異神の森 1
「アルハさァぁぁぁん! どこですかー!」
日が完全に沈みきった森の中、アルハの名を若干の怒りを込めながら呼ぶ声。
青みを帯びた瞳と髪色をした少女、マノ・ランブルグは一人、村を探し当てたのだが、、、
「ぐすっ……お腹空いた…お金無い…お風呂入りたい……ふかふかのベッドで寝たい……うわぁーん!!」
村は見つけたが、森奏世界の紙幣や硬貨を所持していなかった為、金がありそうという理由だけでアルハを捜索していた。
「あのクソジジイ……なぁ〜にが「ワシとチュ~したらお駄賃あげちゃうぞ〜」だ!
アルハさんならしょーもない下ネタ聞くだけでお金くれるっての!!」
村での出来事を思い出しイライラしながら、右を見たり左を見たり、木の上を登ったり泉の中に顔を入れたりとするが、一向にアルハの足取りが掴めずにいるマノ。
「…………はぁ、こんな事になるなら見捨てるんじゃなかった……」(村を襲ったり、強欲の力で売り物を盗む事も出来るけど、力の無い人にこういう事はあんまりしたくないし……)
「ん? 力の無い人……?
そっか! アルハさんのお金だけを盗って見捨てればよかったんだ!」
名案と言わんばかりに自分で驚き、自分で納得し、後悔する元 強欲の悪魔。
ガサッ
「っ!?」
灯りも無い風も吹かない真っ暗な森の中で変則的に草が揺れる音。 息を吸うような声にならない声で、一瞬だけ揺れ動いた茂みに目を向ける。
(え、なに……ゆ…幽霊? いや、まさか、こんな所に幽霊なんているわけ……)
ガサガサガサッ!!
「んッ〜〜〜〜っっっっ!?」
茂みが激しく揺れ動く。
恐怖のあまり目に涙を浮かべるも、叫声はなんとかこらえる。
(ウ、ウソ……やっぱなんかいるぅ!? まままままままままま魔力の反応はしないから生命体ではないし、風なんか吹いてないし、事前に魔法を仕掛けてる跡もないし……。
もうヤダ! 何でアタシがこんな思いしなくちゃいけないの! それもこれも全部、くっだらない事したアルハさんのせいなのにぃぃ!!)
恐怖よりも怒りを込み上げる事でグッと涙を目の中に引き戻すマノ。
(落ち着けぇ……アタシ……。 そう!アタシは悪魔!しかも七つの大罪の!
その気になれば幽霊なんてこっちが支配することだって出来る! と、思う……)
考えた末、足元に落ちていた木の棒を手にし、ガサガサと揺れる茂みにそーっと近付いていく。
(物理が通じるかは分からないけど、あって損は無いし、アルハさんも戦うなら先手必勝とか言ってたし、たとえひとだったとしても、それは草むらでガサガサおかしな事してたその人が悪いんだし……あっ! でも子供だったらどうしよう……。村で出会ったスケベクソジジイみたいなのなら殴って死なせちゃっても仕方ないよねテヘペロ☆案件だけど、メチャクチャ可愛い美少年とかだったらどうしよう!?)
テヘペロで済む人殺しはあってはいけない。
(いや、待ってください! 美少年を殴ってしまった結果、アタシがそのケガが治るまで専属のメイドになるという展開もワンちゃんあるのでは!?)
あるわけがない。
(そうですよ! 何故、マイナスな方向へ考えていたんでしょう! ええ!
死なない程度に殴れば何一つ落ち度なくアタシは得をするじゃないですか!)
死なない程度に殴れば傷害罪である。
(ああ、さっすがアタシ!! 天才ですかね?いや天才ですね!間違いないッ!! そうとなれば……)
「どりゃああああああ!!!」
天才的発想で茂みにフルスイングを放つマノ。
茂みに入っていった木の棒は瞬時にゴンッと鈍い音を出し、何かに当たった事を伝える。
「い゛っ゛!?」
(ヨシッ…!)
直後、男の声が茂みから聞こえ、小さくガッツポーズをする。
再度説明するが、こんな事を日常の中で当然のようにすると傷害罪である。
茂みの裏へ小走りで向かい、被害者…もとい獲物を確認する。
(どれどれ……)
「ん……んぅ〜……」
(ん……? ……あれ?)
唸り声を上げていたのは青年だった。
髪色こそ金色で異なるが、髪型や背丈、服装までもがアルハと酷似している。
(もしかして……この人って……)「あ、あのー……」
「……誰だ?」
「ッッッ!?」
目を開いた青年の瞳は透き通る水のような色をしている。
(や、やっぱりこの人って……)「あ、えっとー……大丈夫…ですか?」
「殴っておいて心配するとか、いい性格してるな、お前」
「あ…あははー……」
ドゥゥゥゥン!!
速すぎる動きで生じた音が響く。 マノは瞬時に土下座の体制に入っていた。
「……何やってんだ?」
「本っっっっっっっっ当にすみませんでした!!!!
悪気は無かったんです! ただ、自分の身を守る為にもああするしか無かったんです!!」(マズい…殺されるゥゥゥゥゥ!!!!)
酷く怯えた態度で精一杯の謝罪をするマノ。 金髪の青年は冷ややかな眼差しでマノの行動に呆れている。
「お前、何か勘違いしてないか?」
「……え?」
「お前、俺のことを人殺しか何かだと思ってるだろ?」
「ッッッ!! い、いえ!そんなことは…!」
「心配するな、お前みたいなやつ、殺す価値も無い」
「あ……はい……すみません…………」
はぁ……と溜め息を吐きつつ、串に刺さった焼き魚をマノへと差し出す青年。
「へっ…? えっと……」
「腹減ってるんだろ、食えよ」
「……! あ、ああ、ありがとうございます!
はーむっ! う〜〜〜んッ!!」
「……っ。 子供みたいだな」
口いっぱいにかぶりつき舌鼓を打つマノの姿に思わず笑みがこぼれる青年。
「いい感じの塩加減……それに骨がやわらかいから全然喉にも詰まりませんね! はぁ……ご飯が食べれるってしあわせぇ〜……」
「果物とかもあるけど食べるか?」
「っ! はい!是非!」
「はいよ、ちょっと酸味が強いかもだから口に合わなかったら言ってくれ」
「大丈夫です! 酸っぱい物も大好きなので!
あ~むっ! っ! これはミカンじゃないですか!」
「そうだな」
「いや、だって見た目がイチゴみたいに真っ赤なのに味はしっかりミカンなんですよ!? 凄くないですか!?」
「随分饒舌だな……」
「アタシ、美味しい物を食べると、自分が世界一幸せなんじゃないかって思っちゃうんですよね〜!
あ、自己紹介が遅れました!
アタシ、マノ・ランブルグっていいます!」
「ランブルグ……って、君はそんなあっさり名前を名乗っても良いのか?」
「えっ? 別に何も問題無いですけど……」
「さっきまで俺を人殺しかなんかだと思ってたが……随分と警戒心が薄らいだな」
「はい! こんなに美味しい食べ物をくれる人が悪い人なわけないので! はむっ!」
「っ……。 ぷ……ふふふっ……」
「?? 何か変でした?」
「いや、ただ、素直で可愛いと思ってな……」
「へッ!? か、可愛い…?」
突然の言葉に動揺するマノ。
「あ、あた、アタシが可愛いなんて……未代さんは世の中を知らなすぎですよ〜!」
「…………」
途端、青年の表情が強張る。
「っ? どうしたんですか?」
「マノ、どうして君は俺の名前を知ってるんだ?」




