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罪に願いを 新世界の先駆者  作者: 綾司木あや寧
三章 森奏世界編
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色欲の悪魔 4

「ハァ……ハァ……」


 ガギンッ!

 地面に突き立てられる槍の音。

 見渡す限り青々しかった森奏世界は、アスモデウスの放った爆発魔法により、灰色の荒れ地へとその形容を変えていた。


(近くにある魔力反応は四つ、頭の痺れはまだ残ったまま…ということは、あの最奥を放った自称カミサマは存命、魔力量が低い二つはあの器と森奏の管理神。 そして、もう一つの魔力は…)


「それよりも今は……この傷をどうにかしなくちゃ…」

「おや?おやおやおや〜?」

「っ!?」


 何も無いはずの荒れ地から聞こえる陽気な声。

 アスモデウスの前方、蜃気楼の揺らぎが人の形を成していく。


「アスモデウス様ったら〜ボロボロじゃないですか〜!」

「貴女には関係無いでしょ……」

「あはっ、そうですねー」


 女はアスモデウスの姿を笑い飛ばしながら、その周囲をクルクルと回る。


「でも、今回は関係がありますよ〜。王様からアスモデウスが劣勢に立たされたら助力しろー!って言われてるんですからっ♪」


 陽気に答える女、それに比例し、アスモデウスの表情は曇る。


「そう……。どうして彼の補佐官がここにいるかとも思ったけど、ワタシは信頼されてないみたいね」

「我々は敵同士が目的のために一緒に行動しているだけですからね〜。

 友情とか絆とかを信じていた感じですか?」

「……別に」

「あー!アスモデウス様つーめーたーいー!

 バアルちゃん、悲しすぎて泣いちゃいます…ぴえん…」

「何それ。貴女、そんなキャラだった?」

「んもぉ〜!さっきの自称神様のモノマネですよぉっ!

 と、まあ、冗談はヨシ子さんしといて……。

 はいっ、どーぞ!」


 バアルはポケットから液体の入った小瓶を差し出す。


「何これ」

「バアルちゃん特製、完全無欠エリクサーですよっ!

 飲むと体力、魔力が全快しちゃったりしなかったり〜?」

「必要ないわよ、そんな物。 今は一度、伏魔殿に……」

「たいした成果も出せなかったのに帰還するつもりですかぁ?」

「っ……!」

「アスモデウス様がこの森奏世界でしなくちゃいけない事は三つありました。

 管理神の抹殺、世界の初期化、黒百合の支配者の覚醒。 でも……。

 アスモデウス様はそのどれか一つでも達成したんですかぁ?」

「それは……」

「あっはは! 出来てないですよね〜?七つの大罪で支配者の力まで使ったのに〜!」

「ッッ〜〜!!」


 (あざけ)るバアルに言い返す言葉もなく、彼女の持っていた小瓶を荒っぽく取り上げると、中に入っていた液体を一気飲みする。


「ごくごく………」

「わぁ…! イイ飲みっぷりですよ、アスモデウス様。

 これなら……」


 笑顔が消え、無表情のバアルの瞳が銀色に染まる。


「使い捨てても問題無いですね」





「ふぅ~……あの泉の奥から、この洞窟に行けるとはなぁ…。

 由利、ケガ無いか?」

「うん、平気だよ。 あの下着だけの男の人に色んなところを触られてムズムズするけど……」


 あのインキュバス、ロリコンかよ……。


 アスモデウスが爆発魔法を発動した瞬間、奥の手として残していた第二段階の神王の瞳を開眼し、ファウヌスと由利を救出していた。


 神王の瞳 第二段階は人の体では使用時間が極僅かな時間に限られるが、第一段階でもあった全ての能力向上に加え、時間跳躍、次元移動、空間移動、擬似的な世界創造等が行える。

 アスモデウスの攻撃は、森奏世界そのものに干渉していて、まともに避けても無意味だっただろう。が、神王の瞳の異能力で別次元の森奏世界に俺、由利、ファウヌスのみを移し、二人が捕らわれていた泉の奥にある洞窟の入口へと移動。 その後、元の次元に戻り、洞窟内部だけを森奏世界から切り離し、別の空間として隔離する事で被害を防いだのだ。


 ブラッドブーストを発動したうえで、二秒ぐらい使ってたからどうなるかと思ったけど、どうやら取り越し苦労だったみたいだ。

 しっかし使うの早すぎたなぁ……。でもあの場で使わないとみんなお陀仏だったし、結果オーライなのか…?


