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結婚式

「今度こそ一生一緒に居るよ、ビオラ」


 真剣味を帯びた声色で宣言し、アニスは指輪に軽くキスする。

まるで、誓いを立てるかのように。


 この場を切り抜けるための嘘、ではなさそう。

少なくとも、今は本気で添い遂げる覚悟を決めている。


 アニスの態度や言動を見て判断し、私は僅かに頬を緩めた。


「その言葉、信じさせてね」


 ────と、告げた翌日。

私は朝から湯浴みやマッサージ、メイクなどいつもより丁寧に時間を掛けて身支度を行った。

おかげで、最高の晴れ姿になったと思う。


 アニスの方はどうなっているかしら?


 鏡の前に立つ自分を一瞥し、私はふと扉の方を振り返った。

と同時に、ノック音が耳を掠める。


「ビオラお嬢様、準備が整いました」


 扉越しに聞こえてくる執事の声に、私はゆるりと口角を上げた。


「そう。では、移動を開始しましょう」


 ゆっくりと歩き出し、私は自室を後にする。

そして、隣室に待機していたアニスを伴って屋敷を出ると、教会に向かった。


「今日は私とアニスの貸し切りよ」


 誰も居ない空間を眺め、私はニッコリと微笑む。


「二人きりの結婚式になるわ」


「そうか。ロマンチックだな」


 白のタキシードを見事に着こなすアニスは、嬉しそうに周囲を見回した。

かと思えば、ふとこちらを向く。


「あっ、そうだ。言い忘れていたけど────今日のビオラ、とっても素敵だよ。ウェディングドレス、よく似合っている」


 下ろした状態のベールにそっと触れ、アニスはうんと目を細めた。

『愛おしくて愛おしくて堪らない』という視線を送ってくる彼に、私は少し胸を高鳴らせる。


「ありがとう。アニスも凄く魅力的よ」


 スルリと彼の頬を撫で、私は素直な感想を口にした。

すると、アニスは少し顔を赤くする。


「ああ。それなら、良かったよ」


 はにかむような笑顔を見せるアニスに対し、私は安堵と歓喜を覚えた。


 正直この状況を利用して脱出するんじゃないかと疑っていたけど、杞憂だったみたいね。

本当にアニスは────今の環境と私の愛を受け入れるつもりのようだわ。


 昨日の誓いが現実味を帯びてきて、私は表情を和らげる。

────と、ここでアニスが私の手を取って再び歩き出した。


「行こう、ビオラ」


 そう言って聖書台の前まで足を運び、アニスはこちらに向き直る。

これまでのことが嘘のように積極的かつ意欲的な態度を取る彼は、握ったままの手を持ち上げる。


「じゃあ、二人きりの結婚式を始めようか」


 そう言うが早いか、アニスは胸ポケットから指輪を取り出した。


「僕、アニス・ライ・モータルは病める時も健やかなる時もビオラ・インサニティ・モータルを愛し、敬い、尽くすことを誓います」


 私の薬指に指輪を嵌め、アニスは手の甲にキスをする。


「愛しているよ、ビオラ」


 昔みたいに真っ直ぐ思いを伝え、アニスは手を握り締めてきた。


「本当に、心の底から……」


 どことなく切ない感情を露わにして、アニスは少しばかり眉尻を下げる。


「正直最初はさ、ビオラの外見にしか興味なかった。こんなに美しい子がずっと傍に居てくれたらどんなに素晴らしいだろう、って。でも、徐々にビオラの中身に目を向けるようになったら……人間味のないお前が、怖くなった。なんだか、人形みたいで……」


