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きらめき双子と影の魔法使い

作者: 倉田恵美
掲載日:2025/12/11


 むかしむかし、虹のふもとに抱かれた小さな谷に、「きらきらの村」がありました。 

 朝になると、屋根という屋根に朝露が宝石のように光り、子どもたちの笑い声が鈴の音となって響き渡る。 

 村の秘密は、誰もが胸の奥に小さな「キラキラ」を持っていること。 

 それは、まるで生きている星の欠片。 

 優しい言葉を交わすたび、誰かを思いやるたび、正直に生きるたび、キラキラはぽっと灯りを増して、村全体を柔らかな光で包みました。

 

 その村で一番優しいと評判の、星読みの夫婦の家に、ある満月の夜、奇跡が起きました。

 

 空が金色と銀色に割れ、ふたつの光が舞い降りたのです。 

 産声とともに、部屋中がまばゆい輝きで満たされました。 

 姉は太陽を抱いたような黄金のキラキラ。 

 妹は月を宿したような銀色のキラキラ。 

「ひかり」と「かがみ」と名付けられた双子は、生まれたその瞬間から、村の宝となりました。

 

 ひかりはすぐに「小さな太陽」と呼ばれるようになりました。 

 三つになる頃には、村中を駆け回り、転んで泣いている子に触れるだけで「もう大丈夫!」と笑顔に変えてしまう。 

 枯れた野花に指を当てると、ぱっとひまわりのように咲き誇る。 

 

「みんなが笑ってるのが一番好き!」 

 

 その笑顔は、まるで夏の昼下がりのようにまぶしかった。

 

 かがみは、いつもひかりのすぐ後ろを歩いていました。 

 静かで、物静かで、でも瞳は深い湖のよう。 

 彼女が指先でそっと蝶の羽に触れると、羽根に銀の星屑が降り積もり、蝶はまるで夜空を飛ぶように美しくなる。 

 風に揺れるススキを飾れば、まるで月の光が宿ったように静かに輝き、見る人の心をふっと鎮めてくれる。 

 

「ひかりちゃんはいつも先を行くから……私、後ろからちゃんと見てなくちゃ」

 

 村の人たちは言いました。 

 

「太陽だけじゃ暑すぎるし、月だけじゃ寒すぎる。 二人一緒だから、ちょうどいいんだよ」

 

 けれど、光が強ければ強いほど、影もまた濃くなるもの。

 

 村の外れ、古びた風車小屋に、ひとり住む男がいました。 

 昔は笑顔の素敵な鍛冶屋だった彼は、いつしか「影の魔法使い」と呼ばれるようになりました。 

 彼のキラキラは、誰よりも小さくて、色もくすんでいました。 

 

「どうして僕だけ……」 

 

 そんな思いが積もり積もって、ある夜、黒い本を開いてしまった。 

 ――「他人の光を奪えば、自分の光も大きくなる」と書かれた、禁じられたページを。

 

 それから、村のキラキラが消え始めたのです。

 

 最初は小さなことでした。 

 おばあさんのキラキラが少し薄くなった。 

 子どもが泣き止まなくなった。 

 花が一晩でしおれた。 

 やがて、朝の挨拶が途切れ、夜は真っ暗になり、誰もが胸の奥に冷たい穴が空いたような気がしました。

 

 影の魔法使いは、黒いマントを翻して夜ごと現れます。 

 

「もっと……もっと光をよこせ……」 

 

 盗んだキラキラを自分の胸に押し込めても、彼のキラキラは大きくならず、ただ闇が深まるばかりでした。

 

 そしてついに、彼は双子の光に目を付けました。 

 

「黄金と銀……あれさえあれば、僕は永遠に寂しくない」

 

 ある嵐の夜、村は黒い霧に呑み込まれました。

 

 ひかりは立ち上がりました。 

 

「私がみんなを元気にする! 絶対に取り戻す!」 

 

 かがみは震える手を握りしめました。 

 

「待って、一人じゃ危ないよ……もっと慎重に……」 

「慎重にしてる間に、みんなの光がなくなっちゃうよ!」 

「でも無茶したら、ひかりちゃんまで……!」

 

 言い争いが頂点に達した瞬間、黒い影が二人を分断しました。 

 ひかりは「灼熱の闇の迷宮」へ。 

 かがみは「無限の鏡の迷宮」へ。 

 影の魔法使いの声が響きました。 

 

「二人別々なら、ただの子どもだ」

 

 ひかりが閉じ込められた迷宮は、灼けるように熱く、真っ暗。 

 黄金のキラキラを振りまいても、光はすぐに蒸発してしまいます。 

 

「誰か……誰か答えて……!」 

 

 初めて、ひかりは自分の光が「ただ眩しいだけ」で、誰の心にも届かないことを知りました。 

 足元に転がっていたのは、自分が元気づけてきたはずの村人たちの、薄れたキラキラ。 

 

