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罪に願いを 新世界の先駆者  作者: 綾司木あや寧
三章 森奏世界編
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異神の森 4

 休憩を終えたアルハ、由利の二人は所構わず歩き回りながら村を探す。


「うおっ!?」


 しかし、右に進もうとしても目で認識できない壁に行く手を阻まれ、左も同様に目に見えない壁に阻まれる。

 かといって後ろへ戻るとなると洞窟へ逆戻りになり、前方には濃霧が広がっており八方塞がりとなっていた。


「ん〜……どうしよっかな〜……」

「や…やっぱり、あの霧の中を進んだ方がいいんでしょうか……」

「出口があるかもだからやっぱ進まなきゃかな〜。 あ、でも、由利ちゃんは来ちゃダメよ〜?」

「えっ……ど、どうして…です…?」

「あの霧は魔力を察知する能力を阻害しちゃうんだよ。 そんな霧の中で、はぐれちゃったら泣いちゃうだろ?」

「あ……そう…かもしれない…です……」

「うん。 だから俺が泣かないためにも行きたくない!」

「……え、泣くのアルハさんなんですか?」

「そりゃそうよ! 俺、一人ぼっちになるのイヤなの!!マジで!!!」

「は…はい……」

「もうさあ、ボッチ飯って食っててマジ虚しいの! なんだろあれ?

 昔、テレビつけながら飯食ってたんだけど、そのテレビに親子や友達が集まって飯食ってる鮮やかな光景を目の当たりにしたらさ、腹立ってテレビの画面ぶっ壊しちゃったんだよなぁ。 そのあと、テレビ壊した事への後悔とボッチ飯の寂しさで泣いた」

「…………。

 …………。

 …………あ! そ、そういえば、この世界ってテレビとかあるんですね…! す…すごいなー……」


 返す言葉が無いのか、とりあえず何か話題を…と考えた結果、この状況で一番関係の無い話題を入れる由利。


「あ、露骨に話逸らされた!ぴえん! まあ、それもいいだろう!

 テレビねぇ〜う〜ん……文明の都合上、この森奏世界には無いけど、月光世界、水明世界、紫闇世界にはあるな」

「へぇ〜……じゃ、じゃあ…私がいた2000年代ごろや1900年代後半の世界とかもあるんですか?」

「それは無い」

「え、でも、鮮やかって言ってましたし、カラーテレビですよね?」

「うん。 時代はそれよりも前だけど、テレビという文明だけを俺ら神様連中がその時代に組み込んだんだ。 その方が色んな情報を共有できるからな」

「で、でも……そうなるとテレビって、見れる人とか限られてそうな気が……。

 それに、動画配信アプリとかも出てこないのは不自然ですし……」

「魔力で動くようにしてるからモーマンタイ! 更に言うと、テレビはあっても動画配信アプリとかは絶対に出てこない。 創造神アフラ・マズダ・スプリウムがそうさせないように人間の脳をいじくってるからな」

「神様も…ちゃんと考えているんですね…」

「身勝手なだけで、自分の都合良ければ相手の事なんて考えやしない。

 創造神アフラ・マズダ・スプリウムはそういうクソみたいな野郎だよ。

 俺的には、アフラ・マズダ・スプリウムが最初に生み出した神であり、この世界で第二の生命体となった創生神グラン・クロノスの方が好きだな〜! 神以外の全ての生命を生み出した凄い神様なんだよ!」

