断罪者の審判 色欲
バアル
身長161cm体重53kg
艷やかな黒のボブヘアに茜色の瞳をしている
六大世界とは異なる次元にある世界を治める暴食の悪魔ベルゼブブの補佐を務める女性型の悪魔。
口癖は「おや?」「おやおや〜?」
語尾に促音や捨て仮名が付くような喋り方をする。
好きなもの 全ての生きとし生けるモノ
嫌いなもの 不愉快と感じるモノ、都合良くいかないモノ
緑生い茂る美しい姿を取り戻した森奏世界。
自然と共存し、森の中に村を築く人々。それを見守り、知識を与える管理神。
全てが元通りになったと思われたこの世界に、ただ一つ……。
ただ一つだけ異物が残っていた。
「………?」
リスが物珍しそうに人間の眼球を見つめる。
触れたり、持ってみたりするも、木の実とは大きく異なるソレは、さほどの興味を唆られるものではなかったのか、すぐに飽きて何処かへと行ってしまう。
「…………!」
ギョロ!と動き出す眼球。
コロコロと動き回りながら、辺りを詮索する。
やがて眼球は一センチ程度の肉片、手入れのされていたであろう何本かの綺麗な髪の毛を見つけ、眼球に含まれる水分を用いてくっつけていく。
「…………おやおや」
人はいない。獣はいるが、人の言葉を話せるような獣はこの森奏世界にはいない。
なのに聞こえる人の声。
「さてさて…さっきのリスさんどこかなー?」
声の主は低い視線で先程まで眼球をいじっていたリスを探す。
「ん〜〜……。
ん〜〜〜〜…………。
あ! 見つけちゃいましたよっ!」
声の主がリスへと近付いていく。
近寄ってくるソレにリスは驚き、警戒したが、自分よりも小さいソレを不思議そうに見ている。
「うんうん! そのままこっちを見ててくださいねー……」
そして、次の瞬間。
「ゴボっ!?」
リスの口に何かが無理矢理詰め込まれる。
必死になって吐き出そうとするリスだったが、とうとうその何かはリスの体内に入りきってしまう。
「……うん。 胃袋が小さいからか、ちょっと窮屈ですけど、まあ、ヨシ子ちゃんとしましょうっ!
さて、次は〜…」
リスの体内に入ったソレは、リスの意識を支配し、移動手段として操る。
「あっ!見っけ! ふふっ!」
落ちていた木の枝や大量の落ち葉を集めるリス。
やがて集めた木の枝や落ち葉で何かを形作っていく。
「うーん……こんな感じですかねぇ…」
地面に縦に置かれた一本の木の枝を中心とし、上に楕円状の落ち葉、そこから少し下に横にした二本の木の枝、一番下に左右非対称の斜めにした木の枝を置き、棒人間のような形にする。
「おおっ! 我ながら美的センスがイイ感じっ!」
そして、自画自賛するリスが次の行動へと移る。
「えっと……魔法は……。うん!
クリアチオ」
リス、落ち葉、木の枝を中心に立ち込む虹色の魔力。
魔法文言に反応した木の枝や葉が立ち上がり、横に並べたり斜めに置いていた枝は、肘や膝を折り曲げるような動作をする。
「おおーっ! 上手くいった…」
パァン!!
リスが弾け飛ぶ。
粉々に吹き飛び出血した血が立ち上がった木の枝の周りを包み込む。
やがて茶色だったはずの木の枝は白色の棒に、楕円状の落ち葉は凹凸のある白くて硬い物体に。
草木で人の形を作っていたソレは、本当に人へと変容していた。
「ガイコツ状態!
スリムですけど、やっぱり可愛くはないですねぇ…。
なので……」
バシャン!
ひとりごとを呟きながら、近くにあった泉に身を投げる。
ブクブクブク……。
泉から息を吐くように泡が浮かびだす。
……ガイコツが入って数分、泉の中に生息していた魚が干からびた状態で浮かび上がる。
外傷はなく、泉が汚染されているわけでもない。ただ干からびているのだ。
ザバァーン!!
泉から出てくる大きな人影。
「うん…………うんっ!
人間を使わなかったわりには、結構可愛く錬成されたみたいですねっ!」
泉から現れたのは人間の少女だった。
ただし、本来、人の耳がある部分にはもこもことしたリスの耳がついていたが……。
「ま、これはこれでヨシ子ちゃんとしましょうっ!
