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【28】真相と暗号と

 高校時代よくサキやオウガと行った喫茶店に、林太郎を連れ込む。

 混乱しながらも、いつも食べていたナポリタンを注文して席についた。


 先ほど見た光景が……頭から離れない。

 天使のような愛らしい少年・ティルが、私の目の前でエルフの青年へと変身していた。


 ティルは甘えん坊の男の子だった。

 舌っ足らずなところがまた可愛い、三歳の人間の男の子。

 幼い体に巨大な魔力を持ち、感情が高ぶると強力な魔法攻撃をあたり構わず発動させてしまうところはあったけれど、性格は純真そのものだった。


 おねえたんと私を呼んで、慕ってくれていて。

 この間は兄のバイスも一緒にお菓子作りをして楽しんだばかりだ。


 あの場にいたウルドというエルフは、ティルのことをティリアと呼んだ。

 屋敷に刺客を送り込んでくるヒルダの姉。

 ティルはつまり、私達の敵だったってことになる。

 まさか、自ら少年になって屋敷に入り込んでいるなんて思いもしなかった。


 ……そういえば、ティルやバイスとすごすときは、必ずといっていいほどメアの邪魔が入ったっけ。

 元暗殺者の少年で、私のことを気に入ってくれていたメア。

 彼はヒルダが死ぬと自分も死んでしまう誓約を結ばされてしまったため、ヒルダの身を守らなきゃいけない立場にあった。


 守護竜のイクシスと交代で、よく私の護衛をしてくれていたのだけれど。

 バイスがお菓子を作れば私の口に入る前に全部横取りしてしまうし、ティルをお風呂に入れようとすれば、花街の子達をけしかけたりして邪魔をしてきた。


 どうにもメアは悪戯っ子なところがあったから、真面目なバイスをからかうのを面白がっているんだとばかり思っていたんだけど。

 もしかしてあれは……二人から私を守っていたんだろうか。

  

「それで林太郎。さっきのこと、説明してくれるわよね」

「……一年前、我が姉の魂が消失し、抜け殻になった体に別の魂が入った。奴らはその魂を狙って送り込まれた刺客だ」

 とりあえずは状況の把握からだと問いかければ、林太郎が気まずそうな顔になる。


「私にもわかるように説明して」

「いや言った通りだから! ふざけてるわけじゃないんだよ! 信じてもらえないかもしれないけど……」

 睨めば、素に戻った林太郎が弱った声を出す。


「去年のクリスマス前、姉ちゃん事故に遭っただろ? そのせいで魂がどこかいっちゃって、代わりに姉ちゃんの体に別の魂が入ってたんだ。その魂を狙って、異世界から刺客が送られてきてたんだよ!」


 その日以来、私の体を守るために刺客と日々戦い続けていたんだと林太郎は言う。

 普段なら「はいはい中二病なんだから」とスルーするところだ。

 でも、アレを見た後だと話は違う。

 黙ってその話の先を待った。

 

「サキ姉ちゃんやヒルダ様と協力して、今まではどうにか刺客を退けてたんだよ。でもこの間やってきた刺客の二人組がヒルダ様の知り合いで、敵に操られてしまってて、手出しができなかったんだ。俺が不覚とってやられて、大地兄ちゃんも狙われて……それで」

