愚かな雑魚に捧げる挽歌
「くそっ」
王都のスラムにある酒場の一室。そこはあまり素行のよくないゴロツキが集まるような場所であった。
そう、たまに薬剤の売買なども行われるようなところである。
そんな場所に、複数のザコ冒険者どもが集まっていた。
「それもこれも、あのオージーの奴のせいだ!」
「そうだそうだ!」
彼らは昨今の冒険者ギルドの動きが気に入らない冒険者の筆頭である。
突然に吹き荒れた冒険者ギルドの浄化運動――
冒険者ギルドがギルド員に対して身だしなみを整えるように言い出したのが始まりだ。
その差し金はシーナと呼ばれる錬金術士である。
シーナは、手ごろな冒険者オージーを捕まえるとギルド内を浄化するだけでなく、郊外にスパリゾートを構築して冒険者たちを徹底的にきれいにしていった。冒険者とは本来、かっこいい職業であるべきだというのが、シーナの言い分だ。
その期待に応えるように、アメジスト王都の冒険者たちはイケメンに変貌し、うまくやった人の中にはスパリゾートにやってきた庶民や侍女たちと仲良くする連中も増えて行っている。
もともと、アメジスト王国は名前にアメジストという宝石の名前がついていることから分かるように、多くの美男美女を輩出する国とし知られている。それはまるで異世界の山なし県のようだ。山なしでは、戦国の以前から衆道――山なし、オチなし、意味なしに代表される耽美な男衆が揃っていた。
だが、綺麗になれない残念な人たちというのも存在し、それらに該当するのが彼らだった。彼らは当初、シーナと敵対的な行動を取っていたため、彼らだけは例外的にスパリゾートから出禁を食らっているからだ。
今ではそこらの娼婦でさえ、『身ぎれいにしていない人お断り』という名目で追い払われているのだからたまらない。そりゃぁ誰だってイケメンの方が良いに決まっている。不潔な男性は嫌われるものだ。
そんな彼らが特に嫌っているのが、オージーである。
彼らはオージーがネートに粉を掛けていたのを知っており、そのネートが年若い少年イージンに取られると、すぐさま別の女――錬金術士シーナに乗り換えた、ということを知っているのだ。
女をまたに掛けやがって……。あのおっさんが――。そう思わずにはいられないのだろう。
いつしか。
シーナとオージーをどこかで嵌めてやろうと思わずにはいられない集団がここに出来上がっていた。
「しかし、あのスパリゾートに乗り込むのは無理ってもんですぜ」
「あぁ、確かにそうだな」
彼らはどこかで嵌めてやると思ってはいるが、しかし中々に攻めあぐねているところでもある。
シーナが住んでいる郊外の屋敷は、スパリゾートに併設された自宅である。正確には自宅の隣にスパリゾートを立てたのだ。
その自宅周辺は、オージーが野武士(Ranger)のスキルを駆使して作り上げたトラップ群がひしめいている。これ見よがしの全力要塞化だ。
彼らの仲間がムリを承知で侵入を試みたのだが、その彼は虎ばさみトラップに引っかかり怪我を負ってしまった。
最悪なのはそれからだ、神殿で治療してもらおうとしたのだが、彼は怪我の理由を看破されてしまう。そうなれば奴隷落ちになるしかない。貴族のご婦人たちに覚え目出度いシーナの屋敷に侵入しようとしたのだから、情状酌量の余地はないのだ。
記憶に新しいその件で、仲間ではシーナに足して激怒することになる。しかし、それを訴えることもできず怒りを貯めることにも繋がっているのだ。
裏から侵入ということはなかなかに難しかった。
さりとて正攻法では貴族のご婦人がいる期間は彼女らの護衛が周囲にいるし、そうでなくとも「まともな」冒険者が風呂に入りにくるため、その目をかいくぐってどうこうすることは難しい。
そして、シーナとオージーは外に出る場合は大抵の場合一緒に行動しており、例え囲んだとしても野武士(Ranger)が本気で逃げ出せばそれについていけるかは皆無だ。
そんな中、ついに彼らに機会が訪れることになる。
「どうやら、シーナたちは、2日後にダンジョンに挑むらしいですぜ」
「それをどこで?」
「冒険者ギルドに決まっているだろう? あのスパリゾートの裏にどうやらゴブリンが住み着いたとかで討伐を自らするようだ。それ以上は知らん。何かギルド職員と話こんでいたが、それだけ聞いて俺は去ったからな。変に警戒されてもかなわんし」
「おぉ、でかした――。2日後だな――」
その詳しい内容は分からないが、ダンジョンに潜るという話と場所とおおよその時間さえわかればあとはどうとでもなる。
「よし、ダンジョン内に先回りして、俺らでグルグル輪してやろうぜ」
ザコの冒険者の一人が先行して襲撃することを提案する。
「お前、ひでえこと考えるな。だが野武士(Ranger)のオージーが簡単に罠とかに引っかかるか?」
「なあに。野武士(Ranger)のスキルは屋外で活用するものがほとんどだ。探索者(Exploer)でもなければダンジョン内ではたいしたこたぁねぇだろう。そして俺は探索者(Exploer)だ」
「おぉー。さすがですぜアニキ」
彼らはもう成功したかのように騒ぎ出す。
オージーはともかく、シーナは絶世の美少女だ。
シーナを好きにできるとなれば騒がない理由はないのだ。
「そう、野武士(Ranger)さえ倒してしまえば、あとは後衛の錬金術士だけだ。近接でタコのように殴りゃ後はどうとでもなる」
「あの女がどうとでも……。好きにできるわけか――」
冒険者の一人がごくりと喉をならす。
彼らはその組み敷いた後のことを皮算用するのであった――
◆ ◆ ◆ ◆
そんな中、酒場で一人酒を飲む一柱の魔王がいた。
その目が薄暗く赤く光る。
「(阿呆かこいつら……)」
姿を隠し、冷ややかな目でザコの冒険者を見つめるその名は激情之魔王たる魔王ジャック・ザ・ハート、その人である。
「(まぁこいつらが成功しそうになったら助けて恩を売れば良し、失敗すればさらに圧力を掛けて手籠めにすればよいか。とりあえず潜伏して様子見だな。噂の乙女鉱山とやら、その手並みを見せてもらおうか……)」
夜は薄暗く、その黒をさらに強くしていった――




