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罪に願いを 新世界の先駆者  作者: 綾司木あや寧
三章 森奏世界編
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忘れ物と贈り物 2

「おまたせしました〜♪」


 ステラの朗らかな声と共に客間の襖が開く。

 彼女は両手に乗るサイズの綺麗なラッピングが施された箱を手にしていた。


「って、ちょっと待って下さい、どうやって襖開けたんです!?」

「自動ドアなんだよ」

「ああ……いつもの、なんでもアリな設定ですか……」

「設定とか言うなしー! じゃあ、ステラの神通力に反応して動いたんだよ」

「うわぁ……なんか、後付感凄いですね……」

「ふふ……まぁまぁそんなことより〜」


 ステラは持ってきた箱を座卓に置くと、その前にマノを座らせる。


「さ、マノちゃん。 開けて見てくださいっ」

「は、はい……」


 ドギマギしながら丁寧にラッピングを取り、箱を開けると、、、


「これは……」


 マノの手には、幾つもの宝石が散りばめられた黄金の腕輪がある。


「しゅごい……」

「ふふ……。 質量を変換させているので、とても軽いでしょうけど、それは紛れもないほどの純金。

 そして、宝石にはそれぞれ意味があるんですよ〜。

 まず……」

「アアアアアアアアアアアルハさん! これ、いくらで売れますかね!?」


 興奮しながらアルハに相談するマノ。


「イヤ〜、これは町一つ買えるレベルっしょ!

 んで、町買って、てっぺん取るっしょ!」


 興奮しながら腕輪の価値を説明するアルハ。


「変な口調になってる理由は分かりませんけど、すごくスゴくて凄いって事ですよね!? ですよね!?」


 興奮のあまりエンプレス構文になるマノ。


「…………。 あ、あの〜……」

「ねぇねぇマノた〜ん……仲良くしようよ〜」

「イヤですよ!! どーせ、お金欲しさじゃないですか!」


 ステラの言葉には一切耳を傾けない亡者二名。


「大丈夫ッ! お前のおっぱいも欲しいからッッ!」


 余計に問題である。


「何が!? アタシ的に大丈夫な要素が無いんですけど! もうアルハさんいらないんでいいですよ!いなくて!

 はい「罪願(つみねが)」完ッ!」


 会話の中で強制的に物語を終わらせるヒロイン……ヒロイン?


「もしも〜し……お二人とも〜…?」

「マノ、よく考えてくれ。 売って入った金を半分くれれば俺がっ! 俺という世界最強クラスの用心棒が!

 ずっと側にいるんだぜ?」

「そうですね、結構です」

「えっ、うそ、嘘だよね!? 分け前くださいおねがいします何でもしますから!(何でもするとは言ってない)」

「あげませんっ!」

「ぴえェェェん!!!(泣)」

「あの〜……お二人とも〜?」

「何だよ!」

「なんですか!」

「っッ! え……えーっと……。 その腕輪は純金で出来てたり色んな宝石が付いてたりしますけど、価値はそれほど無いですよ?」

「「………え?」」


 その言葉に、二人は借りてきた猫のように静かになる。


「え、え、え、え!? だ、だって、純金ですよ!? 宝石だってダイヤモンドやエメラルドとか……」

「ステラ、お前、ルイになんか口裏合わせろ的な事を言われてるんだよな? そうだよな!?」

「…………」


 無言で首を横に振るステラ。


「その腕輪の金は魔鉱物、石は魔宝石を埋め込んでいるんです。

 なので、一般的な金や宝石と比べると価値は……」

「マジか……」

「あ、あの、ステラさん。 魔鉱物とか魔宝石って?」

「魔鉱物は身に着けた人を様々な厄から守るための装飾品に使われる鉱物で、魔宝石はそういった魔鉱物で作られた装飾品に埋め込む事でいろいろな加護を付与する石の事です」

「そんなに凄いなら価値だって……」

「いいえ。 魔鉱物や魔宝石は私やアッくんのような神や天空の使徒しか知り得ない物で、普通の人には視認する事も出来ないんです。

 ですので、これを質屋なんかに持っていったところで、冷やかしだと思われて門前払いされちゃうんです。 なんせ、馬鹿相手に馬鹿には見えない服を売ろうとしている事と同じようなものですから」

「そんなぁ……」


 落胆するマノの背中をさすりながら「よしよし」となだめるステラ。

 話が一段落ついたところで志遠が口を開く。


「それで? その腕輪にはどんな加護が宿っているんだ?」

「はい。

 まず、その黄金の腕輪には世界を転移するための力が宿っています」

「いきなり能力凄すぎません!?」

「うふふ……。 まあ、オーちゃんが作った物ですのでっ♪

 次にその六種類の魔宝石。 それらは六大世界毎に装備者の体に異能の力を付与します。

 月光世界ではダイヤモンドの加護が、赤陽世界ではルビーの加護が、森奏世界ではエメラルドの加護が、水明世界ではサファイアの加護が、紫闇世界ではアメジストの加護が、そして無垢の世界では……。

