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罪に願いを 新世界の先駆者  作者: 綾司木あや寧
三章 森奏世界編
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色欲の悪魔 5

「ムタクスル」


 初期化され、全ての陸地が冠水した森奏世界。


 放たれた無色透明の泡状の大罪魔法ムタクスルは水に触れた途端、シャボン玉のように破裂し、森奏世界全体の水は溶かした石鹸を入れたように濁りだす。


「ふむふむ…これでファウヌス様は倒したも同然ですねっ!」

「……」

「では、私はアスモデウス様の身動きを封じたらしき自称カミサマを探しに行きますねっ! ファウヌス様が庇い、なおかつ転移させた…という事は、十中八九遠方へ転移させているでしょうから、ちょっと時間がかかっちゃうかもですけど……」

「……」

「……」(うっわぁ……アスモデウス様、関わるなオーラ全快だなぁ……。

 早いとこ離れちゃおっと!)


 雰囲気の悪さから、バアルはその場から逃げるようにアルハ達の捜索を始める。

 十秒にも満たない時間で二人の距離は視認できないほど離れる。


「……ナメられたもの…ね」



「さぁ〜て!さてさて!

 自称カミサマとクロユリちゃんはど、こ、か、な〜? っと、おや?」


 空を翔けるバアルが地上へ目を向ける。

 そこには長髪の男が膝を付き、喉元を掻きむしりながら身悶える姿が、、、


(あーあ…。流石の管理神サマでも、今のアスモデウス様の大罪魔法を受ければそうなっちゃいますよねぇ……。

 色欲の力を多少なりと保有しているクロユリちゃんは影響が無いとして、あのカミサマはどうなっているかワクワクしちゃいますねぇ)

「ふふ♪ 泣き喚いていたらいいなぁ…」



 場所は変わり、洞窟から南へ数千kmの位置。

 俺と由利はファウヌスの転移魔法で、かなり離れた場所まで飛んでったらしい。


「あぁ~~……体が動かにゃいぃぃぃ〜〜……」


 そして私ことアルハ・アドザムは、人の肉体で神に等しい力を使ったがために頭から下がピクリとも動かなくなっていた!


「アルハさん、だいじょうぶ…?」

「だいじょぶじゃない……。もうダメだ、おしまいだぁ……」

「あ……え…う……」


 oh……。

 どうすれば、何をすれば良いか分からず慌てふためく黒髪天パの少女を寝そべった状態で俺は思った、この狼狽している姿をもう少し目に焼き付けたいと……。


「あ、もう少ししたら回復するだろうから、そこまで慌てなくても平気だぞ?」

「えっ…あ、そう…なんだ……」


 ホッとした表情で胸をなでおろす。

 瞬間――――


「じゃあ……」

「っ……?」


 由利がこちらへと近寄ってくる。 そして、、、


「ッッ!!」


 息を吐き散らす様に迫る彼女は、その小さな手で俺の首をへし折ろうと掴みかかる。


 マズい……コイツは……!


 そう思った時には遅かった。

 その顔つきには先程までの気弱そうな面影は一切無く、ギラギラとした眼差しで俺に殺意を向けている

 今、由利の肉体の主導権は、百合の支配者が握っている…!


「クックックッ……」

「…………!!!」


 少しでも藻掻いて呼吸をしようと試みるも、息を吸うことも吐くことも出来ない……。


 肉体の感覚が現在進行系で戻りだしてるとはいえ、まだ指先が少し動かせるぐらいで、これじゃあ大した事も……。


 っ――――!そうか!


「っ……!!」


 指先を由利の顔スレスレの部分に向け、声にならない声で火炎の魔法名を呟く。


 ボォぉぉぅッッ!


「うグッ……!? あァァァああッッッ!!」


 最小威力で放ったファボエルが由利の睫毛を掠め、首を掴んでいた手が離れる。


 バシャっ! と、支えが無くなった俺の体はその場へ崩れ落ちる。


「ゲホッ!ハッあ……はぁ…はぁ……」

「ウゥう………おのれぇ…おのれぇ…!」


 呼吸をしながら、飛行魔法を用いて体を立たせる。

 焼けた睫毛を手で覆う由利は、憎らしそうな眼差しを向けている。

 …よく見ると、目から血が流れている。 ファボエルが皮膚に当たってたのか……由利の意識になったら謝らなくちゃだな。


「なんだかんだでお前と会話するのは初めてだな。

 お前が由利を苦しめている支配者か」

「……苦しめている…か」


 ? なんだ、今の反応……。


「ああ。 妾こそ、この少女の肉体に巣食う外なる神であり、黒百合の支配者と呼ばれるモノ……」


 水辺となっている足元から、いくつもの黒い百合が咲き出す。

 通常よりも大きく成長している黒百合は、由利の体を包み込むほどになると、一枚…また一枚と百合の花弁が枯れていき、包んでいた茎も茶色に変色して枯れていった。

 枯れたこと立ち込める不快に思えるほどの甘ったるい香り。


 包まれていた百合の中から現れた黒百合の支配者は、漆黒のドレスへと装いを変え、百合の花弁模様の瞳をした少女がそこにはいた。


「妾の名は、リリラクブ」

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