 『どんなに目を凝らしても、本心が見えなくて……』と零し、アニスはそっと目を伏せた。


「だから、他の女に逃げた」


 突然心変わりした理由を改めて説き、アニスは控えめにこちらを見つめる。

まるで、私の顔色を窺うみたいに。

『ミモザ王女殿下の存在を仄めかされたのは不快だけど、怒ってはないわよ』と思案する私を前に、彼は顔を上げた。


「けど、本当のビオラを知って……向き合って、やっと中身まで余すことなく好きになれた。皮肉かもしれないが、お前を怒らせたことで変われたんだ」


 空色の瞳に強い意思を宿し、アニスはこれでもかというほど表情を引き締める。


「これからはもう迷わない、ビオラのためだけに生きるよ」


 真剣な声色で宣言するアニスに、私は素直に『嬉しい』と感じた。


「ありがとう、その決意を聞けて良かったわ」


 『アニスの覚悟が本物であることを感じられた』と思いつつ、私はふと手元を見下ろす。


「じゃあ、次は私の番ね」


 アニスの手を握り直して向きを整え、私はポケットから指輪を取り出した。


「私、ビオラ・インサニティ・モータルは病める時も健やかなる時もアニス・ライ・モータルを愛し、敬い、尽くすことを誓います」


 同じく薬指に指輪を嵌めて、私は手の甲に軽く口付けた。

愛おしい気持ちを表すように指輪の石部分を撫で、私はゆっくりと手を離す。


「私はアニスの真っ直ぐなところが、気に入ったの。周りの目なんか気にせず、億さず、怯まず己の気持ちにいつだって正直。そして、何より全力だった」


 デビュタントでプロポーズされてから今に至るまでの出来事を振り返り、私は笑みを深めた。


「一生懸命な貴方が、好き。私しか見えていない貴方を愛している。だから、ずっと私の傍に居てちょうだいね」


 『永遠にあの部屋に居てほしい』と求めると、アニスは迷わず首を縦に振る。


「ああ、もう何処にも行かない」


 こちらの意図がきちんと伝わっていないのか、はたまた監禁くらいは許容範囲内になったのか、アニスは一切抵抗感を示さなかった。

僅かに目を見開く私の前で、彼はそっとベールを上げる。


「幸せにする」


 私の頬を両手で包み込み、アニスは真っ直ぐにこちらを見つめた。

静かに顔を近づけてくる彼を前に、私はそっと目を閉じる。

その瞬間────互いの唇が重なった。


 嗚呼、この気持ちをなんと表したらいいのだろう?

とにかく、嬉しくて……この上ない高揚感と充実感を覚える。


 いつもより早くなる鼓動を感じつつ、私は目を開けた。

すると、満足そうに微笑むアニスの姿が目に入る。

空色の瞳に幸福感を滲ませる彼の前で、私はようやく────愛する人と結ばれた実感を得られた。

『たとえ、あなたが誰を愛していようとも』は、これにて完結となります。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。


本作は『サイコパス系のヤンデレ主人公を書きたい』&『婚約破棄?だが、断る!みたいな展開を書きたい』という思いから生まれたもので、

自分的には面白く感じても、人にはあまりウケないだろうなと思っていました。

でも、毎日本作を読みに来てくれる方達が居てとても救われました。

本当にありがとうございます!



さて、ここから先は本作の裏話になります。


・初期案では、皆殺しのメリーバッドエンドになっていた

→『それはさすがにやり過ぎかな?』となり、軌道修正しました


・アニスがビオラをもう一度愛する構想は、当初なかった

→上記の修正を行っているうちに、両想いエンドへ行き着きました


・序盤の幼少期エピソードは、何回も書き直した

→出来るだけ、コンパクトにまとまるよう努力しました。

長すぎると、つまらなくなるので。

一応全カットすることや本編の途中で差し込むことも考えましたが、主人公のヤバさをしっかり“最初に”伝えたかったため文字数を削る方向で考えました。


・本作の感想欄を閉じていたのは、『やばいやつが主人公だから、コメント荒れそうだな……』と不安になったため

→作者の私が言うのもなんですが、ビオラの性格や本性ってかなり人を選ぶと思うんですよね。

暴力的な面なんて、特に。

(もちろん、『この主人公、嫌だな』と思ってしまうことが悪い訳ではありませんが!)

否定的な感想ばかりになってしまうと、さすがに落ち込むので本作では受付不可にしました。

『そもそも、感想一つも来ないのでは?』というツッコミは一旦置いておいてください……(笑)


・本文の文字数は十万字を目指していたが、諦めた

→無理に引き伸ばしても、蛇足になってしまうので



本作の裏話は、これで以上となります。

少しでも、『へぇー!そういうことだったのか!面白い!』と思っていただけたら幸いです。



それでは、改めまして……

本作をお読みいただき、ありがとうございました。

いいね・評価・ブックマークなどもいただけて、感無量です。


また気が向いた時にでも、ビオラのサイコパス&ヤンデレっぷりを見に来ていただけますと幸いです!┏○ペコッ

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