「……私が、みんなを置いてきぼりにしてたんだ」

 

 かがみの迷宮は、無数の鏡が立ち並び、どこまでも続く冷たい世界。 

 鏡に映るのは、いつも自分一人。 

 銀色のキラキラで鏡を飾っても、映るのは寂しそうな自分の姿ばかり。 

 

「ひかりちゃん……どこにいるの?」 

 

 彼女は初めて、声を出して泣きました。 

「私、一人じゃただの飾り物……ひかりちゃんの熱がないと、私の光は冷たいだけなんだ」

 

 そのとき、二人の心が、ぴたりと重なりました。

 

 ひかりは目を閉じて、叫びました。 

 

「かがみ! ごめん! 私がいつも先に行っちゃって……でも今ならわかるよ!  かがみの優しさがないと、私の光はただ人を傷つけるだけなんだ!」

 

 かがみは涙を拭って、強く答えました。 

 

「ひかりちゃん、私もごめんなさい! 怖がってばかりで、ひまりちゃんの後ろに隠れて…… 

 でも、ひかりちゃんの勇気がなかったら、私は永遠に鏡の中だった!」

 

 二人は同時に、胸のキラキラを最大に輝かせました。 

 黄金の光が、銀の光が、遠く離れた迷宮を突き抜けて―― 

 交差した瞬間、世界が白く弾けた。

 

 影の壁が粉々に砕け、二人は再び抱き合いました。 

 ひかりは泣き笑い。 

 

「もう離れない」 

 

 かがみは強く頷く。 

 

「絶対に、一緒に」

 

 二人が古城にたどり着いたとき、影の魔法使いは玉座に座り、盗んだ無数のキラキラを抱え込んでいました。 

 けれど、その目は虚ろで、胸の闇は底なしでした。

 

「どうして……二人一緒だと、こんなに眩しいんだ……?  

 僕には、誰も手を差し伸べてくれなかったのに……」

 

 ひかりとかがみは、手を繋ぎ、一歩前に出ました。

 

「私たち、昔は喧嘩ばかりだった」 

「でも、離れてみてわかったの」 

「違う光だから、補い合える」 

「一緒なら、もっと大きな光になれる」

 

 二人は背中合わせに立ちました。 

 そして、ゆっくりと両手を合わせる。

 

 黄金のキラキラと銀色のキラキラが、渦を巻いて混ざり合い―― 

 生まれたのは、見たこともない「希望の虹色」の光。 

 それは、眩しすぎず、冷たすぎず、ただすべてを優しく包み込む、温かな輝きでした。

 

 光は魔法使いの胸にそっと触れました。 

 黒いマントが音を立てて崩れ落ち、現れたのは、泣きじゃくる一人のおじさん。 

 鍛冶屋だった頃の、優しい目が戻っていました。

 

「……僕は、怖かったんだ。 

 みんなが輝いてるのに、僕だけが暗いって思って…… 

 だから奪えば、僕も輝けるって…… 

 でも、こんなに温かい光、初めてだ……」

 

 ひかりはそっと手を差し伸べました。 

 

「もう一人じゃないよ。これから一緒に輝こう」

 

 かがみも微笑みました。 

 

「違う光が集まるから、もっときれいになるんだよ」

 

 魔法使いは震える手で、盗んだキラキラを一つ一つ返し始めました。 

 光はそれぞれの持ち主の胸に帰り、村は息を吹き返しました。 

 花が一斉に咲き乱れ、子どもたちが走り出し、空には大きな虹がかかりました。 

 そして、村の空には、今までになかった小さな「虹色のキラキラ」が、無数に舞い始めたのです。

 

 それからというもの、きらめきの村は「違いを祝う村」になりました。

 

 誰かが落ち込んでいれば、ひかりが駆けつけ、 

「一緒に走ろう!」と手を引く。 

 かがみがそっと寄り添い、 

「大丈夫、ゆっくりでいいよ」と微笑む。

 

 影の魔法使い――今はもう「星直しの鍛冶屋」と呼ばれる彼は、 

 村の子どもたちに、違う色のキラキラを溶かして、新しい光を作る術を教えています。

 

 ひかりとかがみの背中には、いつも小さな虹色のキラキラが揺れています。 

 それは、二人で作った、永遠に消えない「協力の証」。

 

 そして村の人たちは、夜空を見上げながら言いました。 

 

「見てごらん、太陽と月が一緒に輝いてる」 

「違うから、きれいなんだね」

 

 めでたし、めでたし。 

 

 ――でも、本当の終わりはなく、 

 これからも、みんなの光は色とりどりに輝き続けていくのです。

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― 新着の感想 ―
さまざまなキラキラが輝く、とっても素敵なお話でした!
温かいお話! 童話風ですかねー?
とても感動しました!良いお話です…!
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