産業廃棄物
小さな宿屋に、第九王子たち一行は泊っている。
シーナを引き取りに来たの帰り道だ。
第九王子はシーナのいる2人部屋に乗り込んでいた。
「なぁ、いいだろう?」
第九王子はシーナを壁際に追い詰めて、腕を壁にドンとつく。
右手はシーナの顎をつかみ、背けようとする顔をクイっと向けた。
シーナは思い切り第九王子をアメジストの瞳で睨んでいる。
「やめてください。ジーク王子。わたしたち、まだ結婚まえですよ」
「そんなの良いではないか、良いではないか。遅かれ早かれ、やることには違いないだろう?」
「いくらズレた錬金術士だといっても、わたしにだって貞操観念くらいありますからね? 婚前だなんて……」
「なぁに、子供ができなければいいじゃないか。どうせすぐに結婚するんだ? いいだろう?」
「やめてください。召喚しますよ、毒物を――」
シーナがその手を払いのける。
「おぉ。怖い怖い。あの回復魔法でも効かないとされるテトロドトキシンでも食べさせられたら困るからな……。まぁいい。目的はお前の身体ではなく、錬金術だしな――。あぁこれで貧乏なともおさらば。魔術研究も捗るというものよ」
そのとき、一人の女性がノックもせずに入ってきた。
シーナの侍女だ。手には銅製のヤカンを持っている。
正確にはその侍女――十六夜が部屋の外に水を取りに出た隙に、第九王子はシーナの部屋に侵入したのだ。
「ちっ。人形風情が――」
「おかあさま。どうしました?」
第九王子はその侍女を≪鑑定≫で調査済みであり、彼女がシーナが作り出した人形であることを知っていた。
シーナに対しては≪鑑定≫で調べることができてない。レベル差なのか≪隠蔽≫スキルなのか――。思い切り警戒しているところから見ると≪隠蔽≫スキルだと第九王子は考えているが、逆にいえばそれだけ錬金術士としての実力があるということであり、期待ができた。
彼女は錬金術士のスキルを隠すことで良いように使われないようにしているのだ。だが最終的には使われるようになる。第九王子はそこに憐みしか感じない。
思わず第九王子は舌打ちする。
あきらかにその人形――十六夜は知っていて第九王子を妨害に来たのだろう。
「しかし――、この娘もなかなか可愛いな――というか、おまえとほとんどそっくりではないのかね? 髪の色以外は」
「まさか、十六夜に手を出すとかではないでしょうね?」
「いいじゃなか。所詮、人形なんだろう?」
第九王子は今度は十六夜の腕をつかんだ。
「や、やめてください……」
十六夜は相手が仮にも王子であるため抵抗することができない。
その手はシーナが間に入って離させる。
「十六夜が嫌がることはそめてください。ジーク王子。それに十六夜には人形姫の呪いが掛けてあります。ご無体は――」
「人形姫の呪い? なんだそれは?」
「『能力を上げる代わりに、期間内に好きになった男に内容を知られず添い遂げない場合泡となって死ぬ』という祝福です」
「ははーん。じゃぁ今この俺がこの人形を抱くと、この部屋は泡だらけになると?」
「えぇ――」
第九王子が十六夜をじっくりと上から下へと嬲るように眺める。
十六夜が嫌悪感で震えあがった。
「≪鑑定≫――。なるほどそのようだ。泡だらけになるのは困るな」
「えぇ、そうよ」
「そして賞味期限もないようだな」
「だから――」
「あい、分かった。泡になって消えたりしたら掃除とか大変そうだからな。それに抱いたら死体とかはさすがに御免だ。ネクロフィリアでもあるまいし」
第九王子が心底嫌そうな顔をする。
(であるならば――)
第九王子は何やら思いついたようだ。
「十六夜はシーナのおじさまのところに送り込んでやるというのはどうだろうか?」
「え?」
「結婚術式の日は近い。万が一のことも考えて、おまえの『おじさま』が何か変なことをしないとも限らないからな。――であれば、動けないようにその人形で行動を止めるというのも一興か。もしかしたら憐れに思って抱いてくれるかもしれんぞ? お前と似た容姿の女がおっさんに抱かれるのは業腹だがどうせ賞味期限も切れる」
「そんな――」
「もしかしたらこの人形も生き残るかもしれん――あぁ、俺はなんて優しい男なのだ。おい衛兵!」
第九王子が叫ぶと、空気を呼んだ衛兵が部屋に何人も部屋に入り込んでくる。
「この人形を連れていけ。アメジスト王都へ逆送だ」
「はッ――」
嫌がる十六夜を無視し、十六夜が衛兵に両脇を抱えられて連れ去られていく。
それをシーナは止めることができない。
「あははは――。あははは――」
第九王子は笑いながらそれに続く。
シーナは一人、部屋に取り残されるのであった――




