色欲の悪魔 12
ハ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛!!!!
衝突により周囲に広がる衝撃波。
水面が激しい水飛沫を起こし、大地は揺れ動く。
互いに交わった得物を弾くように一歩後ろへと後退し、次の一手へと移る。
「聖奥解放!」
「邪奥解放!」
白銀の騎士の化身が俺の背後に現れる。が、アスモデウスの背後にも六枚羽の真っ黒な女天使の化身が姿を現す。
「ナイトオブ……」
「アクスリウル……」
それぞれ背後の化身を纏い、俺は斬撃を、アスモデウスは突き技を仕掛ける。
「セイバァァァッ!」
放たれた聖奥は、あらゆる光を剣に集めたことで光の柱を広範囲に形成し、こちらの視界に広がる一切の光景がキラキラと輝く色彩に染まる。
「ペネトレイルッ!」
極彩色の煌めきから一秒経たずして穿たれた槍撃と、振り放つ動作により生じた聞いたことの無い音。
その音が世界全体の温度が急激に低下したことによるものだと気付くのに時間はかからなかった。
聖奥で彩られた光を一瞬にして飲み込み、どこまでも真っ暗な闇がこちらを襲う。
「ッ……?! 聖奥かいほ…!」
その禍々しい一撃に怯み、動作が遅れる。
結果、邪奥アクスリウルペネトレイルは俺の左肩の付け根を貫いた。
「っ…………」
「ふーん……」
槍を地面に突き立てながら、残念そうに俺を見る。
「神経を切ったから使い物にならなくなったと思ったのだけれど……。
剣を握るぐらいには使えるみたいね」
「ははっ……急所を外しといてよく言うぜ…」
「あら? 気付いてたの?
じゃあ、次こそは……」
槍を持ち上げ、突き技の構えをするアスモデウス。
「終わらせてあげる」
その言葉で、より周囲の気温が下がったように感じた。
水の表面は凍りだし、吐く息も白く視認できるほどだ。
どうする?
対となる属性の聖奥であるナイトオブセイバーではあの闇を超える事は不可能。
「ふ……ッ!!」
アスモデウスの槍が俺を目掛けて迫る。
あれは、邪奥じゃない…普通の攻撃だ! なら、どうにか対応が出来る…!
「はァ―――っ!」
ガギンっ〜〜!!
先端部分を弾き、彼女の手から遥か上空へと飛ばされる槍。
「くっ……う!?」(ウソでしょ…何でまだあんなパワーが…)
俺の余力に驚きを隠しきれないのか、アスモデウスが体制を崩す。
今なら致命打になる一手を与えられる…!
槍を弾き飛ばした事で隙が生じているのは俺も同じだ。でも…!
剣を逆手に持ち直し、間隔を開けないよう刺突を放つ。
「チィ…!! ファボエル!」
「何ッ!?」
ボォウ!! 燃え盛る火球がこちらの剣戟を鈍らせ、新たに生じたその隙に上空へと弾かれた槍を取りに飛行魔法を使い、空へと舞い上がるアスモデウス。
「あぐッ!?」
火の粉が目に入った!
少しすればどうとでもなるだろうが、この状況で視界が塞がるって……。
ガシャ!
その瞬間、上空では槍が何かにぶつかる音……いや、ぶつかると言うより、手にしてしまった音だろう。
グュュュュ……!
風を切る音が凄まじい速さで迫ってきている。
痛いのは好きじゃないが、選べるほどの余裕も無い……。なら、選択肢はこれしかないか。
右腕は不滅の支配権能による再生不可の呪いを現在も受けている右腕に剣で切り傷を作り、自傷で血を体の外へ出す。
(っ? 目を閉じて右腕を切っている?
……ああ、そういう事。
さっきのファボエルの炎が目に入っちゃて、どこに何があるのかも分からないのね、カワイソ。
でも…そんなの知った事じゃない!!)
ガバゴシャァァァン!!
アスモデウスの槍が貫いたのは地面だった。
「ッ!!」(避けた!? 今のスピードを!?)
ヒュギィゥゥ……。
槍が触れる刹那で回避をしたが、音からして約十メートルほどの距離がある感じか…。
失血で戦闘続行が難しくなる事も考え、回避した直後にブラッドブーストを解除したが、このまま突っ込んだ方が手っ取り早くケリがついたかもしれないな。
「……なるほど、ね」
納得したように呟くアスモデウス。
「ブラッドブースト……視界が塞がれた状態ではワタシの攻撃を事前に避けようとすれば、それに合わせてワタシも動きを変えると読んで、直前で回避できる超加速化能力を使ったのね」
「わーお、解除するタイミングで消えかけていた紅いオーラを見ただけでそこまで考察できるのかよ」
「まあ、ね。
それに、以前、ワタシの爆発攻撃を回避するときにも一瞬見たし……」
「あー……そういや、あったなぁそんなこと……」
あの時はヤバかったなぁ…って…ん?
火の粉による視界不良がマシになってる…?それに、右腕もついさっきまでは痛覚も感じなかったのに今は……。
「はァァァ!!!」
「っ!?」
キンッッッッッッ!!
「急にはヒドくない?」
「はぁ……言っ…たでしょ……はぁ…はぁ…時間が無いの…ッ!」
時間が無いと言い、鬼気迫る勢いで槍を振るうアスモデウス。
しかし、槍撃は衰えるどころか、一撃毎に力と速さが増していき、次第に俺は防戦一方となっていた。




