エリシウム 2
腕に抱きつきながら潤々とした切なそうな瞳でこちらを見つめる由利。
「っ………」
「うっ…ソンナメデミルナヨー……」
そんな光景を目の当たりにしているステラは幸せそうに頬杖をつく。
「あらぁ〜微笑ましいですね〜」
「あのなぁ……」
「ふふっ……。 由利ちゃん、そんなにアッくんと一緒が良いんですか?」
「っ……」
「そうですか……それじゃあ…」
小さく首を縦に振る由利に対し、ステラは翡翠色の勾玉が付いた髪留めを手渡す。
「?」
「これを肌見離さず持っていてください。 そうすればアッくんが一緒に行くことを許してくれるはずですよ。
ね、アッくん?」
「甘いなぁ、お前……」
「私の勾玉を貸しただけで同行を許可しちゃいそうな誰かさんには言われたくないですよ〜?」
何故そこまで理解できる!? 一応、俺の方が色々と上なのに……。
「あ…あの……アルハさん…」
「ん? ああ……今から行くとこは危ないとこだから、勝手に動かないようにな?」
「っ…! うん!」
明るい表情になった由利は勾玉の付いた髪留めで自分の髪をしばりポニーテールにする。 実は俺、ポニテ萌えだっt…なんて冗談は置いといて、メチャクチャ似合ってるな……。
まあ、ポケットに入れるとか、腕に着けるよりも失くしづらそうだからって理由なんだろうけど。
「んじゃ、マノシオのお守りよろ〜」
由利の右手をしっかりと握ると、今度こそ神王の瞳を開眼させる。
「…………」
部屋の中心の何も無い眼前に向けて右手を伸ばし、部屋の中で森奏世界へと繋がりそうな空間の裂け目を探す。
「…………」
正面へ伸ばした右手から色々な風景が頭に入ってくる。
この先にある世界には、四つの月と幼い少女の姿をした王がいる。
ここは…月光世界へと繋がる路か……。
「次……」
最初に調べた方向を12時とすると、次は3時の方向へ右手を向ける。
「…………」
伸ばした右手から色々な風景が頭に入ってくる。
草木の匂い、風に揺れる葉の音、そして……これは………?
「……見つけた」
開いていた右手を握りしめ、空間を捻じ曲げる。
「っ…!」
「ぅ…え!?」
瞬間、歪ませた空間に俺と由利の身体が渦状になって吸い込まれていく。
結論から言うと失敗した。
即席で志遠の境界路による転移能力を真似てみたが物の見事に失敗した。
吸い込まれて森奏世界に到着するまでの十数秒間、臓物が頭に行ったり、脳みそが腹に行ったりする感覚に陥りながらも、森奏世界の志遠が住処にしていた場所へとどうにか座標を定める。
由利も直前にえずいていたし、後で謝っとこ……。
「っ!」
鼻を付いたのは草と土と…そして生臭い血と水の匂いだった。
フサャシァァ…!!
直後に柔らかい草の上に不時着する。
志遠がベッドとして使っていた雑草のようだ。
「っ……ふぅ…ゔっ!」
ヤッベ…吐きそう!
「ふぐぐぐ……」
溢れてきそうブツを手で抑え込み、やっとの思いで胃の中へと戻していく。
戻したら戻したで嫌な感覚になるけど……。
「由利、大丈夫…」
「オ゛エ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛!゛!゛!゛!゛ けほっ…けほっ……」
「な、わけないよな……」
ひとしきり吐いて、苦しそうに咳き込む由利の背中をさすって落ち着かせる。
「もう平気か?」
「はい……ごめんなさい……」
「いや、俺の世界転移能力が上手く出来なかったからこうなったんだ、由利が謝る事なんて何もない」
「…………」
ん? おや? 何故の無言?
「由利?」
「……あっ! ごめんなさい!」
呆けていたのか少し遅れて反応を見せる由利。 え、まって、もしかしなくてもまたおんにゃの子に嫌われてるのかな!?
いや…嫌われてると思うな! 優しく、紳士的に、俺の中での良い男感を出さねば…!
「まだ少し調子悪いなら、もう少し休むか?」
ウム、当たり障りの無いようにいくぞ……。 べ、別にチキンじゃないんだからね!?
……虚しい。やっぱり視点はクロノスに任せたい…。
「ううん、平気だよ」
「そうか? なんか、ボーッとしてたけど……」
「あ…えっと……。
アルハさん、私との会話してて楽しい?」
「ん? そりゃ、もちろん!
こんな可愛い女の子とお喋り出来るなんて、こんなに嬉しいことはない…!
なんでそんな事を?」
「っ……」
由利は服の裾を掴みながら目線を合わせようとしない。
鼻先が若干赤くなっている……。
「…言いたくないなら無理には聞かない」
「っ…! あ……。 っ……………。
ううん、言う、言わせて……」