「□□□」


 やつれた顔をした傷だらけの男が(多分)俺の事を呼ぶ。


「お前の顔見るの、いつ以来だっけな?」


 懐かしさから笑みが溢れつつ、男の体に治癒魔法を使用する。


「□□□が以前こちらにいらっしゃった時以来……千年ぶりですよ」

「千年かぁ……変わらないな、ファウヌスは」

「□□□が神だというのに変わり過ぎなんです」

「そうか? 自分では変わったつもりは無いんだけどなぁ〜」

「アルハさん……」


 服の袖をぐいぐいとひっぱる由利。


「この人がアルハさんの言ってた人?」

「イエ〜す、俺の古友、ファウヌスだ」

「ファウヌスです。□□□の御友人、以後、お見知りおきを……」

「あ、はい……よろしくおねがいします……」(あれ?今、誰の友人って言ったんだろう……。

 聞こえなかったわけじゃないのに、なんて言ったのか分かんない……)


「ところで□□□はどうしてエリシウムに?」

「お前、自分の状況を考えてみろよ……」

「ヤツガレの状況…? ……あ、ヤツガレを助けに来たんですね」

「そうだよ。でも、生きててくれて良かったよ、本当に。

 あっ、それと、今の俺の名前はアルハだからな。アルハ・アドザム」

「アルハ……っ」


 ちょっと今、笑われた気がする……。


「何がおかしいんだよ…」


 子供っぽい自覚は持ちつつも、仏頂面で訊ねる。


「あ、いえっ、□□□らしいお名前だったので、つい……」

「ホントかぁ?」

「本当ですよ…! ヤツガレは□□…アルハを侮辱するような発言や行動はしません…!」

「んまぁ…そりゃあ知ってるけどさ……。

 クロノスに、この名前にしたって言った時、安直だって笑われたんだよ…ヒドくない!?」

「それは、一番深い仲であるクロノスだからこその発言です。 他の者では畏縮してしまうので、自分だけでもという思いからの発言かと」

「だと、良いけどなぁ……。ほいっ!回復終わりっ!」


 傷の癒えた体を見て、ホッと胸をなでおろすファウヌス


「ありがとうございます、アルハ。 心からの感謝を貴方様に」

「大袈裟だな、手当てしただけだろ? それに……」


 ス゛ゥ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ン゛……ス゛ゥ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ン゛……と、洞窟が鳴動する。


「ア、アルハさん、これって……」

「どうやらアスモデウスは、まだ遊び足りないらしい。

 しゃーないからもう少しだけ相手を……ッ!?」


 立ち上がろうとした途端、体のバランスを崩し、その場にうつ伏せに倒れてしまった。分かっちゃいたけど、これは……。


「アルハ、貴方様は……」

「ああ……。

 さっき使った神王の瞳の反動が、今になって来たみたいだ……」


 どうにかして体を起こそうと藻掻くもビクともしない。

 クロノスに一瞬でもヤバイって言われてたのに二秒も使ったのが仇になったらしい……。


「アルハ、ここはヤツガレに任せてください」

「なに言ってんだ、お前は…」

「はい。ヤツガレは戦闘向きの神ではありません。

 ですが、時間稼ぎ程度であれば…」

「ファウヌス…」

「早く回復してもらえると幸いです…なんて……」


 戯けたように微笑うファウヌスが背中を向ける。

 内に秘めた魔力を解放したファウヌスはトネリコで作られた杖を手に、俺と由利に向かい十字線を描く。


「これは、防御魔法か…」


 俺と由利の体が緑色の魔力の光に包まれる。


「はい。ヤツガレの意識と直結してます。 ヤツガレも死ぬのは怖いので、これが切れる前に助けてほしいです……」

「ああ、なるったけ動けれるようにしとくから頼んだ」

「はい」


 ス゛ト゛ト゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ン゛!!!!!!!!