さて、つぎは〜……」
少女は歩きながら木や葉に触れ、それらを錬成して衣服を作り出す。
「無地かぁ……もっと上手ければ着色とかも出来たんですけどねぇ……」
残念そうにしながらシャツとズボンを履き、ある場所で立ち止まる。
「おやおや……」
そこはなんの変哲も芝生だった。
(残留している光と闇の魔力。
光はアルハさんとして、闇の魔力はアスモデウス様ですかねぇ……)
「……ふふ。 よぉーしっ!」
両手を突き出し、少女は魔力を溜め込みだす。
「時よー……戻っちゃえっ!」
少女の言葉とともに解放された魔力が、正面の一部分だけを切り取り、芝生だった地面が小規模な宇宙空間、爆発を起こしながら水面へと姿を変えていく。
やがて水面には人の形を成す物体が復元されていく。
「…………」
切り取られたようなその一部分には水に下半身を浸した老婆が顔を伏せている。
息はあるが、その命はあとわずかという状態だ。
「おおー……アスモデウス様、なんて醜い姿! ……って、知ってますけどねぇ」
独り言を呟きながら少女は銀色の瞳を開眼すると、人差し指で老婆の眉間を突く。
「…………。
…………。
…………おやおや。
転生とはなんて贅沢な末路なんでしょう」
触れた事で記憶を読み取った少女は、一瞬だけ訝しげな表情を見せるが、すぐに笑顔を作る。
(老いぼれた状態だと新鮮味がないので、肉体だけは戻してあげちゃいますかっ!)
眉間を突く人差し指から生命力を送ると、老婆の姿はみるみるうちに若返っていく。
「フフ……綺麗で可愛いアスモデウス様の完成っと! あーあ……。
バアルちゃんのあやつり人形として動いてくれてれば良かったのになぁ……」
若返ったアスモデウスの口元を手で鷲掴みにする少女。
「ダメですよぉ、勝手に幸せになろうとするのはっ」
「!?」
少女の声に反応したアスモデウスがその瞼を開く。
「お久しぶり…いや、さっきぶりですねっ!アスモデウス様っ!」
(な……なんで……)
声を発せずにいるアスモデウスが心で呟く。
「なんで……ですか?
私が何の支配権能を持っているか忘れちゃいましたかぁ?」
(……! バアル、アナタ、ワタシの心まで……)
「はいっ! 読めちゃったりしますよっ!
でも、残念です……」
アスモデウスの口を掴む手とは反対の手には魔力で生成されたナタを持っている。
「!? !!」
何をされるか理解したアスモデウスは必死に藻掻く。 が、頭から下がピクリとも動かない。
「あ、肉体は死ぬ直前の状態なので壊死してますよっ?」
顔だけが動く状態のアスモデウスは現状を打破しようと表情を変えたり歪ませたりするも、そんな事をしたぐらいでどうにかなる筈もなく、バアルはその必死な姿をニコニコと見つめていた。
「さあ、ここでクイズですっ!
悪魔に殺された生命は、その悪魔が死なない限り、地縛霊のように永遠にその場で苦しみ続けますが……」
「んぅ〜〜ッッ!!!」
アスモデウスの目が血走る。
「それは、悪魔でも同様でしょうか?
シンキングタイム、すたーとっ!
じゅう…きゅう…はち……」
アスモデウスの顔を掴む手の力が強まる。
ツメが食い込んだ部分からは赤い液体が出ている。
「ンぅーーーー!!! ンッ!ンッッッ!!」
「なな……ろく……」
「ウ゛!ッ゛ん゛!」
ゴキゴキ……という音。 口元が柔らかくなってしまい、手から離れそうになるも再度掴み直す。
「ご……よん……」
「……っ…………」
死んではいないものの、すでに放心状態のアスモデウス。
「さん……に…………いち………………」
ガ゛チ゛ュ゛ッ゛!
脳天から振り下ろされたナタは、アスモデウスの頭を割り、そこからは脳髄が露出していた。
「正解は、影響されない。でしたっ!
そうっ!悪魔同士だと、どうなるわけでもなく消滅するんですっ! ざんねんっ!」
「…………」
アスモデウスは息をしていない。
「でもでもっ! バアルちゃんは優しいから、とっておきな事をしてあげちゃいますっ!
ピピリピロピロ〜!」
バアルがアスモデウスの亡骸へと魔法を使う。
「…………。
…………。
…………!? こ、ここは……」
「お目覚めですかっ、アスモデウス様っ」
「!? ワ、ワタシは……たった今、アナタに……」
「はいっ! ナタで頭をかち割って殺しましたよっ!
でも、優しいバアルちゃんは時を戻してあげちゃいましたっ!」
「時を……戻し……」
ガ゛チ゛ュ゛ッ゛!
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛!?!?!?!?」
おどろおどろしい断末魔が響き、すぐさま静寂に包まれる。
「…………」
アスモデウスの脳天はナタのような物で叩きつけられたように割られ、絶命した。
だが、次の瞬間。
「!? ワ、ワタシは……」
彼女の頭部は再生し、意識を取り戻す。
「はーいっ、これで二回目〜っと!」
「な、何をしたの!?」
「? なにとは?
