色欲の悪魔 6
由利の肉体の主導権を得た黒百合の支配者、リリラクブ。
周囲に咲かせた百合の花は、それぞれがうねうねと独立して揺れ動いている。
「リリラクブ……。
俺が聞いたことが無いって事は、アザトゥスが新たに造り出した神か」
「あの神を知っているのか」
「この六大、近代から追い出した神とはいえ上位の神だったからな。 あんな有名神、知らない奴の方がおかしいぐらいだよ。
んな事より、さっさとその体、持ち主に返してやれよ」
「汝にどうこう言われる覚えは無い」
「無くても返せよ。ひとのものをとったらどろぼーだぞ?」
「やかましいッ!! リリィは妾のモノじゃ!汝は何様のつもりで言って…」
「神様でぇっーす! さっき説明しました〜あ!
え、なに、お前、人の話聞かない系の神?嫌われるよ?
人の話を聞かない奴は誰からも相手にされなくなるよ?俺みたいに!(どやあ…!)」
「……言ってて悲しくならないのか」
「……」
「……」
「ラドジェルブ」
「ッ!?」
ちょっとムカついたので由利に肉体の主導権を戻そうと不意打ちラドジェルブを打ち込む。
しかし、リリラクブが周囲に展開していた百合の花が盾となりラドジェルブの光を吸収、その後、その百合は浄化され消滅した。
「あーあ……」
「何が「あーあ…」だ!汝は本当に神か!? こんな手で解決しようとして恥ずかしくはないのか!?」
「恥ずかしい?なんで?」
「神は神でも悪神だな、アンラ・マンユだな!」
「うわ、ひっでぇ。けど、近い。
ま、神なんて、ほとんどがクズの集まりなのに自分がピンチになったりするとそういう事言っちゃうんだもんなーお前みたいに」
「……ああ、そうか。
汝がそのような考えでいるのなら、こちらも手加減は…」
「ラドジェルブ」
「危なッ!!」
話が長かったのでラドジェルブを再度打ち込むも、またしても百合の花に防がれてしまう。
しかも、あの花、すぐに生み出せるらしく全然数が減ってない。
「私の話を聞けぇぇぇ!!!」
「だって長いんだもん。 あと、口調、崩れてんぞー」
「言い慣れてないんだから仕方ないでしょ!」
「じゃあ、なんで、そんな面倒な言い回ししてんだよ……」
「雰囲気だ! 一人称妾で、偉そうな口調の方が威厳を感じるからな!」
……うん。厨二病の金髪碧眼幼女の姿をした管理神と近いモノを感じるわ……。
「分かったから早いとこ攻撃してこいよ」
「言われなくて…も……うっ……あ…」
「?」
リリラクブの動きが止まる。
「あ…………………」
必死になって出た言葉は「あ」の一言だけ。
その一言だけ出て、リリラクブの周囲に咲いていた百合の花が一輪、また一輪と朽ちていってる。
「おい…お前、大丈夫か?」
「………………」
返事は無い、目は開いているし、白目を剥いているわけじゃないので視界見えてないわけじゃないんだろうが、、、
「………………ア…あ!」
「っ!」
次に漏れた声は怯えるような、恐怖するような声。
「ハァ゛!はァ゛!ァ゛はァ゛!はァ゛!ハァ゛!」
なんだこれ……。呼吸をしているのか…? でも、明らかに……。
瞬間、、、
【ト゛ク゛ン゛ッ゛!ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛………】
天を仰ぎ、水中から取り出された魚のように口をパクパクとさせる由利。
「由利っ!!」
フラフラとしている彼女に慌てて駆け寄り体に触れた時、その異常に気付いた。
間隔がないほど聞こえてくる心拍音、これに合わせようと無意識に呼吸をしようとしているのか?
でも、これは……一分換算で一万回の心拍数って……。
体に宿した支配者によりなんとか持ち堪えているんだろうが、このままじゃ呼吸困難で……。
どうする……。この心拍数は病気とかそういうレベルのものじゃない。 とすれば、ラドジェルブを使えばどうにかなるのか?
「ア゛…………!」
「っ…!」
【ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛ト゛ク゛】
この間にも由利の心拍は鳴り続け、口をパクパクとさせ藻掻いている。
考えていても仕方がない…!
由利の体を柔らかく抱きしめ、ゆっくり、ゆっくりと、ラドジェルブを彼女の体へ送り込む。
最高威力で一気に落ち着かせる事も可能だが、そんなやり方で彼女の肉体や精神に負担を与えるわけにはいかない。
ゆっくり…ゆっくり……。
慎重にラドジェルブの光を注ぎ込んでいると、心拍数が少し、また少しと減っていってるのが伝わってくる。
「カぁっふ……はくァふ………」
ぎこちないが呼吸を取れてきているようだ。
「ふクゥぅぅぅぅ………フゥぅぅ……はぁ〜〜〜〜ッ……!?
ハッ! はぁ…はぁ…はぁ……」
「おっ、もう平気みたいだな」
「………っ」
目を丸くして俺を見つめる由利。
「……う。 ………うっあ。
ぅ゛わ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛!!!!!!!!」
呼吸をとれるようになった安堵からか、俺の胸に顔を埋めて泣きじゃくっていた。
抱き合っていたからか、由利の感情が流れ込んでくる。怖くて、悲しくて、辛くて、真っ白で、、、
完全に壊れる直前だった。
この壊れるというのはリリラクブが由利の肉体を使い、現れたのが原因で起きてしまった。
支配者と契約した人間の肉体主導権を支配者側が一定時間以上利用すると、人間側の精神は破壊される。んだと思う…多分。
良くて廃人、悪ければ……。
先程の由利のような呼吸困難に陥って、死ぬ。
でも、支配者にとっては自分が収まる器でさえあれば死体でも構わない…という事なのだろうか。




