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⑱査問会。



 「……報告書の通りなら、未然に危機を回避した事は事実だと思われる。しかし、それで【ティンダロス】を放置し……」


 【ヒーロー管理本部】の一室。


 三人の制服組を前に、橋本 友紀二尉が直立不動の姿勢のまま、彼女に対する処遇を決める査問会が執行されていた。


 担当している【超越者(ギガ・ウェーバー)】の敗退、そして博士を捕縛出来なかった責……彼女一人のせいではないとは言えど、組織としての叱責は回避出来ない。


 「……故に、その責任は重いと言える。従って……」


 だが、彼女の感情は別の所にあった。何故ならば其れは……




 「……以上だ。何か反論は有るか?」

 「……いえ、厳粛に受け止めたいと思います、()()()()


 彼女は、夫の顔を真正面からジッと睨み、視線を外さずに告げた。




 「……はあああぁ~ッ!! 何なのよ、もうっ!!」


 戻ってから何度目か判らない溜め息と共に、めぐみは苛立ちを隠さぬまま椅子の上で腕組みしながら感情を爆発させた。


 【判ったから、少しは落ち着いたらぁ? べっつにアンタが負けたって何も変わりゃしないんだからさぁ~!】


 相方の不満げな態度に辟易したように言いながら、ティンダロスがグニョグニョと身体をうねらせながら傍らに寄り、暫くしてからニュッと細く伸び上がり、


 【それにさ……おにーちゃんと連絡出来るよーになったんでしょ? アンタなりに収穫有ったんだからいいじゃん!】


 と、傍らに置かれたスマホへ触手を近付けて、


 【……ふんふん……久しぶりに会ったけど、綺麗になったな、だってよ?】

 「ば、バカッ!! 勝手に中身を見るなっ!!」


 からかうティンダロスから守るようにスマホを手に取ると、画面を操作しながら食い入るような目付きで眺め、


 「……な、何にも書いてないじゃん……騙したなぁ!?」

 【そう? アンタの望みはそーゆー風に言われたいの?】

 「ち、違うわよっ!!」


 言い返しながら顔を赤らめて、やっと静かになった。



 「はぁ……やっと終わったわ……」


 二人が待機していた部屋の扉が開き、橋本二尉が中に入ると脱力しながら空いている椅子に腰掛けて、ぐったりと身体を背もたれに預けた。


 「で、どうだったの? ……怒られた?」


 責任の一端は自分にも有ると知っているめぐみは、橋本二尉の顔を覗き込みながら小声で尋ねると、


 「ううん……別に怒られはしないわよ……ただ、積極的な行動は控えろって釘を刺されたわ……」


 手を振りながら否定しつつ、しかし自重せよと命じられたと告げてから、


 「でもねぇ……これで博士の案件が一段上にいっちゃったのは事実ね……」


 と、寂しげに言い、つまり……と前置きしてから、


 「……例のドロイド部隊が担当すると思うわ」


 言葉を口にした二尉の横顔には、虚無感が漂っていた。



 (……あなた、一体何を考えてるの? ……私には判らないわ……)







 (……目標地点上空に到達、作戦開始……)


 ゴウン、と腹に響く音と共に、大型の四発輸送機の後部ハッチが開き、ラダーが伸びていく。


 赤く点滅するランプに照らされながら、人の背丈と同じ高さの積載物が搬入レール上を滑り、ラダーを介して一つ、また一つと地上へと落下していく。



 最後の積載物を放出し終え、身軽になった輸送機が機体を加速させ、機首を上げながら上昇を開始した頃、積載物の表面に細かい亀裂が生じ、花弁が開くように構造を変化させると落下速度を落としてクルクルと回転。そのまま地上に向かって落ちていった。






 (……博士、タンポポの花に似た構造物が、団地に近付いています)


 団地の部屋に戻った千乃から、博士のイヤホン越しに連絡が入る。緊張感の無い抑揚を欠いた声で伝えた後、次の指示を待つ為か沈黙が続く。


 「タンポポ? ふむ……そりゃあ自立行動ドロイドの強襲機だね。幾つ来ているか判るかい?」

 (……三機です。どうやら滞空しているようで、700メートル上空に停止したまま動きは有りません)


 千乃の報告に眉一つ動かさぬまま、博士は静かに答えた。


 「……千乃、全力で排除していいよ」

 (……畏まりました。団地には近付けぬように排除いたします)


 博士の言葉に応じると、千乃は玄関の扉を開けて外に出た。


 【千乃さん! どこに行くの?】


 何処かに出かけるのかと察した【ヒグマ怪人】が、千乃の背後から声を掛ける。すると顎の下に人差し指を当てて少しだけ考えた後、さらりと答えたのだった。


 「……団地の平和を守る為、不埒な邪魔者をやっつけて参ります。お昼ご飯の仕度までには、帰りますよ」






 ……都内某所、【ヒーロー管理本部】と呼ばれる施設の一室。そこに数人の部下を従えた背広姿の橋本室長がモニターに映し出された団地の遠景を眺めながら、傍に居る部下に向かって短く質問する。