私は、転生も苦しみもせず、魂が消滅するだけの可哀想なアスモデウス様に繰り返される生と死の祝福をプレゼントしちゃってるだけですよっ!」
「そ、それって……」
ガ゛チ゛ュ゛ッ゛!
アスモデウスの脳天はナタのような物で叩きつけられたように割られ、絶命した。
「!?」
「はい、これで三回目」
「あ……あ、あ……」
アスモデウスの表情が曇っていく。
「あ、気づいちゃいました? 記憶、引き継いでいること……」
「今すぐ殺しなさいッッッ!!
アナタの手で構わないから!お願い……」
「おやおや……せっかく若返らせてあげたのに死にたいだなんて……。
贅沢ですねぇ、アスモデウス様は……」
ガ゛チ゛ュ゛ッ゛!
「あ……ア…ア…ア……お願い……します…………。
殺して……ください……」
「…………どうしよっかなぁ。 殺しちゃうと楽しくないしぃ……」
熟考したバアルは「うんっ!」と頷き、、、
「やっぱりずっと生きて死んでくださいっ!」
「…………や……い、ヤ…………」
ガ゛チ゛ュ゛ッ゛!
笑顔を崩すことなくアスモデウスの願いを拒絶した。
「…………」
「ふふっ……」
「………………」
「…………おや?」
「……………………」
「……おやおや? もう、考えるのを止めちゃいました?」
「………………………………」
返事は一切無い。
「…………おや。
こんな異常な状況、アルハじゃなくとも調べに来ると……」
「っ……」
アスモデウスの顔がピクリと動く。
「でも、残念っ! それも対策済みですっ!」
「………………え」
力無い声で聞き返す。
ガ゛チ゛ュ゛ッ゛!
「実はアスモデウス様のいるその一部分だけを全ての世界から隔離された別空間にしてるんですっ。
だから、魔力を感じる事も千里眼みたいな異能力で姿を視認する事も出来ないんですよっ! たとえ創造神でも……」
「っ…………」
「ん? 神ですら干渉できない能力をどうして使えるか……ですか? そんなの……」
目を閉じて、少し間を開けるバアル。
「そんなの……私がこの世界から拒絶された神だからに決まってるじゃないですか」
「………………ぇ」
ガ゛チ゛ュ゛ッ゛!
何事も無かったように森奏世界は時を刻む。
世界の狭間にできた小さな空間で少女を象った悪魔が死に続けていることなど露知らず、命が育まれ、神は人と知恵を交える。
「……ロ……テ……」
ガ゛チ゛ュ゛ッ゛!
悪魔は転生による幸せは望まない。
死に続けるのであれば生きていたいとは思わない。
「…………し……テ……」
ガ゛チ゛ュ゛ッ゛!
自らを神と言ったバアルは、彼女の心が救われる直前に永遠の生と死という絶望を与えた。
今、ここで自らの死を望んでいるのは悪魔アスモデウスではなく、人となりかけた少女。
「それを理解していたからこそ、バアルはアスモデウスの恐怖する姿に驚く事は無かった……と」
ガ゛チ゛ュ゛ッ゛!
「貴女の罪は、私の殺害と魔転化解除です。
魔転化のまま、アルハさんを倒してくれていれば、楽にしてあげたのに……」
カ゛チ゛ュ゛ッ゛!
「ああ、そうだ。
貴女の中に隠しておいた色欲の悪魔の力、私が戴いちゃいますねっ」
いつ得たのかは分からないが、バアルは思考停止状態で殺され続けるアスモデウスに魔力の核を手に取って見せる。
「残念なことに、半分はアルハさんに渡してしまったみたいですけど、半分あればアザトゥス様復活には事足りるでしょうっ!」
ガ゛チ゛ュ゛ッ゛!
「さようなら、悪魔だった可哀想なお嬢さん」
切り取られたアスモデウスのいる空間が世界の狭間に隠されていく。
もう、誰にも彼女を救うことは出来ないだろう。永遠に。
「と、いう感じで今日のお話はおしまいですっ!
カワイイバアルちゃんは今回の出来事を手記に残し、物語は魔剣使徒編に続くのだった……なーんて」
これにて森奏世界編は完全に終わりです。 大罪の悪魔が罰を受けて素晴らしい終わりだと自分でも満足しています。
次回からはマノ視点で紡がれる新章【魔剣使徒編】が始まりますのでよろしくお願いします!
よければブックマークやイイネ!をしていただけるとありがたいです。
次回は2022年7月2日18時投稿予定です。




