きらめき双子と影の魔法使い
むかしむかし、虹のふもとに抱かれた小さな谷に、「きらきらの村」がありました。
朝になると、屋根という屋根に朝露が宝石のように光り、子どもたちの笑い声が鈴の音となって響き渡る。
村の秘密は、誰もが胸の奥に小さな「キラキラ」を持っていること。
それは、まるで生きている星の欠片。
優しい言葉を交わすたび、誰かを思いやるたび、正直に生きるたび、キラキラはぽっと灯りを増して、村全体を柔らかな光で包みました。
その村で一番優しいと評判の、星読みの夫婦の家に、ある満月の夜、奇跡が起きました。
空が金色と銀色に割れ、ふたつの光が舞い降りたのです。
産声とともに、部屋中がまばゆい輝きで満たされました。
姉は太陽を抱いたような黄金のキラキラ。
妹は月を宿したような銀色のキラキラ。
「ひかり」と「かがみ」と名付けられた双子は、生まれたその瞬間から、村の宝となりました。
ひかりはすぐに「小さな太陽」と呼ばれるようになりました。
三つになる頃には、村中を駆け回り、転んで泣いている子に触れるだけで「もう大丈夫!」と笑顔に変えてしまう。
枯れた野花に指を当てると、ぱっとひまわりのように咲き誇る。
「みんなが笑ってるのが一番好き!」
その笑顔は、まるで夏の昼下がりのようにまぶしかった。
かがみは、いつもひかりのすぐ後ろを歩いていました。
静かで、物静かで、でも瞳は深い湖のよう。
彼女が指先でそっと蝶の羽に触れると、羽根に銀の星屑が降り積もり、蝶はまるで夜空を飛ぶように美しくなる。
風に揺れるススキを飾れば、まるで月の光が宿ったように静かに輝き、見る人の心をふっと鎮めてくれる。
「ひかりちゃんはいつも先を行くから……私、後ろからちゃんと見てなくちゃ」
村の人たちは言いました。
「太陽だけじゃ暑すぎるし、月だけじゃ寒すぎる。 二人一緒だから、ちょうどいいんだよ」
けれど、光が強ければ強いほど、影もまた濃くなるもの。
村の外れ、古びた風車小屋に、ひとり住む男がいました。
昔は笑顔の素敵な鍛冶屋だった彼は、いつしか「影の魔法使い」と呼ばれるようになりました。
彼のキラキラは、誰よりも小さくて、色もくすんでいました。
「どうして僕だけ……」
そんな思いが積もり積もって、ある夜、黒い本を開いてしまった。
――「他人の光を奪えば、自分の光も大きくなる」と書かれた、禁じられたページを。
それから、村のキラキラが消え始めたのです。
最初は小さなことでした。
おばあさんのキラキラが少し薄くなった。
子どもが泣き止まなくなった。
花が一晩でしおれた。
やがて、朝の挨拶が途切れ、夜は真っ暗になり、誰もが胸の奥に冷たい穴が空いたような気がしました。
影の魔法使いは、黒いマントを翻して夜ごと現れます。
「もっと……もっと光をよこせ……」
盗んだキラキラを自分の胸に押し込めても、彼のキラキラは大きくならず、ただ闇が深まるばかりでした。
そしてついに、彼は双子の光に目を付けました。
「黄金と銀……あれさえあれば、僕は永遠に寂しくない」
ある嵐の夜、村は黒い霧に呑み込まれました。
ひかりは立ち上がりました。
「私がみんなを元気にする! 絶対に取り戻す!」
かがみは震える手を握りしめました。
「待って、一人じゃ危ないよ……もっと慎重に……」
「慎重にしてる間に、みんなの光がなくなっちゃうよ!」
「でも無茶したら、ひかりちゃんまで……!」
言い争いが頂点に達した瞬間、黒い影が二人を分断しました。
ひかりは「灼熱の闇の迷宮」へ。
かがみは「無限の鏡の迷宮」へ。
影の魔法使いの声が響きました。
「二人別々なら、ただの子どもだ」
ひかりが閉じ込められた迷宮は、灼けるように熱く、真っ暗。
黄金のキラキラを振りまいても、光はすぐに蒸発してしまいます。
「誰か……誰か答えて……!」
初めて、ひかりは自分の光が「ただ眩しいだけ」で、誰の心にも届かないことを知りました。
