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クリソプレーズの瞳 ~ルービンシュタイン公爵夫人は懺悔して夫と娘を愛したい!  作者: 星野 満
第7章 エリザベスは緑の女神

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179. 緑の女神の秘密(1)

※ 2025/6/28 修正済み



◇ ◇ ◇ ◇





夜の温室は何やら神秘的で幻想的な空間だ。

この国に生息していない、熱帯の国にある植物がたくさんあった。


夜にだけ開花する花や、夜になると香りが強くなる不思議な形の植物など、日中では見られない植物たちが生き生きと目覚める。



夕食後、エリザベスは子供部屋に行き、アンナと一緒にリリアンヌを寝かしつけた後で、ランタンを持って温室へやってきた。


温室の中、地面を踏みしめるとカツンカツンと靴音だけが響く。


「ふう……夜の温室はちょっと神秘的だわね。少し怖いくらいよ」

と独り言をいう。


()()()()()()()()()()、エリザベスよ。どこにいるの!!」


エリザベスは3人の妖精を小声で呼んだ。



シーンとした夜の温室はとても静寂だ。



──あら、おかしい。眠っているのかしら。



「ヨック、ハック、モック爺、エリザベスよ!」

と今度は大きな声で呼びなおす!



「ここだよ、リズ!」

今度は、声が聞こえた。


エリザベスは、声がした方向へ向かう。



温室の外れにココ椰子(ココヤシ)の木の茂みの一帯がある。

椰子(ヤシ)の葉は大きく、鳥の羽根のような形が特長で、日中に見るととても綺麗な緑色だ。


だが夜目だと、生い茂った葉がお化けのように見えて、少々不気味だ。


その椰子の茂みの側にエリザベスは近づく。


風もないのに、突然ガサガサと葉っぱたちが大きく揺れだした。


その周りをキラキラと、七色の光の丸い物体が、ぷよぷよと空中に浮かぶ。


「あっ?」



光の物体が『ぽん!』と姿を現した。


ヨック、ハック、モック爺と3人の妖精が現れた。


その一番大きな椰子葉に滑り台のように遊ぶ、葉っぱの精のハック。

幹の先端部にココナツの実の脇に静かに座る花の精のヨック。


そして妖精の長老のモック爺が、エリザベスの目の前で宙に浮いていた。



「モック爺、お久しぶりね。お元気だった?」


「ああリズ、久しぶりじゃな。ワシは元気じゃとも……少々腰が痛いがな」

と茶目っ気たっぷりのモック爺だ。


「リズ、朝は薔薇の花の水やりを、リリーとしてくれてありがとうね。薔薇の精たちが喜んでたわ」


「どういたしまして……リリーといつも遊んでくれるヨックには感謝してるわ!」


「あ~リズに褒められると照れちゃうな」

ヨックは顔を赤らめて、かわいい羽根をひらひらさせて、お得意のダンスをクルクル舞う。



「おい、リズ、おいらには感謝しないのかよ!」

とハックが羽根をぱたぱた動かして、エリザベスの後ろに(ゆわ)いている銀色の髪の毛を引っ張った。


「痛いったら、ハックは昔からわたくしの髪をひっぱるんだから!」


「そうよ、ハックやめなさいよ、相変わらずリズにちょっかいだして!」


「はは、そうさのぉ、ハックとリズを見てると子供の頃、皆で遊んだ頃を思い出すわい」


「本当ね、3人が視れて、わたくしはとても懐かしいわ」


エリザベスは、ハックを手の平に乗せた。


妖精たちは本当に小さくて可愛いと、大人になったエリザベスは、そっとハックを撫でた。


その後、エリザベスたちは昔の思い出話に花が咲き、楽しく語り合う。



◇ 



エリザベスは、椰子(ヤシ)の木の茂みの側に、椅子とテーブルを持ってきてテーブルにランタンを置いた。

これで3人の妖精の顔が、キラキラと光って良く見える。

3人が飛んだり跳ねたりすると、彼等の周りの空気が七色に輝いた。


「さあ、ハック。わたくしに話があるって一体何よ!」


「うん……リズは『金の砂時計』を使って()()()()()()()()()()?」


「え、そうよ。3人はおじい様の砂時計を知ってるの?」


「勿論知ってるさ~『緑の女神の時間旅行』の時に使う宝物(アイテム)だよ」


「緑の女神の時間旅行──?」


エリザベスは、ハックの言っている意味が分からなかった。


「そうさのハック。リズはまだ何も知らないようじゃ。どれワシが初めから優しく説明しよう」


モック爺は口髭を触ってにこやかに言った。


「そうだなおいらは順を追って説明するの難しいや!」


「よしよし──いいかいリズや良くお聞き。先ずお主は緑の女神の眷属なのじゃ」


「緑の女神の眷属(けんぞく)?」


「さよう、つまり緑の女神の子孫みたいなものじゃな」


「そうなの?」


エリザベスは半信半疑だ。



緑の女神の話は国民、誰もが知っているが人間とは教わっていなかった。



「そうさのぉ、もう数千年も前にこの国(クリソプレーズ)ができたから、現代はいつしか神話にしたんじゃな。じゃが、緑の女神は実際に今もいるんじゃよ」


「神話の内容は知っているな」


「ええ」


「うん、内容はほぼ正しい、天空の神々の力で緑の女神がこの地上に生まれ、女神は人間の若者に恋をした。女神は『この男と結婚したい、男の子供を孕んで一緒に暮らしたい、だから私を人間にして下さい!』と天空の神々に頼んだんじゃ──それで神々は女神の願いを聞き入れて、女神を人間にしたのじゃよ」


