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新入生歓迎パーティー①

 綺麗に結われた髪、派手すぎず私を引き立たせている化粧、少し濃い空色のドレス。

 ミアの用意してくれた物は全て今の私を引き立たせてくれるものだった。

 さすが腕の良い侍女である。


「とても良いわ。ドレスも私好みだしアクセサリーにも合っているわね」

「アリアドネ様をより輝かせるために吟味致しましたので、お気に召して頂けて何よりです」

「助かるわ。ありがとう」


 支度してくれたミアに礼を言うと、部屋にノックの音が響いた。

 応対した彼女はテオドールが迎えに来たことを私に告げる。

 玄関ホールへと向かった私はソワソワしている様子を見せているテオドールの前に出る。


「お待たせ致しました」

「ううん。全然待ってないよ」


 私の顔を見てテオドールはパッと表情を明るくさせる。

 やはり感情がすぐに顔に出る人だ。

 そんな彼は私を見つめて更に目を細めている。


「誕生日に贈ったイヤリングをしてくれたんだね。とっても似合ってる」

「ありがとうございます。今日のテオ様の装いも素敵ですよ。髪も上げていらして大人っぽい雰囲気ですね」

「本当? 嬉しいなあ」


 テオドールは頬を赤らめて照れている。

 なんだろう、物凄く頭を撫でくり回したい衝動に駆られる。

 こうも感情表現が豊かな男の人は見たことがない。

 世間を知って純真さを失わないで欲しいと願うばかりだ。


「それと、素敵なイヤリングありがとうございます。どのドレスにも合うのでお気に入りになりそうです」

「本当に? アリアに合うと思って選んだから気に入ってもらえて良かった」


 ニコニコと笑っているテオドールだったが、壁の時計に目をやると「あ……」と声を出した。


「……本当はもっとここで話していたいけど、そろそろ行かないとね」

「そうですね。参りましょうか」


 二人で寮の外に待機させてあった馬車に乗り、会場へと向かう。

 新入生歓迎パーティーが行われるのは学院の敷地内だが、外れの方に位置する迎賓館だ。

 少し距離があるので馬車で向かう必要がある。

 そもそも学院の敷地が物凄く広いのもあるけれど。

 などと考えている間に馬車は迎賓館へと到着する。

 私達は最後の方に来たようで人はそれほどいなかった。

 馬車から降りた私はテオドールの腕に手を回して、彼を見上げる。

 すると照れたようにはにかんだ彼と目が合った瞬間、私の心の奥がきゅうっと締め付けられるような感覚を覚えた。

 これはなんなのだろうかと疑問に思ったが、扉の前に立つ使用人が扉を開けたためすぐに意識を切り替える。


「……学院内だというのに相変わらず豪華だこと」


 扉が開いて会場内の景色が目に飛び込んできて、思わずそう呟いてしまった。

 すぐにテオドールの存在を思い出して口を噤む。

 小声だったからか彼には聞こえていなかったようで、特に疑問をぶつけられることはなかった。

 ……それにしても、生前のときよりも更にパワーアップしていないか?

