17. 王子の冷淡さ
2025/4/26 修正済
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デビュタントの出会い以来、成人となったエリザベスは、あらゆる催し物でロバート王子へのアタック作戦を開始した。
ロバート王子が出席するお茶会や、夜会やチャリティー催事等に常にエリザベスは出席していた。
エリザベスはデビュー後、たちまち社交界の若きプリンセスとなった。
クリソプレーズ王族には現在若い独身の王女がいなかったのも後押しした。
王族の王女たちは丁度、他国や他家へ嫁いだばかりだったからだ。
そこへタイミングよくエリザベスが侯爵令嬢という高い地位と、薔薇のように華やかで美しい容姿が両両相俟って、常に老若何女問わず彼女の周りを囲んでいた。
高位貴族も下位貴族全ての若い貴公子たちが、エリザベスの虜になり一度でもダンスを踊ってくれたり、薔薇のように微笑んで欲しくてたまらないのだ。
中には高慢ちきな態度が気に食わない、といって陰口を叩く者もいたが、たいていはエリザベスに振られてしまった者ばかりだった。
だが、エリザベスが本命とするロバート王子だけは、彼女にそっけない態度をとるばかり。
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エリザベスはメルフィーナ王妃が主催する茶会に呼ばれた。
場所は王宮内の広間で、高位貴族令嬢を数人ほど招待した小規模の茶会であった。
王妃が自ら選んだ令嬢たちは、息子のロバート王子を囲んで軽食をしたり、ひとりずつ王子とダンスを踊ってもらうという催しだった。
いわゆるロバート王子が、来年の王太子となる暁に備えて未来のお妃選びである。
王宮の豪華な大広間の中で軽快な3/4拍子のワルツの音楽が流れだす──。
ロバート王子はまんべんなく他の貴族令嬢含めてエリザベスとも踊ったが、彼女とも仏頂面のままで踊った。
エリザベスが踊りながら、朗らかに話しかけても『ああ…』『いや…』『別に』と語尾も短くひどくそっけない。
チラチラと踊る2人を見つめる王妃──。
ふう、どうやらロバートはエリザベス嬢もお気に召さないみたいだわ。
メルフィーナ王妃は大きな溜息を零した。
エリザベスはあの緑色の瞳といい見た目も美しく威厳もある。おまけに聡明だとも聞いた。
あの娘が最も王太子妃に適しているのだが、ロバートがあのようにそっけないとは困ったものだ。
元々王子は気難しいタイプで、他の令嬢たちにもつっけんどんな態度は変わらない。
されど、エリザベスには他の娘以上に冷淡な態度に感じてしまうのだ。
メルフィーナ王妃にはそれが、なんとも解せぬものだった。
エリザベス自身も、何度かアタックしたが、王子の冷たい態度に跳ね返された。
王子が自分をつねに拒否しているという違和感はひしひしと感じていた。
解せない、ロバート殿下は一体どんな女がお好みなの?
なぜロバート殿下はわたくしに冷淡なのかしらら?
エリザベスにとっては何ともイライラが募るばかりである。
いつしか、貴族たちの間ではまことしやかに『ロバート殿下はエリザベス嬢の猛攻に辟易しているようだ…』という噂まで流れ始めていく。
肝心のエリザベスはその噂に気付かない。
彼女は変わらずに同じように、しつこく王子に食い下がる。
彼女はどの地位の貴族の令嬢だろうが、王子に近づくことは容赦しなかった。
時には、自分によく似た横柄なライバル令嬢を人前で折檻する時もあった。
その行為は侯爵令嬢としてあるまじき品のなさであった。
エリザベス自身も徐々に焦っているのは傍から見ていても理解できた。
──だけどわたくしは負けない、何が何でも王太子妃の座を手に入れてみせる!
エリザベスは、ロバート殿下を諦めたくはなかった。




