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罪に願いを 新世界の先駆者  作者: 綾司木あや寧
三章 森奏世界編
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色欲の悪魔 15

 魔力の回復していない状況で二発目までよりも多い力。

 初期化された森奏世界に残る水や土といった物からも力を吸収しているのだろうがそれだけじゃない。

 彼女は生命力すらも魔力に変え、槍に吸収させているんだ。


「っ…………」


 その弊害か、アスモデウスの目は白くなり、肌の色は薄汚れ、顔にシワが浮かび上がっていってるのが見受けられる。


 その姿は彼女が嫌う"醜いモノ"だった。

 美しいモノに執着するはずの悪魔は、自分の終わりを悟り、眼前の敵を倒すためだけに自らそれを選んだ。


「ゔッ……オぇ…!」


 吐血する。

 ゼェゼェ…と苦しそうに呼吸をしている。


「剣を……抜きなさい…………」


 まともに息も吐けない中、彼女は俺に戦うよう催促する。


「………」


 魔力の剣を作り出し、この戦いで最後となるであろうその言葉を呟く。


「聖奥……解放…!」


 騎士の化身が背後に現れる。

 剣を空に掲げ、化身の力を刀身へと集中させる。


「行くぞ……」

「…………」


 舌が回らないながらも、口を大きく開き、必死に呼吸をするアスモデウス。

 動くためだけの生命力を残し、それ以外を全て魔力として消費した事で、もう、誰かも分からないほど年老いている。


「ッ――――――!!」


 放たれる邪奥アクスリウルペネトレイル。

 宿った魔力により、槍は二倍にも三倍にも肥大化し、こちらを捉えている。


 アレに打ち勝つのは不可能。

 ぶつけ合うんじゃない。切り拓くんだ、あの闇の塊を。


「っ!」


 こちらの化身の力が完全に剣の刀身へと宿った。


「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!」


 掠れた咆哮を上げながら、軍旗の槍を前へと突き出す。

 二発目までとは異なり、周囲の気温低下や魔力の放出は無く、(てき)を貫くためだけに向けられた槍。


「行くぞ……」


 濃縮された魔力により白銀に輝く剣は、その刀身を一際大きく見せている。


 防御だけでは競り合う事も出来ず負けるのは明白。

 故に、こちらも守りを捨て、攻めに転じ、、、


「はァ―――っ!!」


 最後の一撃に全てをかける!


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!!!」

「はァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」


 ガギャシャァァァアアン!!!!!


 複数の物体が壊れた音。


 魔力で形作っていた俺の剣は当然、粉々に砕け散り、アスモデウスの槍も柄に近い部分を除き穂は砕けている。


「っ!?」


 思わず体がよろめく。

 視線を落とすと左腹部が抉れ、出血している。


 バシャァァァン!


 それと同時に背後から聞こえてくる水の音。


「アスモデウスっ!!」


 何が起きたのかは理解していたが、反射的に彼女へ駆け寄っていた。


「おい、アスモデウス!おいっ!」

「……………う」

「アスモデウス! 聞こえてるんだな!?」


 俺の呼びかけに反応して、彼女が重たい瞼をゆっくりと開く。


「っ………あ……」

「ッ―――!」


 開いた瞳は濁った緑色に変色していた。


「あ…るは……どこ……?」

「っ…………」


 見えていない。

 視力を失ったアスモデウスは、俺を探しているのか手を伸ばす。

 伸ばされた手を包むように握ると、それに気付いたのか指と指の間に絡め、握り返してくる。


「そこに…………いたのね………………」

「ああ……ここにいる…っ」

「……そんなに…つよくにぎらないで…? いたいわ……」

「あっ、悪い……」


 アスモデウスの変わりように感情的になってしまってる……。


「……どうして」

「……え?」

「どうして……そんなに悲しそうにするの…?」

「どうしてって…そんなの――っ!」

「ワタシは……大罪の悪魔で、アナタは神様……。

 神様であるアナタは、ワタシを殺して、世界に平和をもたらすのが目的……でしょ?」

「違う!

 俺は殺すつもりなんて最初から無い!

 お前たち大罪の悪魔だって元は天使だ。 大罪さえ取り除けば、どうにだって出来た……。

 出来たはずなのに……」

「……ふふっ。 そうね……あの子が死んでいないんだもの………。

 他の神がどうだったかは分からない……でも…」

「っ……!」


 アスモデウスの手が俺の頬に触れる。


「アナタになら……コレを託せる……」


 頬に触れる彼女の手から、負の力が蓄積されたモノが送り込まれてくる。


「これは……」

「色欲の罪の権能。

 ワタシの中から…コレが無くなったら、きっと……その瞬間に、ワタシは枯れ木のように朽ち果ててしまう……」


 そう話す間にも、アスモデウスの体からは水分が抜け、黒ずんでいく。


「元々のワタシは……おばあちゃんだった。

 他の天使のように不老の呪いを自発的に使おうとはせず、いつか絶えるその時をただ待つだけの老婆だった。

 ただ、ある時、色欲の罪がワタシの中に棲みつき、それをよく思わなかった神々の判断で神罰を受け、ワタシは彼の楽園を追放された。

 楽園から追い出さ…れ死の寸前にまで追い込まれて……いたワタシを救ったのがあの…方だった…………」

「アザトゥスか……」

「え…え。

 …………それからのワ…タシは、世界を点…々と彷徨っ………ては若い女の……体を乗っ取…り、残った魂をあ…の方に捧………げてい…た………。

 そして…あの日……ワタシは……見つけた…の。

 ……僅かな…汚…れす………ら無…いあの子を……」

「マノの…ことか?」

「マノ? …………………あ、ええ……………そ……うよ…。

 神殿…で………」

「神殿? それって……」

「…………」

「……? アスモデウス?」

「………………」


 頬から彼女の手が離れる。


 四肢の末端が黒い泡となって徐々に消滅していく。 アスモデウスの生命活動が完全に停止したのだ。


「っ…………」


 四肢が消滅し、それらを繋げていた胴体も黒い泡となり消滅し始めている。

 手足合わせて四つを繋げていたからか、胴体は数倍の速さで消滅をした。


 そして、最後に残った頭部が消滅を開始する。


「聖奥解放……」


 空から光の線を落とし、黒い泡となって消滅しかけているアスモデウスの頭部にその光を注ぎ込む。


(ダメだアルハ!)


 頭の中にクロノスの声が響く。


(君は何をしてるか分かってるのかい!?

 そんな事をすれば、君は神罰を受けかねないんだよ!?)

「…………」


 分かっている。

 分かっているが、彼女を、悪魔たちを今の状態にしたのは他でもないオレたち神だ。

 なら、良いじゃないか。 たった八十年ぐらいの幸せな時間を与えたって。


「汝を、新たなる世界へと誘おう。

 レインカルナティオ」


 残っていたアスモデウスの頭が黄金色の光に包まれ、次の瞬間に消滅する。


(なんて……なんて愚かな事をしたんだ、君は……)

(悪い、クロノス。 これでオレに極刑が下ったら、後はよろしく頼むわ)


 ラドジェルブによる光の力に生命魔法の魔力を加えた聖奥レインカルナティオ。

 それは、如何なる生命でも近代世界へ任意の種族で転生させる奇跡の御業。

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