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【35】二人っきりの夜

 あの後、学園に申請して、次の日の早朝に屋敷に向けて旅立つことになった。

 そんなにあっさり許可がもらえるものなのか。

 尋ねれば、オースティン家が異世界へ行ってしまった姉を取り戻すため、黄昏の城を攻略している有名なことだということだった。


「願いの叶う王冠があるというのが、この学園の売りです。城を攻略して、姉を取り戻したのに、家族水入らずの時を邪魔するなんてことはさすがにしませんよ」

 学園側の事情を考えればわかることですと、アベルは言う。


「それに長年、城の攻略者は出てなくて、王冠なんて本当に手にできるのかと学園の入学希望者が減っていく傾向にあったんです。僕達が城を攻略して願いを叶えたことで、学園側にもメリットがありますからね。休みもたっぷりもらって、ついでに馬車も用意させてきました」


 アベルはきらきらと輝く、黒い笑みを浮かべる。

 ゲームでのアベルは外面がよく、世渡りが上手かった。

 自分の計画通りにいくのが何よりも嬉しい、そんな面があったのだけれど……成長したアベルにもそういうところがあるようだ。

 こんなにちゃっかりしていたら、領土を任せても何も問題なさそうだと頼もしく思う。


「それで今夜のことなんですが、メイコさんには女子寮にあるメアやベティの部屋に泊まってもらいます。もう許可はとっておきました」

「……なっ! 我が主に、メアやベティと床を共にしろというのか!」

「さすがに男子寮には泊められないでしょう?」

 声を荒げるフェザーに、アベルがそんなことを言う。


「いっぱいがーるず(?)トークしようね? 今夜は寝かせないよ!」

「お姉ちゃんと一緒に眠るなんて、初めてだね! 蛇達が張り切ってるよ!」

 きゃっきゃと嬉しそうにするベティの側で、メアが笑う。

 その後ろで蛇達が……何やら怪しげにうねっていた。


 天真爛漫なベティはともかく、蛇達が張り切ってるって……一体何をする気なんだろう。

 蛇達の赤い目がいつも以上にぎらついて興奮している。

 私を獲物のように捕らえている気がするんだけど……意識しすぎなのかなっ?

 正直、不安を隠しきれなかった。


「主は我の部屋に泊める! メアもベティも男なんだぞ!」

「別に何も変なことはしませんよ……多分」

 詰め寄るフェザーに、アベルが視線をメアへと向けた。


「そうだよフェザー。ただちょっと寝てる間に、蛇達がお姉ちゃんに幻獣の卵を産み付けるだけだよ!」

「それが一番危険だと言ってるんだ! そんなことをしたら我と主の子が生まれたときに、蛇が一緒についてくるだろう!」


「付き合う前からもう家族計画なんて、フェザーは気が早いなぁ」

「そういう問題じゃない。からかうな!」

「からかってないよ。本気でお姉ちゃんに卵産む気でいるし。ねぇ、サミュエル?」

「シャー!」

「余計にたちが悪い!」


 メアとフェザーの会話がカオスなことこの上ない。

 しかし、私も蛇に卵を産み付けられるのだけはゴメンだった。

 幻獣の加護って凄い便利なんだよとメアは言ってくるけど、蛇は無理。

 そういうわけで、私は結局フェザーの部屋に泊まることにした。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 さすがに堂々と私が男子寮に入るわけにはいかないので、窓からフェザーの部屋にお邪魔することにした。