 考えてみれば皇太子もいるし四大名家の子息令嬢がいる代だから余計に気合いを入れたのかもしれない。

 何にせよ、退屈せずに済みそうだ。


「まずは皇太子殿下の元に参りましょうか」

「あ、そうだね」


 どうやらテオドールは会場の雰囲気に圧倒されて緊張しているようだ。

 彼もあまり貴族の集まりに参加していたわけではないから、勝手が分からないのかもしれない。

 出しゃばらないように気を付けながら、流れを分かっている私がそれとなくリードするべきだろう。


「皇太子殿下は……ああ、あちらにいらっしゃいますね」


 皇太子を見つけるのは簡単だ。

 人だかりが出来ているところに行けばいいだけなのだから。

 そちらの方にテオドールと二人で歩いて行くと、生徒達に順番に挨拶をされている皇太子とセレネがいた。

 セレネは彼女の雰囲気に合うピンク色のドレスを着ており、髪も軽く結われていつも以上に可憐さが際立っている。

 皇太子の隣に並んでいても遜色がない。

 さすが私の妹だ。


「おや、アリアドネ、それにテオドールも。姿が見えないからどうしたのかと思っていたよ」

「少し到着が遅れてしまいまして……。ご挨拶が遅くなって申し訳ございません」

「いや、トラブルに巻き込まれたわけでないのなら大丈夫だ。これだけの人が集まる場は初めてだろう? 楽しんでくれ」

「ありがとうございます。このような場は不慣れなもので圧倒されておりますが、彼女と二人で楽しい思い出を作りたいと思います」


 先ほどの緊張など一切感じさせないテオドールに四大名家の子息としての教養と余裕を感じさせる。

 私が気を回す必要などなかったなと思う。

 彼はいつだって期待に応えようとする男なのだから。


「二人で、か。フィルベルン公爵家とリーンフェルト侯爵家との結びつきが強くなるのは喜ばしいことだ。親しくしているようで私としても嬉しいよ」

「皇太子殿下からのお言葉、ありがたく思います」


 テオドールと皇太子の会話を聞いていた周囲の子息令嬢達がざわめき出す。

 セレネは周りに見えないようにテオドールに対してウインクしながら親指を立てていた。

 ……後で注意しなければ。

 テオドールもテオドールだ。周囲に人がいる状態で言うのは効果があるのは身に染みて分かっているが、まさかやられる側になるとは思ってもいなかった。

 注目の的になることは生前から慣れてはいたものの、こうしたことはなかったから初めての体験である。

 けれど、不思議なことに嫌だとは微塵も思っていない。

 本当に不思議だ。


「では、失礼致します」


 考え込んでいる間にテオドールと皇太子の会話は終わったようで、私はテオドールに連れられてその場を後にする。


「勝手なことを言ってごめんね。嫌だった?」

「勝手なこと?」

「うん。その……二人でって言ったこと、とか」


 皇太子の前では自信に溢れていたというのに、二人になった途端にいつものテオドールに戻っている。

 そのギャップに思わず笑みが零れた。


「気にしておりません。それに嫌でもありません。今日は私がテオ様のパートナーなのですから」

「今日は、のところが気になるけれど追求するのは止めておくよ」


 落ち込みたくないし、とボソリと呟く声が聞こえたが、それに突っ込みを入れるのも野暮である。

 そうこうしている内に会場内に音楽が流れ始めた。


「ちょうど良いタイミングだね。……アリア、僕と踊ってくれる?」

「ええ。私で良ければ是非」


 差し出されたテオドールの手を取り、私達は開けた場所へと移動する。

 皇太子とセレネの姿もあって周りは私達二組の一挙手一投足に注目しているのが分かった。

 微笑ましい目でセレネを見る周囲の目とは対照的に私には少々不躾な視線が送られてくる。


「あの人達、まだアリアが妹君から僕を取ったとかって思っているのかな? 馬鹿らしいよね」

「セレネがテオ様と仲良くしたいと行動していたときのことを覚えていらっしゃるからでしょうね」

「二年近く前のことだよ? 今の妹君を見ればそれは違うって分かると思うんだけどね」


 言いながらテオドールは私に不躾な視線を送る子息令嬢達を睨み付ける。

 普段は物腰柔らかで穏やかな彼から放たれる怒りに子息令嬢達は一斉に視線を外した。

 パートナーに誘ったときに言った私を守るという言葉を実行してくれたのだ。

 自分でなんとでも出来るのだが、こうして目に見えて守ってくれるというのはなんとも心強く安心するものである。


「もう余所は見なくていいからね。折角のパーティーだもん。楽しい思い出でいっぱいにしよう」

「それは私だけではなくテオ様もです。お互いに楽しい思い出にしましょう」

「うん」


 見つめ合いながら微笑み合う。

 音楽に合わせてダンスが始まるが、テオドールのリードは非常にやりやすい。

 強引さがなくて私に合わせてくれている。

 無論、私もダンスの経験はあるのだが、肩の力を抜いて踊れる相手は彼が初めてかもしれない。

 それに、ここまで密着しながら相手の顔を間近で見たがテオドールは随分と背が高くなったと思う。

 体つきもしっかりしてきたし、もう子供だなんて言えない。

 私を見て優しげに微笑むテオドールの顔を見ていると安心すると同時にどこか落ち着かない気持ちになる。

 なぜか彼から視線を外せない。


「アリアは人前で踊るのは初めてでしょう? すごく上手いね。リードが楽でやりやすいよ」

「あら、テオ様もですか? 私もです。テオ様が合わせてくれているのですよね? ありがとうございます」

「合わせるなんて大層なことしていないよ。僕だって慣れているわけじゃないし、緊張しているんだから」

「緊張しているようには見えませんよ。とてもお上手で安心します」

「本当に?」


 途端にテオドールの表情が緩む。

 こういうときに感情が顔に出る彼が私は好きだ。


「ずっとアリアと踊りたいって思っていたから、すごく練習したんだよ。だから上手で踊りやすいって思ってくれて良かった」

「ありがとうございます。私もテオ様と踊れて楽しいし嬉しいです」

「僕と同じことを思ってくれてるなんて……。幸せだなぁ」


 私の言葉でテオドールが幸せを感じてくれたことに胸が温かくなる。

 生前から含めてこういう感情になったことがないから、これが何なのか分からない。

 けれど不思議と嫌な気持ちにはならなかった。


「……もうじき曲が終わるね。もっと踊りたいのに残念」

「これからも機会はあります。また私と踊ってくださいね」

「うん。もちろん」


 お互いに微笑みあい、私達はダンスの輪から外れた。

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