「ちょっと待って! 今ヒルダって言った!? ティルだけじゃなく、ヒルダもこの世界に来てるの!?」

 話を遮って、思わず大きな声を上げる。

 身を乗り出した私に、林太郎は少し驚いたみたいだった。


「あ、そうか! ヒルダ様と入れ替わりで体に入ってたから……姉ちゃんもヒルダ様のこと知ってるんだね?」

 さらに林太郎が衝撃の発言を被せてくる。


 どうやら、私の体の中に入ってた魂は……ヒルダのものだったらしい。

 ヒルダになった私に少年や暗殺者をけしかけたように、ティリアはこちらの世界のヒルダにも、刺客を差し向けていたようだ。


「そもそも、ヒルダとメイコの入れ替わりは……仕組まれたものだったのよ」

 林太郎の説明を引き継ぐように、サキがコーヒーを飲みながらゆっくりと話し出す。


 私達の入れ替わりを計画したのはヒルダの姉・ティリアで、彼女は、エルフの国の女王候補だった。

 血筋も申し分なく、魔力も歴代の女王をしのぐ高さ。

 ティリアは自分が女王になると疑わず、周りも彼女をもてはやして特別に扱っていた。


 しかしそんなティリアの前に、突然ヒルダが現れた。

 身分は低く、半分はエルフでなく人間。

 しかし、魔力は桁外れで、ティリアですら足下に及ばなかった。


 エルフの国は実力主義。

 女王には、全てのエルフの命を握るマナの木に魔力を与えるという重大な仕事がある。

 そのため、一番強い魔力を持つエルフの女が国の頂点に立つと決められていた。


 次期女王と指名されたヒルダに対して、ティリアは納得がいかなかった。

 彼女はヒルダに執拗な嫌がらせを繰り返し……そしてヒルダを人間の国に追いやることに成功した。


 しかし、黙ってやられるヒルダじゃなかった。

 ヒルダは置き土産として、ティリアに呪いをかけていったのだ。

 高度で解くのは難しいとされる性別転換の呪いにより男にされてしまったティリアは、女王になることができなくなってしまった。


 加えてティリアにかけられたのは、守護竜のイクシスや元暗殺者の少年メアにかけられていた誓約と同じ――ヒルダが死ぬと彼女も死んでしまう誓約。

 これによって彼女がどんなにヒルダを憎んでいても、殺すことはできなくなった……かに思われた。


 しかし、ティリアの恨みは相当なものだったんだろう。

 彼女は誓約を解く抜け道のような方法を、執念で見つけ出したのだ。


 通常誓約はかけた者が直接解除するか、その術者が死んだ際にしか解かれることはない。

 けれどヒルダの誓約は特殊で……ヒルダが死んだら、相手も死ぬ仕様になっている。

 つまり誓約を解いてほしければ、ヒルダにお願いするより他に方法はない。

 けれど、それはティリアのプライドが許さなかっただろうし、頭を下げたところで誓約を解くようなヒルダでもなかった。


 魔法の誓約において死とは、体と魂両方が死んだ時点。

 そこでティリアは、ヒルダの体と魂を別々に二度に分けて殺すことによって、自分が死ぬことなく誓約から逃れようと思いついた。


 ヒルダの体に他の魂を入れて殺し……同じように別人の体へヒルダの魂を入れて殺す。

 そうすれば誓約を結ばされている者は、それぞれ半死状態でとどまり、死ぬことなく誓約から抜け出せるのだという。


 ティリアはこの方法を実行するため、自ら少年になりすましてヒルダの屋敷に入りこんだ。

 そして私がヒルダになったあの日……ティリアは、ヒルダの魂を異世界にある別の体へ飛ばすことに成功したのだ。


 ティリアがヒルダの魂を飛ばした先には、私の体があった。

 入れ替わるように、その体に元々入っていた私の魂はヒルダの中に。

 つまりは最初から全て、ティリアの手の内だったということになる。


「何でティリアは……異世界にいる私の体にわざわざヒルダの魂を入れたの?」

 殺すためにヒルダの魂を入れる体が必要だったなら、別に私じゃなくてもよかったはずだ。

「魔法が存在しないことになっている世界で、ヒルダに無力感を味合わせたかったんだと思うわよ。向こうの世界でどんなに強くても、この世界のメイコの体は魔法も使えない、ただの人間だもの」

 疑問を口にすれば、サキが答えてくれる。

 

「ちなみに、さっき林太郎と戦ってたウルドって奴が指揮を取って、こっちのヒルダを殺そうとしてたのよ」

「サキ、やけに詳しいのね」

「……まぁね。ヒルダから色々聞いたりしてたし、ウルドの様子もチェックしてたから」


 ヒルダは、サキ達に自分の事情を結構話していたみたいだ。

 強い魔力を持ち、自分の身は自分で守れていたヒルダだったけれど、この世界の朝倉メイコはただのOL。

 さすがに協力者なしに、生き抜くのは難しいと思ったのかもしれない。


「予定では国から帰ってきたオウガに、ティリア達をどうにかしてもらって、それからメイコとヒルダの魂を入れ替えて終わりのはずだったんだけどね……」

 サキが頭が痛いというように、彼女にしては珍しい弱り切った声を出す。


「メイコ自体がトリックスターみたいなものなのに、強い運命を持つオウガやヒルダもいるもんだから、こっちの予測が狂いまくりなのよ……あたしが描いてた未来から大分ズレてきてるわ。まぁ、メイコが生きてるだけマシだけど……」

 ブツブツとサキが不満げに独り言を呟く。

 それから一気に残っていたコーヒーを飲み干した。


「とにかく、そういうことだから。今頃はあたしの暗号を解いて、オウガが二人組の刺客をやっつけてくれてると思うわ」

「暗号って……あれ、ちゃんと意味のある内容だったの!?」

「あぶり出したら、二人組の刺客が潜伏してる場所が出るようにしかけておいたの。たぶんあいつだったら分かると思うわよ。高校の頃にも何度かこの手使ってるし」


 ――さて、あたしたちも行きますか。

 そう言って、サキは伝票を持って席を立った。

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 お相手が別の本編「本編前に殺されている乙女ゲームの悪役に転生しました」「オウガIFルート」もあります。 よければどうぞ。
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