149. 突然の知らせ!
※2025/6/15 修正済み
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北の辺境地帯、セレス領と隣国とは深い山と森林で遮られている。
セレス領の首都カルセドニー市。
この市街の人口2000人程、近辺の村々の人数を入れても3000人程だった。
エドワードが洪水被害の対策救援で街へ到着してから、既に一週間以上が経過した。
その間、急ピッチで救護活動を真っ先にした。
市内の病院2つの内の1つが水害にあい使用不可となり、とりあえず入院患者と医療器具だけを運びだした。
高台に仮設のテントを立てて、水害で流された多数の怪我人の治療に当たった。
重病人や老人、女性や子供を最優先して医者、看護師等、医療スタッフも数名クィーンズ市から派遣要請してきていた。
そのおかげで、地元の病院スタッフと協力して医療活動もなんとか支障なくできた。
4,5日調査した結果、死傷者は200名と多かったが、死者が数名だったのが不幸中の幸いであった。
主に亡くなったのは、1人暮らしの家にいた老人ばかりだったのが忍びない。
怪我人も骨折などの重傷者はいるが、捻挫や打撲などの比較的軽症者が多かった。
困ったのは入院患者や重病人対策であった。
病院も2つしかない街なので、重病人や急を要する入院患者は、乗り合い馬車で隣の市や村の病院へ搬送させた。
市街地を流れる川の水はひいていたが、流された家屋や家財道具などの木材、石壁や土石等のゴミ処理に人出と時間がかかった。
主な力仕事は、王宮騎士団や公爵邸の護衛騎士、地元市民、村民の屈強な男らで手分けして行った。
その中には、王宮騎士団の西団長のカーラルフィート(愛称カール)子爵も汗水たらして、ごみ処理の指揮をとっていた。
兄のカールも仕事中は、エリザベスがいう“女たらし”とか“チャライ男”のイメージは払しょくするかのような仕事ぶりであった。
エドワード公とカール子爵は、今回の水害支援で領主の邸宅で寝泊まりをするようになって、食事や酒を飲んだりする機会が多くなった。
そのおかげか、以前よりもずっと打ち解けられる間柄になった。
酒の席での話はもっぱら、エリザベスの悪口合戦になっていたのが面白い。
兄は、妹のエリザベスの幼少時代からの話の愚痴を、夫もこれまでの妻の愚痴を言い合って、お互い共通の悩みを慰めあっていた。
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家を流されたり住めなくなった被災者たちは、とりあえず公民館や領主や貴族や市長の邸宅を仮宿として招き入れた。
食糧に関しては、王都とクィーンズ市からの救援物資と、被害が少ない村や山側の市民たちからの支援で賄った。
今後、川の氾濫で起こる外水氾濫対策は、領主代行を立てておいおい治水対策が課題となった。
このままでは、また街や村が同じ水害の被害にあうのは必須だったからだ。
今までのセレス領主や、カルセドニー市長などの役員の怠慢がもたらした人災ともいえよう。
エドワードは2人を含む役職ある者たちを、近いうちに更迭することも検討に入れた。
だが今回は、彼等も水害の被災者でもある。
流石にエドワードは恩情を与えて、もう少し彼等に猶予を与えることにした。
そんなこんなで、当分半年くらいは領主のエドワードも、対策会議に出席するようになるだろうとの見解だ。
川付近の市街地なので、治水対策をする為に資金の援助等、問題が山積みではあるものの、最小限の被害で済み、ひとまずエドワードは安堵した。
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秋の夜、エドワードはセレス領主の邸宅が拠点となった執務室にいた。
遅くまでしていた業務の疲れが出たのか、外へ出て煙草を吸いながら、夜空の煌めく星を見つめていた。
北の大地は8月も半ばを過ぎると、草むらから鈴虫の『リーンリーン』と鳴く声が聞こえてくる。
──エリザベスは、公妾はどうなっただろう、王に直接談判して了承を得たのだろうか?
エドワードは煙草を深く吸いながら、1人妻のエリザベスを想った。
この4,5年別居してからエリザベスは、1年の大半を王都で過ごしている。
今夏の間だけしか、妻はセルリアン領にいないのだ。
とはいっても、ここ何年も儀礼的な夜会や茶会のみ、夫婦一緒に行動する冷えた関係ではあったのだが。
あのとらえどころのない美男子ロットバルトが現われてから、妻の自分への態度が、以前と変化してきたのを、エドワードもどこか感じていた。
だが不思議なことに、彼のおかげで夫婦の関係が修復してきたように思えるのは、気のせいだろうか?
それにしても疲れた。早く家へ帰ってエリザベスの愛らしいリズ・スマイルが見たい!
既に公爵領本邸を出てから1週間以上家を留守にしている。
エドワードは正直、妻が恋しくて仕方がなかった。
その時、屋敷から一人急ぎ足で近づいてくる男がいた。
『エドワード公、ここにいましたか。大変な事が起こりましたよ──!』
『……慌ててどうしました?』
慌ててやってきたのは、エリザベスの兄のカール子爵だった。
片手になにやら手紙を握りしめている。
月の美しい夜だったので、外でのカール子爵の顔が良く見えた。
銀髪で蒼い眼の、普段は美青年といえる顔立ちだが、珍しく髪を振り乱した険しい形相だった。
『どうしました、なにか事件でも起きましたか?』
エドワードは何やら嫌な予感がした。
『大変です、青い城の部下から伝書鳩の連絡がきたんですが、妹……いえエリザベス夫人が、王太子妃殺害未遂の疑いで青い城に拘束されたと。並びに王侯警察が調査する運びとなり、夫人が王都へ搬送されたとの知らせがありました』
『!? なんと、そんな馬鹿なことがある訳がない、とうてい信じられない!』
エドワードも顔面蒼白になった。