 「……ドロイドは到着したか?」


 問われた部下は端末を操作し、稼働状態をモニタリングしながら現状を報告する。


 「はい、ドロイド部隊は三隊に別れて上空に待機中です。いつでも着手出来ます」

 「……よし、やれ」


 橋本はまたも短く命じ、部下は頷きながら端末を操作して作戦開始を指示した。


 【……降下開始。目標を無力化し確保せよ】


 ドロイド部隊からは返答は無い。しかし、モニター上の映像は機体が急速に降下する状況を伝え、眼下に落下していく八体のドロイドがキラキラと陽の光を反射させながら地面に到着し、移動用の脚部を伸縮させながら枯れたススキを押し退けて進む様子を映し出していく。


 そしてドロイド部隊は団地から後僅かの距離に到達した瞬間、光学迷彩を用いて、機体の輪郭と周囲の景色を溶け合うように変化させる。更に瞬きする間も無く機体全体を周囲の景色と完全に同化させると、フェンスを越える為に脚部のスラスターから圧縮空気を吐き出して跳躍する為に、機体上部を低い位置に下げて準備する。


 「さて、博士はどれだけ抵抗するか……?」


 橋本室長が呟きながら画面を注視し、やがて団地の側面が大きく映し出された所で、僅かな違和感を感じ、やがて表情を一変させながら大声で怒鳴った。


 「……クソッ!! 何でアイツがこんな場所に居るんだっ!? 中止だっ!! ドロイドを停止させろ!!」


 荒々しく指示を飛ばしながら拳を握り、端末の脇に叩き付けたので、部下達は何事かと彼と画面を眺めて、そして橋本が次に発した言葉で、事態を正確に把握した。


 「よりによって【ヨーチューバー・るみ】だと? ……アイツ、何を考えてやがるんだ!?」


 先程までの態度から一転し、困惑に満ちた様子で画面中央をフラフラと歩く女の姿を睨みながら、誰もが知っているその名前を吐き捨てるように呟くと、悔しそうに椅子へと腰を降ろした。





 「……ふぅ~ん、確かにボロッちいわぁ……」


 年齢的には、めぐみや千海達とそう変わらない年頃の娘、【ヨーチューバー・るみ】はそう言いながら、団地の脇を通る道路を足取り軽く歩き続ける。


 「築……四十……八年? うわっ!! 私の親より年上じゃない!? すげっ!!」


 立ち止まり、手にしたスマホで建築年数を調べながら、感嘆の声を上げながらパシャパシャとカメラモードに切り換えて写真を撮りまくり、ついでに団地をバックに自撮りしながら動画撮影を始める。


 「……え~っと、これから団地の住人に話を聞いてみたいと思いますぅ~♪」


 言いながらキョロキョロと周囲を見ると、一人のスーツ姿の女性を見つけ、


 「おっ!! 第一団地住民発見しました!! すいませぇ~ん!!」

 「……はい、私を呼びましたか」


 丁寧に返答はしたものの、どちらかと言えば乗り気そうには見えない女性を相手に果敢に挑む【ヨーチューバー・るみ】。


 「はいは~い! 呼びましたとも!! 私、るみって言って、ヨーチューバーしてるんですぅ!!」

 「……ヨーチューバー、ですか。それで何か御用ですか」


 急いでいるからか、多少ぶっきらぼうな態度の相手にも、対人コミュスキルをフル活用し、満面の笑顔で明るく元気に質問を開始。


 「はい! この《朝日団地》って、打倒タワーマンションを目指して大改造するらしーんですが、知ってますかぁ!?」

 「ええ、存じております。何せ、私共が先頭に立ち、新たな住民となる方の様々なニーズに答えられるよう、尽力していく所存なのですから」

 「ええぇ~っ!? ま、まさかの当事者ご登場ですかぁ!? いや~、持ってるなぁ私ったら!! ブチ嬉しい!!」


 大袈裟に驚くるみに、先程までの態度を多少軟化させたのか、女性は後れ馳せながら……と前置きしてから、


 「私は《朝日団地住環境改善組織委員会》の千乃と申します。るみ様は内覧をご希望ですか」


 と、変わらぬ調子ながら自己紹介を交えて問い掛ける。するとるみは、にこやかな表情を更に上乗せさせながら、


 「はい! 内覧いいですね! 是非お願いします!」


 朗らかに答えて千乃に向かってペコリと頭を下げた。今時の若い女性特有の目鼻立ちを強調させるようなメイクからは想像出来ない、キチンとした態度に千乃は誠意を持って答えるべく、


 「こちらこそ宜しくお願いいたします。気に入って頂ければ幸いですが、何分にも我々が住んでいる部屋で御座いますので、雑然としているかもしれませんがご了承下さいませ」


 そう告げてから、先に立って歩き出す。


 ……しかし、当然ながら千乃はドロイドを迎え撃つつもりで外に出たのだが、肝心の相手は索敵範囲から消失していた。


 (……博士、予測していた会敵は果たせませんでした。そして変わりに妙な女性を連れて戻る事になりました)

 (……会敵しなかったのは良いけど、誰なんだい? その妙な女性ってのは)


 博士に報告すると千乃は、るみの格好を一瞥してから、



 (……額にサングラスを掛けて、赤いジャケットと革のスキニーパンツを穿いた二十代前半の自称()()()()()()()()()の、るみ様です)


 と、見たままを報告。すると博士は暫く黙った後、明らかに訳判らんと言いたげな様子で、


 (……()()()()? 何それ……?)



 ……と、聞き直した。






 

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