「へ、へぇ〜……」

「常に穏やかでいて、誰に対しても優しくて、人からの信仰もだけど、他の神々からの信頼もメチャクチャある最&高な神様なんだよ! ニシシ!!」

「…………っ。 ふふ……」

「っ? ぼくちん、また変な事言っちゃった?」

「あ、いえ……。 アルハさん、創生神さまの事を凄く楽しそうに話すので……もしかして、アルハさんがその創生神さまなのかなって……」

「……神としての俺は、良く言えば中立にいて他の連中よりちょっと頭のいいだけの神様。

 悪く言えば知恵があるのに傍観者にしかなれない役立たず……。 アイツほど良い神様じゃ……。

 ………誰だ」

「っ!?」


 鋭い目つきで霧の向こうを睨むアルハにつられ、由利も警戒を高める。

 アルハは由利を庇いながら魔力で生成した剣の切っ先を濃霧の先へと突き立てる。

 ガサッ、ガサッ、という音から誰かが草木を掻き分けて進んで来ているのが想像できる。


「ア…アルハさん……」

「心配するな、由利は俺の後ろに隠れていればいい」

「は、はい……」


(音からして相手は一人、濃霧の影響で魔力の種類は不明。

 迷い込んだ子供だったりしたら先手必勝で必殺技!なんて事は出来ないし、相手の姿を確認するために後退した結果、敗北……なんていうのは論外だ。

 つまり、前進でも後退でもない行動をするには……。

 聖奥解放、キラジウス)


 剣に迸るほどの激しい雷を注ぎ込み、受け流しの構えを取る。


「聖奥解放……」


 霧の向こうから聞こえる声から刹那。

 ガッ! という地面を弾く音とともに霧の中から血腥い緋色の風が吹く。


「ッ……!!」


 緋色の風に包まれた何者かが超高速で迫る。

 夜間と霧の影響か、それとも何かで正体を隠しているからか、人影は視認出来ても、その全容までは把握出来ない。

 人影は手にしていた得物で攻撃を仕掛ける。


 キ゛シ゛シ゛シ゛シ゛シ゛シ゛シ゛シ゛ィ゛!!!!


「ふ……ッ!」


 攻撃が振り放たれるも、アルハは事前に仕込んでいた聖奥キラジウスで往なし、その威力を利用してカウンターを放つ。


「!? くっ……」


 バヂヂヂッ!


 衝撃により雷鳴と火花が周囲に散漫しする。

 どうやら相手は間一髪で後退して攻撃を躱したらしい。


(キラジウスのカウンターを見切るほどの動体視力……。

 なるほど、あの赤い風はブラッドブーストの闘気で間違いないらしい。

 それに、姿を見られたくないからか、黒っぽいマント?みたいなのを頭から被ってるな)


「あ、あの……アルハさん……」

「ん?」


 怯えたような声の由利。 アルハの服の裾を掴むその手は震えている。


(……ああ、なるほど……そりゃあ、死ぬかもしれないもんな、怖いに決まってるか)「大丈夫だよ、由利」

「え……?」

「お前は絶対に死なせない。 必ず助けるし、幸せにしてやる」

「……あ…あの………それって……」

「ん? だって……あ……」(ヤベ……触れると相手の経験した事とか心見れるの忘れてたー……)

「あ、いや、なんとなく、みんな幸せになりたいよねー!って話であって……変な意味は無くて……」

「ナイトオブセイバー!」

「……っ!」


 慌てながら誤魔化すアルハへ、黒マントの人物はお構いなしに聖奥を仕掛ける。


「こっちがお話してるでしょーが!!」


 ギィィィュン!!


 それを同様の聖奥で相殺された事で、再び後ろへ下がり仕切り直そうとする黒マントの人影だったが、、、


「っ…!?」(体が、動かない!?)

「逃さねぇよ!!」


 人影の腕を掴むと、魔力で生成した剣を手放して背負い投げをかけるアルハ。


「しまっ……」

「オラッッッっ!」


 覚えの無い身動きを止める技を受けていた影は為す術もなく地面へと叩き付けられる。


「へっ……?」

「お前は……」


 黒いマントがめくれ、頭を見せたその人物にアルハ達は動揺する。


「く……っ!」

「なるほど、お前が……」

「ア、アルハさんが……二人……!?」


 黒マントの正体、それは髪色こそ違えど、アルハの顔立ちや体格と同一と言えるほどの姿をした男だった。

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