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クリソプレーズの瞳 ~ルービンシュタイン公爵夫人は懺悔して夫と娘を愛したい!  作者: 星野 満
第7章 エリザベスは緑の女神

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202/241

199. マーガレットの夢と目覚め(1)

※ 2025/7/8 修正済

◇ ◇ ◇ ◇




青い城に戻ったマーガレットだったが、その夜もまだ昏睡状態は続いていた。


だが時折りマーガレットの眠る表情に変化の兆しが見えてきた。

眠りの中でマーガレットは夢を見始めていた……


それはとても不思議な夢だった。




 レット…………


……マーガレット…………


 

……誰?


 誰かが、優しく私の名を呼んでいる……


……マーガレット……マーガレット……


 誰……? 私を優しく呼ぶ|のは……?




マーガレットは、そっと目を開けた。




* *




そこは不可思議な異空の世界だった。何も見えない……何もない……


マーガレットは夢の中で起き上がった。


何もない世界──。


ただ真っ白である。なにも見えないのだ。



──どこなの、


『何も見えない……』


……少しすると遠くで、七色に光る物体がキラキラと輝いてマーガレットに近づいてきた。


するとその物体から優しく(ささや)く声が聞こえてきた。



『……ようやく目覚めましたね、マーガレット………私ですよ』


マーガレットの眼の前に現れた光る正体が大きくなった。




それは()()()()だった。



背丈はマーガレットより少し高い。

腰まである煌めく銀髪はそれは美しいウェーブがかかっており、黄金の冠を被り、体の線にそったコタルディの古代風の緑のドレスを身に(まと)っていた。



不思議なことにドレスははっきり見えるのに、マーガレットには、女神の首から上が燦然(さんぜん)と眩しすぎて顔が良く見えなかった。



それでもマーガレットは、この麗しい女人が緑の女神様だと分かった。



──緑の女神様。ああ、なんて神々しい御方(おかた)なのでしょう……



緑の女神はマーガレットにゆっくりと近づいて微笑む。


『マーガレットや、汝はそろそろ目覚めなければいけません。貴方の身体の中に新しい命が『お腹がすいた!』と泣いています。御子の為にもあなたは自らの意思で目覚めて為すべきことをなさないと』



──そうだわ。私には赤ちゃんが宿っていた!


マーガレットは我に返った。


『女神様、私の赤ちゃんは無事なのですか?』

『ええ、大丈夫ですよ』

『ああ、良かった!』



マーガレットは笑って自分のお腹を触る。

痩せ細った身体は白い絹の手触りの良いワンピースを(まと)っていた。

お腹はぺったんこのままだったけれど。


──ああ、私の赤ちゃん! 大丈夫少しだけど動いてるわ。



『あの……女神様、ありがとうございます。そしてどうか教えてください。私の赤ちゃんは本当に無事に生まれてくるのでしょうか?──私はこの通り、痩せて身体も弱くて、自分でも毎日が不安なんです。毎日が怖くて怖くて“必ず産んで見せる!”とお姉さまや王妃様たちに意地を張って、見栄を張ったけど……本当は私が一番恐ろしくて不安なんです!』


マーガレットは自分の気持ちを正直にに緑の女神に訴えた。



緑の女神は、マーガレットの両手をそっと握った。


『大丈夫、もうそんな心配はしなくて良い。マーガレットよ、今まであなたはたった独りでよくぞ頑張りましたね。これからは独りぼっちで戦わなくていいのです。大丈夫、きっとあなたの味方が大勢現れますよ』


『おお、女神様ありがとうございます。本当に感謝いたします。うっ……そうなのです。私いつも独りぼっちでした。ずっとずっと独りぼっちでした。長い間、たまらなく孤独だったのです。そう、王宮の暮らしはとても冷たくて……殿下も侍従たちも……とても苦しかった……』


マーガレットはいつしか思いっきり、緑の女神の手を固く握り返した。

そして頭を(うつむ)いてぽろぽろと大粒の涙を流した。



『おお、マーガレット……』

緑の女神は泣きだしたマーガレットを、そっと抱きしめた。


『良い良い、思いっきりわたくしの胸の中で泣きなさい。マーガレットよ。沢山泣いて貴方の中の邪悪なものも全て吐きだすのです。あらゆる嫉妬も妬みも辛さも……苦しいものは全て吐きだせばよい。さすれば貴方の中には温かな微笑みだけが残っているでしょう……』


『女神様……う、女神……私……くっ……』


マーガレットは言われた通り、思いっきり泣きじゃくった。


彼女の中の()()()()()()()が涙と共に、どんどん溢れ流れ落ちていった。


どす黒い塊はいつしか充満したが、緑の女神が睨むとたちまちの内に退散していった。


いつしか何も見えなかった空気は穏やかな陽だまりのような色に変っていく。


マーガレットは抱かれながら幸福を感じていた。


女神の胸はとても豊かで温かくて、マーガレットは赤子の様にずっと泣いていたいくらいだった。


それでもひとしきり泣くだけ泣いて、ようやく泣き止んだマーガレット。


緑の女神は彼女の涙を優しく(ぬぐ)ってくれた。



『どうですマーガレット。すっきりしましたか!』


『はい』


『では、これから私の言葉を良くお聞きなさい』


『はい女神様……』


『あなたは、曲がりなりにもクリソプレーズ王国の王太子妃になったのです。たとえ王太子が横暴で理不尽でも、あなたはこの国の未来の王妃になる。いわば国母です。これからの()()()()使()()は、我が子を立派に育て上げること──そして、御子が立派な国王になるためには、めそめそ泣いてなどいられませんよ。もっともっと強くなりなさい。私が()()()()()()()()を信じて強く生きるのです!』


『緑の女神様、誓いますわ。私はもう泣かないし、もっと強く生きます!』


マーガレットはキリリッとした目つきになり、珍しく大きな声で誓った。



『あら? ()()()()()()()()()()()()()()()!』

と笑った緑の女神の顔は、エメラルド色の瞳が、マーガレットにはっきりと見えた。


女神の顔は、思い切り口角をぐいっと上にあげて美しく笑う。


『あ……お姉さま! 貴方はお姉さまなの?』


マーガレットは思わず声をあげた。


緑の女神の笑顔は()()()()()()()()()()()()()()()()()


だが緑の女神は微笑むだけで、そのまま首から上が輝くだけで見えなくなった。



緑の女神はいつしか七色の光になって消えていった。




◇ ◇



青い城の、王太子妃の寝室。


早朝、樹木の天辺で“ピーピピピ”と(さえず)大瑠璃(オオルリ)たち野鳥の鳴き声が聞こえてきた。


マーガレットは鳥の鳴き声でようやく目覚めた。



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