Trick 9 足止め遅滞作戦
それはいつかの日、どこかの国の、山道にて。
一人の男が幾百名もの敵の軍隊に追われていた。
男の身なりは衣服のみ、持ち物はナイフ一つのみ、という軽装なのに、
追っ手の軍隊はみんな、皮革の鎧に剣を帯びている。
何日間も、執拗に迫る追っ手から逃げていたら。
ふと、ひとが入るのにちょうどいい洞窟があった。
男は洞窟の中に入り、その中にある扉に、
「立ち入り禁止」と記した……
男はその場を去ったが、
かれを追っていた敵の軍隊は、
洞窟にたどり着くと。
その扉で足止めされ何日間も動けなかった。
おかげで、男は無事に追っ手の軍隊から逃れた。
なぜか?
トリックは簡単。
扉とは、男が作った彫刻だったから。
男は洞窟の石壁に、ニセの扉を彫ったのだ。
敵の軍隊はそこを重要な入り口と信じ込み、
ありもしない扉を開けようとして何日も無駄にした
安易なバトルゲームが、大流行りの昨今だが。
戦いにおいて短絡的に、目の前の敵を倒すだけが選択肢ではない。
ほかに取れる手があれば、足止めだけでも勝利といえる戦果となる。
自身が生き残ることがまず前提であれば、
逃げることだって最優先の選択肢になる。
これを失念して戦いばかり叫ぶのは愚かだ。
兵法の古典『孫子』においても、
「(味方の戦力が敵より)少なかればこれを逃れ、しからざれば退け」
と明記してある。
「勇戦せよ」ともあるが、それは、
「敵と互角ならば」、の前提付きでの身のこなしなのだ。
以降、この足止めのトリックをいくつかにまとめる。〆