「ええ、サマンサの子守唄や絵本で知ったわ」



「うん、女神も人と同じ寿命がある。だが体は人間でも女神の内在する力はそのまま備わっていたのじゃ──この国を繁栄させる為に、緑の女神は“幸福のシンボル”として存在する。だから時々女神の祖先で緑の眼を持つ女の子が生まれる。その子供は人々から祝福されるのじゃ」


モックの説明をエリザベスは納得した。


『──貴方はエリザベスは親戚一同から愛されて生まれてきた』と、母から話を聞いたばかりだ。


モックは続けた。


「古代から代々緑の女神の子孫が生まれて、彼女たちが国を豊かに導いていった。そうして今でもずっと受け継がれてきたんじゃよ。時を戻す『金の砂時計』も天空の神々が、緑の女神に不祥事が起こった時のために与えた“アイテム”じゃ」


エリザベスの緑の瞳は大きく見開いたが、すぐに眼が点になった。


「でもそれが、わたくしってこと?──モック爺の話だとまるでわたくしが、国の人々たちが祈る緑の女神様、その人だなんてとっても信じられないわ。だってそんな凄い力を自覚したこともないし、逆にわたくしは緑の女神様に祈ってきた側よ!」


エリザベスはモック爺の話が絵空事みたいで、とうてい信じられなかった。



「そうさのぉ、じゃがおぬしは紛れもなく緑の女神の子孫じゃよ。その証拠に『金の砂時計』で時を戻せて今、其処にいるじゃろうて……」


「あっ、そうだ!」


「それができるのは『金の砂時計』の持ち主(緑の女神)だけなのじゃよ」


エリザベスは腑に落ちた。



──確かに今、私は過去に戻ってきてる。


牢獄で『金の砂時計』に祈りを捧げたら、自分が七色に輝いていた。


金の砂時計はお祖母様の形見。先祖代々緑の瞳の娘に与えられる宝物とされてきた。


モック爺は更に続けた。


「いつしか平和な時代が続き、緑の女神も力を行使する必要が無くなった野じゃ──さすれば緑の女神の眷属として、この世み生まれても、本人に自覚もなく、大人になれば妖精の存在すら忘れて一生を終える──お前の祖母は金の時計を大切にしていたようじゃがな。彼女には緑の女神の自覚はあったよ──何故なら彼女の母、曾祖母の時代にはこの国も戦争があったから魔力を使ったのじゃ。そうそう、祖母はたまにワシラと大人になっても遊んでくれたからな」


モック爺は嬉しそうに髭を触りながら、祖母を思い出してるのか目を細めた。


エリザベスは暫く黙っていた──。




「そうか……だからおじい様は、わたくしならできると言ったのね」


「そうじゃ、おまえの祖母が緑の女神だと、夫は知っていたんじゃろうな」


「そうだったのね。そういえば『金の砂時計』が手元にないけど、元の牢獄に置いてきて大丈夫なの?」


「そうさのぉ『金の砂時計』は女神しか使えない宝物(アイテム)じゃ。だから『金の砂時計』もお主(おぬし)が見つけた元の場所に戻ってるよ」


「元の場所?」


「この本邸の屋根裏部屋でお前が見つけた箱じゃ。後で見てみなされ」


「そうなんだ、良かった。心配していたのよ。教えてくれてありがとう。あとモック爺、これも不思議だけど『金の砂時計』が見つかったのはレモン君のおかげなの、あの犬も時々、輝いて見えるけど加護がある犬なの?」


「ああ、あやつは()()じゃ。子犬のフリをしてるが、実は“フェンリル”という大きな神獣なのじゃ」


「フェンリル? 神獣!うわあ⋯⋯それこそ神話の獣だわ」


エリザベスは瞳を輝かした。



──そんな凄い犬だったとは。



「でもなぜレモン君が(うち)にきたのかしら?」


「そうさのぉ、あの子はリリーの下僕(しもべ)じゃ……緑の女神に体の障害がある場合、いつも側にいて女神を守る神獣が傍につく」


「え、リリーも緑の女神の眷属なの?」


「ああ、あの子もお主(おぬし)と同じじゃ。ただあの子はちと特殊でな、お前の補佐みたいな存在じゃな」


「補佐──?」


「ああ、しくみはようわからんが、緑の女神は100年~200年に1人生まれるのが普通じゃ。だがたまに100年に2人くらい、それも近い時に生まれてくる場合がある──姉と妹、そしてエリザベスのように娘としてな。どうもワシの観察じゃと最初に生まれた女神を補佐する為に、2人目が生まれてくるみたいじゃ」


「へえ、ならリリーは私の娘であり補佐なのね」


「そうさのぉ、最初に生まれた緑の女神が少々だらしないと、補佐が必要みたいじゃな」


モック爺は杖を持って、リズの横にあるテーブルにポンと飛んできた。


「ははは、リズはだらしないってさ!」


ついでに椰子の葉で遊んでいたハックも、宙返りをしてテーブルに着地した。


「2人共、言いたいこと言うわね!」


エリザベスは少しだけ口を尖らせた。



そうか、だから私とリリーの瞳の色は滅多に生まれないのね。


でも、そうするとロットバルトと初めて会った嵐の夜に、あいつがいっていた夢の中の“緑の女神”は君だといったのは、嘘ではなく真実だったんだわ。


ならあの男は、なぜわたくしの正体を知っているの?



──あいつは一体?


「モック爺、教えて、ロットは何者なの?」


「ロット?おお、あ奴か?」


「ええ、あの男は初めて会った時、わたくしを見て『緑の女神』ってはっきり言ったのよ。あの男はただ者ではないわ」


「そうさのぉ……あやつは魔人の子孫じゃ……」


「魔人の子孫!?」


エリザベスは驚愕した。




※ ようやくエリザベスは自分が特別な存在だと気付きました。

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