 とてつもない衝撃音、それにより生じた穴から洞窟内に光が差し込むと同時に水が流れ込む。

 つまり、どういう理屈かは分からないが、別空間にしたはずのこの洞窟に干渉できるらしい


「みつけた」


 上部に生まれた穴から降りてくる二人の女。

 六枚の黒羽をはためかせるアスモデウス、声の主はコイツだ。

 そしてもう一人、銀色の瞳をしたニヤケ顔の女。

 ……あの瞳、何となくだけど嫌な感じがする。

 それにアスモデウスの体から発せられる魔力も不気味だ……。

 森奏世界の地上で見た時は真っ黒な感じだったのに、今は黄金に泥を塗りたくったみたいなイヤな魔力。


(アルハ)


 ファウヌスがテレパシーで脳に直接言葉を送ってくる。


(このままでは洞窟内部が水没してしまうので地上へ転移します。お二人は出来るだけ安全な距離まで座標を変えるので…その……さっきも言いましたけど…えっとぉ……)

(動けるようになったら助けてくれ。だろ?)

(はい……面目無いです……)

(自分の生に執着してるのは悪い事じゃない。

 自分の命をかけて戦って良いのは、自分の命を大切にしてるやつだけだ。

 俺としても、死ぬ気で戦ってホントに死なれたら後味悪いしな…?)


「アルハ……」


 ファウヌスの口からこぼれた俺の名前、これから必死な思いをするというのに、心成しか表情が和らいでいる。


「ありがとう、アルハ。貴方様のお言葉だけで、ヤツガレは頑張れそうです」

「そうかい、そりゃよかったよ」

「もう、お話はおしまいですかぁ?」

「っ!」


 銀色の瞳をした女がこちらへと問いかける。


「じゃ、そろそろやっちゃってください、アスモデウス様」

「………」


 コクリと首を縦に振ったアスモデウスは次の瞬間、こちらへと槍を向けて迫る。


「今だ……っ!」


 しかし、槍の切っ先が触れる直前、ファウヌスが発動した転移魔法により、俺達三人は森奏世界の地上へと移るのだった。


「っ……? どこ……」


 周囲を見回すアスモデウス。したり顔をするバアルは、自分たちが開けた洞窟上部の穴に人差し指を向ける。


「どうやら転移魔法で地上へ一時退避したようですね」

「地上……」

「はいっ! なので、アスモデウス様は彼等を追ってください」


 バアルの指示で穴から地上へ戻ろうとしたアスモデウスだったが、飛び立とうとしたその時、足が止まる。


「……魔力の反応が二つに分かれている」

「なんとぉ!?」



 アスモデウスの報告にわざとらしく戯け、う〜ん…と頭を抱える。


「あっ! じゃあじゃあ!

 アスモデウス様はファウヌス様をやっちゃってください!」

「他の二人はどうするの」

「それはコチラで対処しちゃうのでご安心を〜!」

「……わかったわ」

「ではではー、早速、残りの害虫駆除にしゅっぱつでーす!」

「…………」


 三対の黒翼を広げ、地上へと先行するアスモデウス。その後を追うバアルも二対の黒翼を広げ飛び立つ。


(しかし、まあ、こんなところにアザトゥス様の天敵がいるのは予想外でしたね〜。

 彼なら天上世界の玉座でふてぶてしくしてると思ってたんですけど……)「アスモデウスさまー?」

「なに?」

「地上へ出たら、ファウヌス様の捜索よりも先に、この世界に向けて大罪魔法を使ってくださいねー!」

「……」

「…あのぉ?」(うわー…銀の瞳で操ったには操ったけど、元々コッチと仲悪かったからかな?扱いづら〜い…)


 大罪魔法を使え。というバアルの言葉に返答をする事は無かったアスモデウスだったが、、、


「ムタクスル」


 地上へと出た直後、初期化された事で全てが失われ水に沈んだ森奏世界に向けて、色欲の大罪魔法、ムタクスルを発動した。

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