 フェザーの部屋は整理整頓が行き届いてきて、きっちりとしている。

 月の光が差し込むおかげで、灯りを付けなくても部屋の中は明るかった。


「……ようやく二人きりになれたな、主」

 よく顔を見せてくれと、フェザーが至近距離で見つめてくる。

 ゆっくりと頬をなぞられるとくすぐったくて、その眼差しにドキドキとした。


「主の世界へ行くと約束したのに……待たせすぎてしまった。メア達は主をこの世界へ呼び戻すつもりでいたが、我は本当に主の世界へ行くつもりでいたのだぞ?」

 約束を守れなかったことが情けないというように、フェザーは言う。


「謝らないでよ。私が我慢強くないだけだから。それに私からしたら……フェザーと別れて一ヶ月も経ってないんだよ?」

「……そうなのか?」


 本来なら二人分しかない空間に無理矢理入り込んだせいで、私は五年後の時間に飛ばされてしまっていた。

 そのことを言えば、フェザーが驚いた顔になる。


「なら主は……今、二十一歳のままということか? 道理で若く見えるわけだ。我と三つほどしか変わらないわけだな?」

「まぁ、そうなるわね」

 頷いた私の手に、フェザーが指を絡ませてくる。


「フェザー?」

「なら……年の差がなんて言い訳は、もうナシというわけだ」

 フェザーは見たことがない表情をして笑う。

 ……男の人の顔だと思った。


 片方の手を腰に添えられ、引き寄せられて。

 逃がしはしないというように見つめられる。


「あれから五年経ったが我の想いは変わらない……いや、違うな。主を昔よりも、もっと愛している」

 秘めた想いを打ち明けるように、甘くかすれた声でフェザーが囁いてくる。

 トン、と肩にその頭が置かれた。


「主の姿が見えない分、心の中でその存在が大きくなっていった。我を待っていてくれているはずだと、自分を奮い立たせてここまで頑張ってきたんだ」

 ゆっくりとフェザーが言葉を紡ぐ。

 ひとつひとつ丁寧に、気持ちを伝えようとしているのがわかる。


「もしかしたら主は、もう我のことを忘れているかもしれないとか、別の誰かが側にいるかもしれないとか。不安になる日もあった。でも、我の元に帰ってきてくれて……本当に嬉しい」

 フェザーが顔を上げて、瞳をまっすぐにのぞきこんでくる。


「好きだ、主。そろそろ我の想いに……答えてくれないか?」

 願うように、不安そうな声を出したフェザーを、自分からぎゅっと抱きしめた。


「あ、主……?」

「私もフェザーが好き。大好きだよ」

 戸惑っているフェザーに笑いかけて、想いを告げれば。

「主……」

 フェザーが顔を情けなくほころばせて、翼まで使って私の体をくるんでくる。


「我は今、幸せだ。主が我の腕の中にいると思うと……夢じゃないかと思えてくる」

「私も同じだよ。もう、こんな日は来ないんじゃないかって……思ってたから。元の世界に帰ったはずなのに、帰りたいって何度も思って……頭に浮かんでたのはフェザーの顔だったよ」


 胸の中の気持ちがすんなりと言葉になる。

 素直に言えるのは、もう二度とあんな喪失感を味わいたくないからだ。


 そろそろ寝ようかとフェザーが言ってきて、小さなベッドに二人で横になる。

 肩を並べてどうにか二人寝ることのできるスペース。

 フェザーは体を横にして、壁側にぴったり張り付く。


「フェザーそれだと毛布からでちゃうし、寒いよ?」

「いやいい。気にしないでくれ」

「気になるよ」


 しかたないので、私からぴったりとフェザーの背中に寄り添って毛布を肩までかけてあげる。

 こちらを振り向いたフェザーは、困ったような顔をしていた。


「どうしたの、フェザー?」

「いや、その……そんなにくっつかれると困る」

 真っ赤な顔でそんなことを言われて、首を傾げる。


「主は……平気なのかもしれないが、我はそうでもないんだ。そんなに近くに寄られると……意味もなく抱きしめたり、口づけをしたくなってしまう。だから、だな……」

 しどろもどろになりながら、フェザーは言う。


 そんなことを言われると思わなかったから、少し驚いた。

 フェザーももう、男の人ということなんだろう。

 何だか少し照れくさいような、妙な空気が私達の間に漂っていた。


「えっとその……こ、恋人になったんだし、キスくらいなら……いいよ?」

「くらい、ではないだろう。本来、口づけはそう軽々していいものじゃないんだ。主はそう考えていないのかもしれないが」

 私をたしなめるように、フェザーが眉を寄せる。

 本当、今時珍しいくらいに奥ゆかしい考え方だった。


「そっか、ごめんね」

 それじゃあ寝ようかと、少し距離を取って眠ろうとすれば、フェザーがこっちに寝返りを打った。

 むくれた様子のフェザーと視線が合う。


「あっさりしすぎなのではないか? 誰も、しないとはいってないだろう」

 手首を掴まれて、チュと軽くキスをされた。

 衣擦れの音と共に、フェザーの手が私の背中に回されて、体を引きせられる。

 ぴったりと体が寄り添えば、とくとくと早い心臓の音がフェザーの体から伝わってきた。


「主の体は柔らかくて、温かいな……」

 くるりと体の位置が入れ替わって、フェザーが覆い被さってくる。


「愛している。主」

 見上げたフェザーの顔は、熱っぽくて。

 その声色はぞくぞくするほどに艶っぽい。


 その頭が私の胸の部分へと、下りてくる。

 体の重みが、ずっしりと私の体にかかる。

 フェザーとそんな展開になると思ってなかったから、思いっきり焦った。


「あ、あのね、フェザー! そういうのはまだ、心の準備が……!」

 まだ早いよと訴えたのに、フェザーは私の上から退いてくれなかった。


「フェザー、フェザーってば!」

 身じろぎしても、反応がない。

 それどころか……ぴくりともフェザーは動かなかった。


 変だなと思って顔をのぞき込めば。

 穏やかな寝息を立てて、フェザーは眠っていた。

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 お相手が別の本編「本編前に殺されている乙女ゲームの悪役に転生しました」「オウガIFルート」もあります。 よければどうぞ。
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