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クリソプレーズの瞳 ~ルービンシュタイン公爵夫人は懺悔して夫と娘を愛したい!  作者: 星野 満
第4章 エリザベスのライバル現る

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110/241

107. 帰りの馬車の中で(1)

2025/5/26 修正済み


※ ※ ※ ※




ジュディの祝賀パーティーは幕を閉じた。


ラフマニノフ家を後にする、ルービンシュタイン公爵夫妻。

帰りの馬車の中、エドワードとエリザベスはお互いに無言が続く。


2人共、今日はとても長い一日だった──。


そのため、お互い相手に気を使う余裕がなかった。

様々な出来事がありすぎて、それぞれ思いの中に意識が集中しているせいで無言になる。



エリザベスは先ほどの祝賀パーティーのことを振り返った。



ジュディへ手作りの花束は贈呈はできたが、『愛の夢』は残念ながら、弾いてもらえなかった。


その理由が、まさかジュディ様が夫のエドワードに、情熱な片恋をお持ちだったとは! 

あれほどまでに延々と思いを述べられたジュディ様。


それも本人でなく、妻のわたくしに告白したのだ。


この意義を、ジュディ嬢の気持ちを──

エリザベスは深く汲み取った。



──ジュディ様はわたくしに、“エドワードと娘のリリーを不幸にするな”と伝えたかったのだろう。



とてもショックだった⋯⋯わたくしよりも彼女の方がよっぽど旦那様に相応しい女性だとも思った。


本当になぜ世の中はこうも、ままならないものなのかしら。




ふと、エリザベスは物思いに耽っている目の前の夫、エドワードを見つめた。



──? 旦那様、どうしたのかしら?



祝賀会で叔父の伯爵とお酒を飲んだといったが、今、目の前のエドワードは()()()()()には見えなかった。



──もともと旦那様はお酒は余り強くはない。

わたくしより弱いくらい。

金髪サラサラ髪が少し乱れてる。蒼い目はとても虚ろだけど、なんだかくたびれた色気があった。



──変ね? いつもなら2人になると()()わたくしにはそれなりに気を使うのだけど。


さっきから見てると『はあ~』と大きな溜息ばかりついている。


きっと余程のショックがあったのね。何かとてつもないショックな⋯⋯



『あ、わかった!!』


エリザベスはピンときて、思わず大声をあげた。



『ん?』

『ふ、旦那様、さては()()()()しましたね』


エリザベスはニヤリと微笑んだ。



『え!? な、何を人聞きの悪い!』

ギョッとするエドワード。


『嘘、旦那様は嘘が下手よ。さては、ジュディ嬢とわたくしのバルコニーの会話を聞いたんでしょう』


『エリザベス!』

『もう、正直におっしゃって』

『…………』

『旦那様~!』


エリザベスが地団駄踏む。


エドワードは観念したのか大きく溜息を吐いた。

『ああ、そうだ。でも盗み聞きではない。たまたま聞こえてきたんだ』


『どこまで聞いたの?』


『どこまで……って。その……ジュディが私のことを……』


『え、良く聞こえませんけど?』


エリザベスはわざと聞こえない振りをした。



『ジュディが私を愛してるというところまでだ!』


エドワードはうんざりした顔をして大きな声でいった。



『おお、恐!!』

『あ⋯⋯悪かった。君が私をからかうから、つい』

『ふふ、わたくしこそごめんなさい』

『いや、私が悪かった』

『…………』

『…………』


お互いしばし無言となる。



少ししてエリザベスが沈黙を破った。


『旦那様はジュディ嬢の気持ち、全く知らなかったのですか?』


『⋯⋯ああ、お恥ずかしながら、今日まで全く気付かなかったよ。あの子は自分のことを兄の様に慕ってるだけだと思ってた』


『それで──?』

『それでって何が?』

『これからどうするの?』

『どうするって⋯⋯何をだ?』

『もう、とぼけないで。ジュディ様の気持ちに気づいたなら、なにかしら行動しないといけないんじゃないの?』


『え、だってジュディからは直接何も告白されてないそ!今回、たまたま私が聞いただけだろう。私の方から何かしら行動する必要があるか?』


『そうだけど、ジュディ様がお可哀そうでしょう』


『可哀そうって……さっきから君は一体何なんだ。仮にも君は私の妻なんだぞ。普通なら夫を愛してるって言われたら、怒るんじゃないのか?』


『まぁ、他の女性だったらそうだけど、ジュディ様の旦那様への一途な気持ちを、直接聞いたら、そんなことは吹き飛びましたわ、旦那様もお聞きになったでしょう。あれこそ究極の片思いですわ。美しいロマンスですわ!ああ無償の愛だわ!』


