16. クリソプレーズ王国神話
※ 2025/4/26 修正済
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エリザベスが、王子たちに話したクリソプレーズ王国神話とは、この国の創生した神々の誕生物語として昔からいい伝えられているお伽話である。
むかしむかし、世界をつかさどる天空の神々のひとりが、気まぐれに一筋の緑翡翠の雫を人間界の地上にほおり投げた。
──その緑の雫はいつしか緑の大地となり、緑の瞳をもつ女神が生まれた。
緑の女神は、廻りにいた彼女を守護する妖精たちと遊んでいると、いつしか大地から豊かな木々が生え森と泉ができ、美しい国が誕生したのが『クリソプレーズ王国』の誕生と云われている。
何百、何千年と時の経過と共に、緑豊かな大地には人が住み着きやがて村が出来た。
まだ国もできていない何千年も初期の頃──。
緑の女神は部落に住む1人の人間の若者と恋に落ちる。
2人は熱烈に愛し合った。
しかし緑の女神の外見は人間でも、女神には永遠の命がある。
その為人間の若者と一生添い遂げる事が能わず、彼女は嘆いた。
ある時──緑の女神は天上の父母神たちに懇願した。
『お父様、お母様、どうかわたくしを限りある生命を持つ人間に変えてくださいまし』と。
『娘よ、人の命は短くあっという間に死ぬ。まるで儚い泡のような生き物だ。そなたは其れでもよいのか?』
『はい、わたくしは限りある短い命で、愛する方と共存したいと願っております。それが何よりもわたくしの幸福でございます』
神々は緑の女神が余りにも懇願するので、根負けして人間に変えてあげた。
但し緑の大地を守るため、女神の力はそのまま残した。
そして人間になった女神の子孫から、時折、緑色に輝く瞳の女子が誕生した。
家族は『緑の女神からご加護を頂いた!』と、歓喜し女の子を大切に育てていく。
こうしてクリソプレーズ王国神話から伝承されていく内に『緑の瞳の女の子は不思議なパワーがある』と、先祖たちから代々言い伝えられていったのだ。
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神話には続きがありクリソプレーズ王国の初代国王には、2人の濃い金髪と蒼い瞳の美しい王子たちがいた。
兄がエルフォンで弟がイルフォンという。
ある日、突然、王国を滅ぼそうとする巨大な魔王が出現した。
城の王宮殿よりも巨大な魔王は恐ろしい形相で城を破壊し、街を焼き、人々を殺した。
王都は阿鼻叫喚と化した。
その魔王討伐の際に緑の女神の眷属から、弟のイルフォンは魔法の盾と矛を承り邪悪な魔王を退治したという、『クリソプレーズ兄弟伝説』の言い伝えがある。
その後、兄エルフォンは父王の後を継ぎ偉大なる賢王となった。
弟イルフォンは勇者となり、魔王が倒れた後も国内に潜伏している、魔王の手下である魔人たちを消滅させていった。
その褒美に緑の女神の眷属は弟イルフォンの花嫁となった。
若き勇者イルフォンと緑の瞳の乙女。
その後も緑の瞳をした貴族の娘が誕生すると、王族つながりの縁故で婚礼を結んでいった。
※ ※
以上、大昔からこの王国神話は親が子供に眠る前に子守唄のように、クリソプレーズ国民なら誰もが知っている物語である。
クリソプレーズ王国は、建国から既に数千年が経過しているが、現在の王国には妖精も魔物もいない……|とされていた。
ただし王宮殿にはクリソプレーズ大神殿があり、緑の女神像と神話に出てくる代々の国王が眠る霊廟に巨大な古い石碑が建造されていた。
王国伝説に基づき、魔王を倒した日を『建国記念日』として、年に一度“緑の日”として国民の休日としている。
従って緑翡翠女神信仰は、この王国の貴族と平民全土に隅々まで浸透している。
王国民は何か大事の時は緑の女神様に祈りを捧げて『女神の加護』を祈願するのだった。
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前述した通り、緑の女神信仰心の熱いクリソプレーズ王国民は、エリザベスのように緑眼の娘は縁起が良いと、誕生時から周りに特別な存在とみなされる。
ブラウンや、はしばみ色の瞳が多いこの国では、緑の瞳の人間はごく稀にしか生まれないからだ──。
王侯貴族ですら蒼い瞳が主流で、緑の瞳はごくごく稀である。
緑の瞳を持つ少女は、女神の眷属と称されて、建国記念日ではパレードで主役を演じることがある。
エリザベスが幼い頃から、自信家で傲慢なの自分の瞳が『緑色』というだけで、周りからチヤホヤされてきたせいでもあった──。
※ エリザベスの“デビュタント”の時、ロバート王子とエドワードに会った時に、彼女が話していたクリソプレーズ王国の神話の話です。
※ 一応この物語の核になっている御伽話です。




