したエリザベスと、リリアンヌを乗せた乳母車をメイドのアンナが牽いて散歩している。
3人の後ろを子犬のレモン君が、飛ぶように駆け回っている。
レモン君は黄色い尻尾を、いつも以上にふりふりさせてとてもご機嫌だ。
白地に水玉模様のつば広帽子を被ったリリアンヌが、花壇に向かって可愛く指をさした。
「みて、おかあしゃま。ヒマワリさんたちが、おそら、うえをみてるわ。すご~い、まんかいよ!」
「まあ、本当ね。向日葵さん達が、笑顔で太陽に向かって挨拶してるみたいね」
「そう、にこにこしてるヒマワリさん!」
リリアンヌが嬉しそうにはしゃいだ。
「ふふ、それにしてもリリーは“満開”なんて言葉をよく覚えてるのね、アンナが教えたの?」
エリザベスは、少々驚いてアンナに訊ねた。
「いいえ奥様、リリアンヌ様は5歳になられてから、最近、新たに国語の家庭教師が付きました」
「まあ、そうだったの。リリーは大丈夫なのかしら?」
「ええ、とても優しい老婦人の先生でして、リリアンヌ様も楽しそうです」
「そうよ、おかあしゃま。せんせいがリリーに『もじ』をいっぱいおしえてくれたのです。こんどおかあしゃまに、リリーが、えほんをよんであげますです」
リリアンヌが、アンナとエリザベスの会話に入ってきた。
なんだかリリアンヌは、おぼえたての『です』『ます』をやたらと強調して話す。
「まあリリーちゃん素敵ね。ママは絵本を読んでもらうの楽しみにしてるわね~」
「まかせて、おかあしゃま!」
エリザベスは、娘が口をとがらせて威張って話す顔が可愛くて、思わず白いグロ―ブをはめた手で、リリアンヌの頭をなでなでした。
「奥様、リリアンヌ様は、とても字の覚えが早いと先生もおっしゃってました」
「まあそう、リリーは凄いのね~」
「うふふ、そうでしょう。リリー、とてもかしこいです」
とリリアンヌはすぐに、二人が話す会話に入ってくる。
なにやらとても満足気の様子だ。
エリザベスとアンナはお互い目が合って思わず、くすくすと笑い合った。
さっきからリリアンヌのドヤ顔が可笑しすぎて仕方がない。
この夏、エリザベスが本邸に来て2ヶ月近く経過したが、リリアンヌは母親に良く甘えるようになった。
いつもリリアンヌの側にいるアンナは、母娘の和やかな様子を見て心底嬉しかった。
──不思議だわ。
奥様とリリアンヌ様と、こうして庭園を散歩してるのが夢のようではないか。
ミナ叔母さんも、この2人の仲睦まじい様子を見たら、きっと泣き出すだろう。
当初、奥様が避暑に来られたばかりの頃、リリアンヌ様は奥様をとても怖がって怯えていたのに、本当に、本当に変わられた……
とアンナはしみじみと感じた。
エリザベスは、昼食後の日中一番暑い時間だったが、窓から見る庭園の向日葵やラベンダーが、余りにも美しかったので、思い切って庭に出て良かったなと、キラキラした陽射しで輝く花壇を楽し気に見つめていた。
その時──。
「ウォン、ウォン、ウォン!」
屋敷の方を向いてレモン君が大きな声で吠えだした。
「あ、おとうしゃまだ!」
「えっ?」
「奥様、旦那様です」
屋敷からエドワードがこちらに向かって走ってくる。
「旦那様!!」
エリザベスは振り向いて飛び切りの笑顔になった。
思わず差していた日傘を芝生に放ってしまう。
エリザベスは、ドレスの裾をつまみながらエドワードに走り寄っていく。
凄い早さだ!
「旦那様~!」
エリザベスは思いっきりエドワードに飛びついた。
「あは、ただいまエリザベス、元気だったかい!」
「お帰りなさい旦那様、何よりご無事で良かったですわ!」
エリザベスは元気そうなエドワードの顔を見つめて、安堵したのか思いっきり首に手を廻して抱きついた。
エドワードもそんな妻の喜びを甚く感じて、胸が熱くなるくらいエリザベスを身体ごと抱きしめた。
本当はエドワードは、妻に熱い口づけをしたかったのだが、さすがに娘とアンナの手前、ぎりぎり自重した。
とはいえ、抱きしめ合ってる2人が、余りにもアツアツぶりを見せつけられたので、見ていたアンナとリリアンヌは向日葵畑の方に向きなおして、しばらく目配せしながら、顔を赤らめた。
「ウォン、ウォン、ウォン!」
レモン君だけお構いなしに、エリザベスとエドワードの周りを旋回して尻尾を可愛く振っていた。
長い抱擁の後、エドワードはレモン君を抱き上げた。
抱きしめられたレモン君は満足気に「クゥン……」と可愛く甘える
エリザベスも傍らでレモン君の頭を撫でながら
「旦那様、カルセドニーは大丈夫でしたか?」
「ああ、“夢のお告げ”は正夢だったよ。君のおかげで事前に対処できたのが良かった、最小限の被害で収まったと思う」
「まあ、それは何よりでしたわ。旦那様もお肌のつやが良くてお元気そうだわ」
「君がくれたポーションのおかげだよ。毎晩寝る前に飲んだら、朝はすっきりと起きれて体力も充実していたよ」
「まあ、それは良かったですわ。また作りますね!」
2人は、顔を見合わせて微笑んだ。
◇
その後、4人と一匹の神獣はお花畑を散策した後で、テラス席で冷たいアールグレイティーと、エドワードの好物の南瓜のプディングでティータイムを楽しんだ。
久々の家族団らんの一時であった。
※ エドワードが無事に戻ってきて、家族そろって良かったです。(*^。^*)