エリザベスはロマンチックな女優気取りなのか、あえて演劇的なポーズをとって目をキラキラと輝かせた。



『はん、無償の愛って⋯⋯君は凄く変だよ』

『旦那様、これは私の提案なんだけど、怒らないで聞いてくださる』


エドワードの“凄く変だよ”といったのに、エリザベスはその言葉など、気にもせずにスルーする。


『何だね──』と仕方なくエドワードは聞き返す。


『あそこまで惚れられたら男が(すた)りますわ、ジュディ様をいっそ旦那様の側室にしたらどうかしら?』


『は?』


エドワードは、一瞬だけ真の抜けた呆けた表情になる。


『エリザベス、君は正気なのか?馬鹿なことをいうもんじゃない!』


『もう、怒らないでと最初に言ったのに……』


『これが怒らずにいられるか! 私には君がいるのになぜ妻の君が、ジュディを側室にしろなんていうんだ!』


『あら、だって高位貴族の殿方なんて愛人はおろか、側室なんて何人もいるでしょう』


『私は違う、妻は君一人で十分だ』


エドワードは仏頂面で応えた。


彼にしてみれば、家に()()が、2人もいたら何が起こるかたまったものではない。


エドワードは気性の荒い妻を知っているので、尚且つジュディまで同じ家で暮らすのこと等、心底恐れた。



『でも、それではジュディ様は一生独身よ、旦那様はそれでもいいの?』


『そんなことはない、ジュディはまだ21歳だ。その内、簡単に私など忘れるだろうよ』


『あ〜らあら、心にもないこといって!』


『やめろエリザベス、一体どうしたんだ、そんなに()に側室を娶らせたいのか!どうせ()なんか愛してないから、平気でそんなことをいうんだろう?』


エドワードは本当に腹を立ててるようだ。


『まあ、なんだか()()()いいかた旦那様らしくない……』


──旦那様はご自分のことは常に『私』といって上品なものいいなのに。


殿方が『俺』という言い方をエリザベスは余り好きではなかった。



『あ、すまん。()()()()()と言葉が荒くなる』



『旦那様、私正直に申し上げますとね、男性を愛するってよく分からないのよ、旦那様は優しいし男前だし安心感もある。旦那様のこと好きだと思ってますわ。でもジュディ様のような情熱的な気持ちはわたくしには持てないわ』


『はあ?──いまさら正直にいわなくてもわかってるよ、そうでなければ君は別居などしないだろう』


『ええまあそうですよね。あ、でも誤解しないでくださいね。わたくし、恋愛不感症とかではなくてよ。恋愛小説も大好きだし、旦那様のような麗しい殿方を見るとドキッとはするし、憧れはまだありますの。でも……』


『でも、何だ?』


『でも、現実にわたくしは独身時代も取り巻きの子息は大勢いたけど、一人も特別に愛したことがないのよ。旦那様とだってこういっては何ですけど、両家同士が決めたから嫁いだだけですもの』



エドワードはエリザベスの言葉を聞くうちに、だんだん青筋が立ってきた。


『ハハ、君は()()()()()人を傷つけるの好きだな。私の気持ちはジュディの手紙で知ってるくせに!──それとも何かね、ジュディは気の毒だけど、わたしはちっとも気の毒ではないのか?』


『ま、何を()ねてますの?』

『拗ねてなどいない、事実をいってるだけだ!』


『あら、男と女では違いますわ。旦那様だってジュディ様のように、献身的な側室が傍にいた方が何かといいでしょう、とわたくし考えたのですわ』



『エリザベス、君は本当にそれでいいのか? ならば私がジュディと目の前で()()()()()()も平気なんだな!』



『あ、さすがにそれはちょっと……実際、今日わたくしジュディ様があなたに抱きついた時、嫉妬したのよ』


『へええ、君が私に嫉妬ねぇ……』


エドワードは白々しいといわんばかりだ、とてもではないが信用していない。



『あら誰だって、()()()()()を取られるのは嫌なモノよ。一応旦那様は私の夫なんだから』



『アハハ、わたしは君の()()だからね、君にとって夫など()()()()()()に過ぎないからな』


突き放し気味のエドワード。


『いいえ、そこまでは⋯⋯でも、このままだとジュディ様は恐らくあなたをずっと愛し続けてしまうかもしれませんわ』


『ああもうわかったよ! 一度ジュディと対面で話し合ってみるとしよう──だがはっきりいっておくが、私はジュディを側室にするつもりは毛頭ない、それに彼女は他国の王族からもプロポーズされてるんだ、君は知らないだろうが、ジュディには崇拝者がウヨウヨいるんだよ』


『まあ、そうなのね。それは素敵じゃありませんの!』


エドワードは不貞腐れたように

『ふん、君だってまだ王妃になれるチャンスがあるといったら、王妃になりたいだろう』


『え、だって妹のマリーがいるじゃありませんか!』

『いや⋯⋯実は君に公妾の話があがってるんだ』

『公妾、なんですのそれは?』


エリザベスはびっくりする。


『妾は妾でも特別な公妾だ。側妃の中で地位が一番高くて、なおかつ王妃に子が出来ない場合、公妾が世継ぎを産めば、そのまま王妃を降下させて公妾から王妃になれる』


今度はエリザベスが呆けた顔になった。

『旦那様、私はあなたの妻よ、つまり私と離婚するってこと?』


『いや、公妾は婚姻しててもなれる。兼用できるんだ。ただ王太子との間に世継ぎを産んだら王妃にもなれば、私と離婚もできる』


『んまあ⋯⋯旦那様の方こそ信じられないわ! 女を馬鹿にしてませんか?一体誰がわたくしを公妾にしようとしてるの、ロバート殿下?』


『いやメルフィーナ叔母上だ。先日、王妃に打診された』


『メルフィーナ王妃様ですって!?』



エリザベスは突然のエドワードの話に困惑した。





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