 っ……」

「? ステラさん?」

「へっ……? ああ!はい! とにかく、世界毎に様々な魔宝石の加護が宿ります。

 これらの加護は、本来の力を発揮できない今の姿でも有効なので、よければうちの庭で試してみてくださいね☆」

「あ、はい!」

「…………」


 オーディンの腕輪を腕に装着するマノを由利はじーっと見つめている。


「あの……由利さん?」

「っ! はい!?」

「気になるのであれば由利さんも着けてみますか?」

「あっ……え…あの……その……。

 っ………、いい…です……」

「そうですか? じゃあアルハさん!」

「っ……! とうとう俺と夜の営みをする……」

「つもりは無いです。 このブレスレットの力を試したいのでサンドバッグ役お願いします♡」

「フッ……いいだろう。 お前の全てを受け止めて、全てを受け入れてやる……」


 気取りながら数年後に思い出すと恥ずかしくなる台詞を並べつつ、五人は天照城の中庭へと移った。


「えーっと、使い方は……」

「腕輪に埋め込まれている魔法石の中でも一際大きな物が6つありますよね?」

「ん〜ぅ? あっ! はい、あります」

「そこからこの世界に対応した魔宝石、ルビーを人差し指の末節骨部分で触れてください」

「ま、まつせつ……?」

「指の先端部分の事だよ」

「先端……」


 頭を悩ませながら指先をルビーへと翳す。


「これでいいんですか?」

「そう、そこ。 爪のある部分の指の骨が末節骨」

「ふ~ん……アルハさん物知りですね」

「フッ……惚れて――――」

「惚れてないです」

「おっふwww」

「えっと、人差し指をルビーに……合わせました!」

「じゃあ、今度はその人差し指に身体中の全エネルギーを集めるイメージをしてください」

「全エネルギーを……。

 ふんっ……! んぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」

「あちゃー……」


 顔を真っ赤にするほどに力を込めるマノ。 しかし、一向に何も起きることはなく、ただ時間だけが過ぎていく。


「はぁ……はぁ……な、なんでぇ…?」

「お前さぁ、ステラの話聞いてたか?」

「ちゃんと聞いてましたよ! 人差し指に力を込め……」

「力じゃないエネルギーだ」

「どっちにしろ同じじゃ……!」

「同じじゃない。

 お前は物理的に力を込めてるだけで、エネルギーを集めるって行為とは全く違う。 ……貸してみ?」

「……そのまま借りパクしそうなのでイヤです」

「しねーよ! いいから貸してみ!」

「……はい」


 ふてくされながらも腕から外し手渡す。

 アルハを腕輪を左腕に着けると、右手人差し指をルビーへと翳す。


「いいか? こうするんだよ……」


 アルハは目を閉じ念じると、彼の全体から黄金の粒子のような物が顕になる。

 頭、胴、両腕、両足から溢れていた粒子は、彼の目的に呼応するように右腕、人差し指へと集まっていき、彼の触れるルビーへと流れていく。


「わぁ……」

「きれい……」


 優しい光がルビーへと流れていくその光景に魅了されるマノと由利。


「……ふぅ」


 アルハが息を吐くのと同時に黄金の粒子はフッ、と消えた。


「こんな感じ。

 物理的な力を出すんじゃなくて、全体の魔力、生命力を指先だけに集中するようにするんだ」

「な、なるほど……やってみます……」

「がんば〜」


 アルハから腕輪を受け取り、右腕に着けると、左手人差し指をルビーへと翳す。


「……」(全体の魔力と生命力を、人差し指に……)


 意識を集中させるマノ。


「っ……」


 教わった通りにするも、身体には何の変化も起こらず、、、


「…………っ。

 出来ない……どうして…?」


 悔しそうに拳を握りしめ、目を潤ませるマノ。


「…………。

 おい、アドザム。 他にも何か必要なんじゃないか?」

「ん? しおんきゅんは女の涙を見て、力になりたいと思った感じかな〜?」

「……ああ、そうだな。 お前みたいに薄情なわけじゃないからな」

「あ、ヒドイ! ぴえん!」

「で、他に必要な事が有るのか?無いのか?」


 アルハのボケに構うことなく訊ねる志遠。 しかし、アルハ両腕でバツを作り……。


「無いな〜」

「じゃあ、どうして…!」


 戯けた口調からの返答で苛立ちを覚え、志遠が怒声をあげようとした時。


「未代さん……」

「っ!」


 力無く発せられた声でハッと気づく。

 振り向くと、マノは悲しそうな表情をしていた。


「アルハさんは何も悪くないです。

 もし、悪者がいるとしたら、教わったのにそれを活かせなかったアタシです……」

「マノ……そんなことは……」

「いや、その通りだ」

「おい、アドザム!」

「分かっているなら悄気げてないで、どうすれば自分の全力を好きなように操れるか考えるんだな」


 そう吐き捨てると由利の手を引き、ステラの元へと近寄る。


「ステラ、お前に頼みがある」

「頼み……ですか?」

「ああ」

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