足元に転がっていたのは、自分が元気づけてきたはずの村人たちの、薄れたキラキラ。
「……私が、みんなを置いてきぼりにしてたんだ」
かがみの迷宮は、無数の鏡が立ち並び、どこまでも続く冷たい世界。
鏡に映るのは、いつも自分一人。
銀色のキラキラで鏡を飾っても、映るのは寂しそうな自分の姿ばかり。
「ひかりちゃん……どこにいるの?」
彼女は初めて、声を出して泣きました。
「私、一人じゃただの飾り物……ひかりちゃんの熱がないと、私の光は冷たいだけなんだ」
そのとき、二人の心が、ぴたりと重なりました。
ひかりは目を閉じて、叫びました。
「かがみ! ごめん! 私がいつも先に行っちゃって……でも今ならわかるよ! かがみの優しさがないと、私の光はただ人を傷つけるだけなんだ!」
かがみは涙を拭って、強く答えました。
「ひかりちゃん、私もごめんなさい! 怖がってばかりで、ひまりちゃんの後ろに隠れて……
でも、ひかりちゃんの勇気がなかったら、私は永遠に鏡の中だった!」
二人は同時に、胸のキラキラを最大に輝かせました。
黄金の光が、銀の光が、遠く離れた迷宮を突き抜けて――
交差した瞬間、世界が白く弾けた。
影の壁が粉々に砕け、二人は再び抱き合いました。
ひかりは泣き笑い。
「もう離れない」
かがみは強く頷く。
「絶対に、一緒に」
二人が古城にたどり着いたとき、影の魔法使いは玉座に座り、盗んだ無数のキラキラを抱え込んでいました。
けれど、その目は虚ろで、胸の闇は底なしでした。
「どうして……二人一緒だと、こんなに眩しいんだ……?
僕には、誰も手を差し伸べてくれなかったのに……」
ひかりとかがみは、手を繋ぎ、一歩前に出ました。
「私たち、昔は喧嘩ばかりだった」
「でも、離れてみてわかったの」
「違う光だから、補い合える」
「一緒なら、もっと大きな光になれる」
二人は背中合わせに立ちました。
そして、ゆっくりと両手を合わせる。
黄金のキラキラと銀色のキラキラが、渦を巻いて混ざり合い――
生まれたのは、見たこともない「希望の虹色」の光。
それは、眩しすぎず、冷たすぎず、ただすべてを優しく包み込む、温かな輝きでした。
光は魔法使いの胸にそっと触れました。
黒いマントが音を立てて崩れ落ち、現れたのは、泣きじゃくる一人のおじさん。
鍛冶屋だった頃の、優しい目が戻っていました。
「……僕は、怖かったんだ。
みんなが輝いてるのに、僕だけが暗いって思って……
だから奪えば、僕も輝けるって……
でも、こんなに温かい光、初めてだ……」
ひかりはそっと手を差し伸べました。
「もう一人じゃないよ。これから一緒に輝こう」
かがみも微笑みました。
「違う光が集まるから、もっときれいになるんだよ」
魔法使いは震える手で、盗んだキラキラを一つ一つ返し始めました。
光はそれぞれの持ち主の胸に帰り、村は息を吹き返しました。
花が一斉に咲き乱れ、子どもたちが走り出し、空には大きな虹がかかりました。
そして、村の空には、今までになかった小さな「虹色のキラキラ」が、無数に舞い始めたのです。
それからというもの、きらめきの村は「違いを祝う村」になりました。
誰かが落ち込んでいれば、ひかりが駆けつけ、
「一緒に走ろう!」と手を引く。
かがみがそっと寄り添い、
「大丈夫、ゆっくりでいいよ」と微笑む。
影の魔法使い――今はもう「星直しの鍛冶屋」と呼ばれる彼は、
村の子どもたちに、違う色のキラキラを溶かして、新しい光を作る術を教えています。
ひかりとかがみの背中には、いつも小さな虹色のキラキラが揺れています。
それは、二人で作った、永遠に消えない「協力の証」。
そして村の人たちは、夜空を見上げながら言いました。
「見てごらん、太陽と月が一緒に輝いてる」
「違うから、きれいなんだね」
めでたし、めでたし。
――でも、本当の終わりはなく、
これからも、みんなの光は色とりどりに輝き続けていくのです。




