124. 変装した2人とアンドレ登場
※ 2025/6/11 修正済み
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青い城の中にある、とても広い馬小屋。
馬小屋といっても、此処はお城の招待客や、王族ご用達の馬車や馬たちが休憩する大厩舎である。
厩舎は、王族と招待客と区分けされている。
招待客の一角に、エリザベスの御者のネロとマルコが、馬車内でポーカーをしていた。
エリザベスが城へ到着してから、かれこれ約3時間ほど経っており、既に夜になっていた。
『兄さん、腹減ったなあ~』
『ああ、今日は1~2時間と聞いていたから、弁当も持ってこなかったからな』
『どうしたんだろう、エリザベス様、もうすぐ8時になるよ、少し遅すぎやしないか?』
『そうだな、もう大分たつな……』
『なあ、もしかしてお城の馬車係りが連絡し忘れてて、エリザベス様が正面入口で馬車が来るのを、待ちぼうけてるかもしれないよ、俺、ちょっと正面まで見てこようか?』
マルコが腹を空かせたようで、しびれを切らしている。
『駄目だ、俺たちはただの御者だ、正面入口とはいえ、馬小屋以外の宮殿内に入ったら打首になる。もう少し待つんだ、王太子妃様と食事してるかもしれん』
兄のネロは、弟と違ってとても辛抱強い。
『ちぇ、わかったよ。だけど兄さん、ポーカーはいい加減飽きたな。魔女抜きでもたまにはするか?』
『ああ、分かった……あ、エリザベス様か!?』
遠くから、エリザベスらしき娘が、やって来るのに気が付くネロ。
『あ、兄さん、そうだよ。あ、駄目だ、すぐにトランプしまわなきゃ!』
『ああ、そうだった、ヤバい!』
と二人は、素早くトランプを片付けた。
※ ※
ようやくエリザベスが、お供の?男と一緒に馬車までやってきた。
『ネロ、マルコ、大分待たせてごめんなさいね~』
息を切らして、早足で歩いてくるエリザベス。
『はい、エリザベス奥様、お待ちしておりました』
二人は、帽子をとってエリザベスを迎えた。
ん? だが、何だかいつものエリザベス様とようすが変だな?
とネロとマルコは内心思った。
気になって、すかさずネロが訪ねた──。
『奥様、今日はなんでわざわざ馬小屋まで来なさったんです?──いつもは正面玄関で、馬車を廻す従者が来る役目のはずですが、直接、奥様とは……』
『ああ事情があったのよ。ふふ、実は城からこっそりと抜け出してきちゃった!』
『はあ?』
『ふふふ、お前たち、わたくしの姿をみて分からないの?──ほら良~く見て頂戴な!』
ネロとマルコは、いわれた通りじっくりとエリザベスを見つめた。
『あ、あれ──?』
『ああ、御召し物が違いますね』
二人は、ようやく気が付いた。
エリザベスは、木綿の長袖の白いブラウスに、水色で袖なしの膝下ワンピースだ。
その上に、白木綿のエプロンを付けていた。まるで村娘のような出で立ちである。
足元もハイヒールではなく、平民の娘が愛用するフラットな木靴だった。
おまけに銀色の髪の毛はアップにしたのか、白木綿のボンネットで隠されているから分からない。
ただ、顔だけはエリザベスの顔立ちだった。
化粧はしていなくて、濃い緑の瞳で本人だとわかった。
『あひゃ~奥方様、そのお姿は一体どうなさったので……?』
マルコが、堪らずに聞いた。
『これから、ホームタウンへ帰るけど、もう遅いからお腹空いたでしょう。だから帰る途中で街へ寄って屋台でね、ご飯をネロたち皆と食べてから帰ろうと思って、ドレスを脱いで村娘の服を着たのよ』
『ええ、奥方様が屋台……ですか?』
ネロがたまげんばかりに驚く。
『そうよ、だってお祭りの屋台の串焼きが、とっても美味しいってこの人がいうんだもの、食べて見たいじゃないの』
エリザベスの隣にいる背の高い、地味系の商人風の男を指さすエリザベス。
『やあ、久しぶりだね、マルコ君とネロ君!!』
帽子をとり、黒い口髭をつけた、丸い大きなセピア色の眼鏡をかけた若者が、二人に挨拶をしてきた。
『あ~、あなたはロットバルト様!』
ネロが、ロットバルトに気が付いた!
ネロは、ロットバルトの愛想のよい高めの声の、独特な喋り方に気が付いたのだ。
『え、ロットバルト様?』
マルコは眼鏡姿のこの男が、ロットバルトとは最初は全く気が付かなかった。
『マルコ君、肩の怪我の具合はその後どうかね。痛みとかはないかい?』
ロットバルトは、マルコの方を向いて話しかける。
『へ~あいや~失礼しました。ロットバルト様。その節は治して頂き、誠にありがとうございました、はい、肩はもうなんともありません!』
マルコは、ロットバルトと分かるや否や、直立不動で畏まった。
『ははは、君はすぐにやせ我慢するからな。だがマルコ君は、体力と筋力が素晴らしかったから、もう大丈夫かもしれないな』
『あ、すみません。良くお分かりで、以後気を付けます』
もう一人、ロットバルトの隣に、同じくらい背丈の若い男が、大きな衣装ケース&トランクケースを持って佇んでいた。
一見、静かで目立たない印象の男だ。
『あ、それからもう一人紹介するわね、彼はロットバルトの従者で、アンドレーオ・ネフライト子爵よ。
彼も一緒に馬車に同行するわ、荷物は私のものよ、よろしくね』
エリザベスが男を二人に紹介した。
『わわ、子爵様でしたか。御者のネロと申します。お見知りおきください』
『同じくマルコと申します。子爵様、よろしくお願いします』
ネロとマルコは、男に深々とお辞儀をした。
『よろしく。私も君たちと同じだ。子爵といってもロットバルト様の従者だから、畏まらなくていい。気軽にアンドレと呼んでくれ』
と、ニコリともせずに淡々と挨拶をする。
彼もまた、裕福な商人風だが、茶とグレーの格子縞模様の地味な色の背広姿であった。
だが良く見ると貴族らしい、目鼻立ちが整っている精悍な顔立ち。
サラサラと肩まで伸びた艶のある髪を後ろで縛り、その髪と鋭いナイフのような切れ長の瞳も、黒曜石の如く漆黒だ。
その瞳がキラキラと、ガス燈の灯りに反射してとても美しかった。
──ガーネット王国の男性は黒髪が多いのだろうか。
ロットバルトといい、クリソプレーズの男性の美男とは、また違うエキゾチックな魅力があるわね。
エリザベスは二人の美男子を比較して見ていた。
色眼鏡をかけて、髭面の変装姿のロットバルトの隣にいると、従者のアンドレの方が主君に見えた。
それほどアンドレは美しい男であった。
だが、この美しい男は見た目とは裏腹に、陰で奸計を張り巡らせる残虐さがあった。
この物語とは関係はないが、遠い未来、ガーネット王国の新王となる、ロットバルトの右腕の参謀となる人物でもあった。
※ 御者のネロとマルコ兄弟は、なぜか描きやすいです。自分の好みなのかも。




