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クリソプレーズの瞳 ~ルービンシュタイン公爵夫人は懺悔して夫と娘を愛したい!  作者: 星野 満
第4章 エリザベスのライバル現る

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121. マーガレットの変貌(1)

※ 2025/6/6 修正済み

※ ※ ※ ※




クィーンズ市街地区にある王宮の古城、通称青い城。


マーガレット王太子妃の居間内。

王都の王太子妃の部屋と同様に、壁紙も調度品もアイボリー色で統一している落ち着いた部屋だ。



エリザベスとマーガレット王太子妃が、お互い向かい合って神妙なお面持ちで、ソファに腰をかけていた。



『お話は分かりました。要するにお姉様は、御自分がロバート殿下の公妾候補の勅令を取り下げるように、私から王様に伝えて欲しいというのですね』


マーガレットは、紅茶のカップを手に持ちながら、再度確認をした。


『ええ、そうですわ。どう考えても王太子妃の姉のわたくしが、公妾になるなんて理不尽は許されません。ましてや既婚者で夫も子供もいる身です──実は以前も王妃様から公妾候補の依頼を受けましたが、その時に、はっきりとお断り申し上げたのです。なのに今度は王様の勅令なんて……王太子妃様もさぞやこの話を聞いて憤慨されたと思います。わたくし、なんといってお詫びしたらいいのか、本当に申し訳ないと思ってますわ』 


エリザベスは、必死になってマーガレットに懇願した。



──ああ、どうかマリーが話を聞いて、ショックを受けてませんようにと。



『ウフフ、お姉さまどうか落ち着いてくださいな。それから先ほども言いましたけど、今は2人きりですよ。メイドも下がらせました。(かしこ)まらずにもっと、普段の姉妹同士の会話をしましょうよ、ほら、お茶も冷めてしまいますわ。どうか召し上がれ……』


といって、マーガレットはエリザベスに、出された紅茶を勧めて自分も静かに飲む。



『そ⋯⋯そうね。わたくし今日は、夫から王命を聴いて驚いてしまったのね。少し焦ってるかもしれないわ。それではマリーと呼ばせてもらうわね』


エリザベスも出された紅茶に砂糖を3杯もスプーンに掬った。忙しげにカップに入れてかき混ぜる。


いつもなら砂糖は1杯しか入れないのに、本人は気が付いていない。


エリザベスはよほど緊張しているようだ。



『いただきます』


『どうぞ、お姉さま』



マーガレットは落ち着いて、紅茶を飲んでいるエリザベスをじっと見つめていた。



『実は、勅命の件だけど、既に王様からはお姉さまが公妾候補になっていいかどうか、私にもお伺いを立てられましたの、だから既にこの件は存じておりました』


『え、王様がマリーに!』

『ふふ、驚きました?』


『おお、なんてことでしょう、酷すぎるわ、ああマリーごめんなさい』


エリザベスは両手で口を覆う。



『あら、何故お姉さまが謝りなさるの?』


『だって、そんな酷いじゃないの!』


『いいえ、彼等にしてみれば、お姉さまの外見や賢さが、公妾に相応しいから決めたのですよ──最初は私も驚きましたけど。王妃も殿下も、更に王様までお姉さまを公妾に推薦するんですもの、王太子妃の私も従わざるを得ませんわ』


『マリー、あなたそんな……』



『候補を3名を立てたのも建前だけですわ。他の高位貴族への礼儀であって多分形式だけのものでしょう。初めから王様たちはお姉さまを公妾にするつもりなのよ』


マーガレットは公妾たちを冷静に分析していた。



『マリー、あなたはそれでいいの?』


『ええ、()()()()()()()()()()。だってお姉さまは昔から、王妃になりたくて独自で妃教育まで実家でしてたし、ロバート殿下の御子を授かれば公妾といえども、王妃にもなれる立場ですからね──実は私からも王様に「王妃を夢見ていた姉ならば、公妾になりたいのは山々だが、私に気遣って辞退したのではないか」とも話しておきましたわ』



