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罪に願いを 新世界の先駆者  作者: 綾司木あや寧
四章 魔剣使徒編
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月光世界(影) 6

「っ――――」


 アタシの問いかけに沈黙するレヴィさん。


「あの……レヴィさ――」

「とにかく、今は自分達の安全が最優先だよ、マノちゃん」

「でも、だからといってやっつけるだなんて……」

「……分かった。 じゃあ、やっつけるのは無しにする。

 でも、リバイアサンの身動きを少しでも鈍らせるために片足を使えなくする。 いい?」

「…………」


 良いわけは無い……けど、ここで否定したら、きっと本当にあのゾンビさんを殺しかねない気がする。


「はい……わかりました……」

「……うん。 ありがとう、マノちゃん」


 強張っていたレヴィさんの表情が柔和になる。


「じゃあ……防御魔法を解きますよ……」

「うん。 解除したら、部屋の外にいるリバイアサンも気付くだろうからマノちゃんは下がっていてね」

「はい!

 …………っ」


 寝室に張り巡らせていたダイヤモンドの加護を徐々に弱めていく。


「聖奥解放……」


 魔宝石の加護が弱める間にレヴィさんが水の魔力で弓と矢を生成する。


 ドンッ! ドンッッ! ガンッ!!


 魔宝石の加護が消えた瞬間、寝室と廊下を繋げる扉からは何度も振るわれた錆の塊が顔を覗かせる。


「レヴィさん――っ!?」


 彼女が作り出した弓は、様々な青色が代わる代わる現れては消えを繰り返す。


「……うん。 もう、いいよ、マノちゃん」

「っ……」


 レヴィさんの邪魔にならないよう部屋の端に逸れる。

 見た事の無い聖奥だ。 剣や槍を用いた聖奥以外にも弓型のものもあったなんて……。


「タイダル……」


 ハ゛ハ゛キ゛ハ゛キ゛ッ゛ク゛ュ゛!!!


 扉が完全に破られ、そこからはリバイアサンが……!


「アローレイ」


 ギゥッ……。


 瞬間、音を置き去りにした蒼い矢が一直線に射出される。

 直撃の寸前、矢の圧力から生じた波がリバイアサンを建物から押し出す。

 空中へと投げ出された肢体は重力に逆らうことなく地面へと叩き付けられる。


「……ェ…………」


 這い蹲るリバイアサンの姿は見てていたたまれない気持ちになる。

 いくら自分達の安全のためとはいえ、ここまでする必要があるのだろうか……。


「マノちゃん、サファイアの力を!」

「え……あ、はい!!」


 レヴィさんに促され、加速能力を最大限まで高める。


「ここから北に八千メートルの距離に聖域があるから、今度はそっちで作戦を練ろうと思うんだけど……良いかな?」

「あ、はい! 分かりました!」


 放たれていた虹色の光は矢によって建物が半壊したことにより、その輝きを失っている。 あそこはもう避難場所としては不向きだと判断したのだろう。


 飛行魔法で障害物が無くなるぐらいの高さまで浮上し、南へと進路を向ける。


「じゃあ、最速で行っちゃうんで、しっかりと手、握っててくださいね」

「うん……ふふっ」

「? な、なんですか?」

「あ、ごめんね。 こんな時だけど、今のマノちゃん、なんかカッコいいなって思っちゃって……」


 こういう状況で言うのはヒロインの相場。 アタシも言ってみたい…! ってか、手柔らかッ!?

 なにこれ!? フワフワもちもちプニプニさらさらで……マシュマロ触ってるみたいに柔らかい……。

 あーあッ!アタシなんて乾燥肌だから手、ガッサガサなのにィッ!(泣)


「あ、あのー…マノちゃん?」


 あ、もう柔らかい……一生にぎにぎしていたい……。


「マノちゃ〜ん?」

「……ん、え、はい?!」

「私の手が触り心地良くてにぎにぎするのは良いんだけど……」

「……?」


 レヴィさんが周囲に目線を配る。


「なんかさっきからね……」


 細長い羽根のついた虫がアタシ達と同じぐらいの高さで飛行している。 というか、アタシ達を囲んでいる。

 犬や猫のような顔だけど目は複眼の細長い虫……。


「さっきから、地上で吠えていた犬や猫の魔獣が虫に形を変えているみたいだから、早く逃げてほしいなぁ……なんて」

「…………」


 空を埋め尽くす大量の虫は、その一切がこちらを睨んでいる。

 ……うん! ヤバい。


「キ゛ィ゛や゛ぁ゛あ゛ぁ゛あ゛ぁ゛あ゛!?!?!?!?」


 汚い悲鳴を上げながら、北の方角へと全速力で逃げる。

 かなりの速度が出てるし、差が広がって……。


「「グギャァガワゴォン!!」」


 ッない!? 広がってないッッ!?というか差が詰まってきてるンですけどぉ!?!?


「ヤダヤダヤダヤダヤダヤダァァァあ~!!!」

「あ……」


 半泣き状態でスピードを上げようと体を振り回しながら飛んでいると急に体が軽くなる。 その前に声がしたような、、、


「っ……」


 涙を拭って、逃げながら周囲を確認するも、アタシの体におかしなところは無い。

 両手両足ともに何も無いし……頭がオカシイというわけでも、、、

 ……ん? 両手に何も無い…?


「……あ」


 獣面の虫が追ってきている後方、地上へと真っ逆さまに落ちていっている人影が一つ。


「レ゛ウ゛ィ゛さ゛ん゛お゛と゛し゛ち゛ゃ゛っ゛た゛ぁ゛あ゛ぁ゛あ゛ぁ゛!!!!!!」



 ⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛


「――――――!!!」


 影の月光世界にて、、、


「うん? 今、声がしたような……」


 男は周囲を見渡し、その声の正体に気付く。


「だ……ょう……」

「ッ!」


 物陰からの声を耳にした男はその声に聞き覚えがあった。


「は……ァ……う……」


 おぼつかない足取りで現れたのはゾンビのよう姿をした女性だった。

 ゾンビの女性は錆びついた棒状の塊を手にしている。


「お前は……まさか――!」


 男は腰に携えていた剣を引き抜くと、柄と刀身部分を分離させ、刀身部分をゾンビの女性に手渡す。


 腐り黒ずんでいた肉体はみるみるうちに人間らしい肌色へと回復、手にしていた錆の塊も、それが剣へと復元されていく。


「…………っ。 ……わた……し……は……」

「イオ、一体、何があったんだ?」

「分かりません……。 エナさ……団長が魔剣の力を使って、私を助けてくれた事は記憶にあるんですけど、それよりも前の記憶は……」

「そうか……ともかく、無事で良かった。

 あ、そうだ。

 そういえば、イオ。 ガイムの姿が見えないが……」

「…………」

「また、喧嘩か……」


 やれやれといった表情で頭を抱えるエナ。


「だってガイムが…!」

「分かった分かった。 夫婦漫才はガイムを見つけてからにしてくれ」

「めッ……!? もういいです!

 早くガイムを探しに行きますよ、団長!」


 茶番扱いされた事に悔しさと恥ずかしさとほんの少しだけ嬉しさを抱きながらも、それを隠すようにガイムという人物の捜索にあたるのだった。

エナ・グォリース(enA gorihS)

年齢 28歳

身長180cm体重82kg

髪型 ナチュラルアップバングショート

髪色 バターブロンド

瞳の色 群青色


北欧四魔剣の使い手を束ねる実質的リーダーであり、月光世界アヌールの一国、ニルプス王国の騎士団長を務めている青年。

所有している魔剣はレーバテイン。

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