『おおマリー、あなたったら何故そんな馬鹿なことをいったの?』



『馬鹿なことですって!──ふふお姉さま、聞いてくださいます?──正直、私は今迄は王妃の地位なんて、これっぽっちも欲しくなかったのです。王太子妃になったのも、ただただロバート殿下の愛に応えた結果ですわ!』


マーガレットのかぼそくて小さな声が徐々に熱を帯びていく。



『ええ、知ってたわよ。あなたは、そんな野心をもつ娘ではない。殿下をとてもお慕いしてたのよね』



『その通りです。ですが今はもう完全に諦めました。あの男は昔とは違う。もう以前とはすっかり変わられた。私を見つめる眼はまるでアイスブルー。それに……殿下の想い人は最初からお姉さまでしたのよ!』



『?! どういうこと?』



『ロバート殿下はね、子供の頃にお姉さまに振られたらしくて、当時お妃候補を王妃に打診された時、お姉さまだけは絶対に、王妃にしたくなかったんですって──それで腹いせに妹の私を娶れば、お姉様の矜持をへし折れると思ったらしいわ』



『なんですって──!?』


エリザベスは驚愕した。



『ふふ、その驚きだと、お姉さまも初めて知ったのね。この事は王妃様も殿下の側近たちも全員知ってるわ。わたしは、殿下にとって(てい)の良い復讐のお飾りだったに過ぎないのよ』


マーガレットのブラウンの瞳は揺れ動き、その声は少し震えていた。



『そんな……』




──エリザベスは、頭が真っ白になった。


()()()()殿()()()()()()()()()()()()



子どもの頃、わたくしが振ったって?

そんな記憶覚えてないわよ、殿下といつ会ったっていうのよ!


とても信じられない⋯⋯


あの頃ロバート殿下は、わたくしと会えばいつも仏頂面で邪険にしてばかり。


独身の頃は、ダンスだってお義理で1度か2度くらい。


でも合点がいく。


殿下は毎回あてつけの様にマリーと何度も踊って、周りにわたくしを恥をかかせたのは、全てわざとだったってこと?


そんなあ⋯⋯。



ああ、でも結婚式の時のわたくしを見つめた、ロバート殿下の蒼い瞳の切なさは確かに……


仮面舞踏会で踊った時の見た事もない彼の笑顔は本物だった。




エリザベスの脳裏には、走馬灯のように、ロバートの不可解な行動が思い起こされていた。



『いかがです、お姉様。とっても滑稽でしょう?──実は私も、公妾の話が出た時に初めて知りましたの。その時から、ずっと殿下をお慕いしてた私の気持ちは、粉々に砕け散って見るも無惨に叩き落とされましたわ』


『……マリー』



『お姉さま、お分かりになりまして? その時私は()()()()()()()()()、殿下も王妃も、自分の回りの王宮の冷酷な人たち全員が、とても憎くてたまらなかった。そして誰よりもお姉さま、あなたを呪った!』



『…………』



『ええ、お姉さま、正直に申し上げますわ。私はお姉さまが一番憎かった! 何でもできていつもチヤホヤされて私を馬鹿にするお姉さま。そう、私は子供の頃からずっとずっとあなたが大嫌いだったのよ!』


マーガレットは真っ直ぐにエリザベスを指さした。



『マリー……』



エリザベスの胸は張り裂けそうだった!



そこには、エリザベスが一度も見た事のないマーガレットがいたのだ。


今までの病弱で(はかな)げで気の弱そうなマーガレットではない。



エリザベスを睨むマーガレットのブラウン色の瞳は怒りで爛々と燃えていた。


頬がこけて痩せ細った顔は、険しい魔女のようにエリザベスには見えた。


マーガレットはゆっくりと立ち上がる。


マリーの恐ろしい容貌と、黄色の長袖のロマンチックドレスの姿が、酷く滑稽でアンバランスにエリザベスには思えた。



『お姉さま、私、ここでお姉さまに宣戦布告を致しますわ。たとえあなたが公妾になられても、王妃の座は絶対に渡しません。そしてお姉さまの夢は永遠にかなわないと断言致しますわ──なぜなら今、私のお腹には男の子が宿っているのですから!』


『男の子!?』


エリザベスは、思わず耳を疑った!




※ マーガレットの、溜まっていた怒りがついに放たれました。

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