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罪に願いを 新世界の先駆者  作者: 綾司木あや寧
三章 森奏世界編
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誘いの泉 2

「でも、ほんと、この辺りは泉? 水たまりが多いですよねー」

「水たまりって…マノたんはロマンチストじゃないなぁ……」

「水が溜まってるから水たまりで合ってるじゃないですか。

 雨が降って穴ぼこに水が溜まっただけのものは泉とは言いませんよ?」

「いや、この世界、雨降らないから」

「まったまたー!」

「いやまじで」

「……」

「……」

「じゃ、どこから水が湧いてるんです?」

「それをするのが、この世界の管理神の役目なんだよ。

 管理神にはそれぞれ役割があって、オーディンなら四つの月を用いて一日を構成し、アマテラスは太陽が大地を照らし続けて干上がらせないために天候操作し、この世界の管理神ファウヌスは地の底から水を生み出して泉を作る。 って、感じでな!」

「内容だけだとステラさんが一番大変そうですね」

「だなー。 赤陽世界は元々二人の神が管理神を務めていたからなー」

「二人!? ステラさんと……あ、アルハさんか!」

「んにゃ、俺じゃない。 ましてや、その頃はステラも管理神じゃなかったし」

「ステラさんも管理神じゃないとすると……本当に誰なんです?」

「さあなー」

「ぐぬぅ……分かってて知らん顔するアルハさん、なんかキライです!」


 アルハに背を向けて足早に離れるマノ。


「え、ゑ、エー! もしかしてもしかしなくてもお別れ!? そんな急にお別れとかアルハしゃんか・な・し・いぃ!」

「力は返してもらいましたし、よく考えるともう一緒の行動する必要無いので。 じゃ」

「うゆー!(泣) アルハしゃん、ひとりじゃいきていけないよー!」

「成人男性がうゆー!とか恥ずかしくないんですか?」

「何を恥じる必要があるか!」


 アルハ、伝家の宝刀、開き直りである。


「図々しくも生を受けた身、生き恥すら最後には誇りに変えてやるさ!」

「……はぁ、そうですか。 じゃ」

「え、待って待って! 今のパターンはさ、アルハさんカッコいい…!今夜は一緒のベットがいいな…♡ な展開じゃないの!?」

「っ……」


 汚らしい高音の裏声で真似をしてるつもりなのだろうが、マノはその一連の流れの最中、鳥肌が立っていた。


「なんですか……今の不気味な声……」

「え、マノちゃんの声真似」

「は?」

「可愛くてメッチャ似てたでしょ?」

「いえ、二丁目にいるキャラの定まってないアッチ歴八ヶ月の人の声真似かと思っちゃいました」

「うっわ、すっごいピンポイント」

「とにかくこれでさよならです。 女性に飢えているのなら村でも探してどうぞハメてください」

「まっt…あっ」


 ゴンッ!

 濡れていたからか足を滑らせ草むらに顔面が直撃するアルハ。


「ま…まっ……て……ガクっ…………」


 当たりどころが悪かったのか、そのまま意識を失ってしまう。


「さーて、何しよっかな〜!」


 この少女、非情にも何事も無かったようにアルハを無視している。 素晴らしい判断と言えるだろう。


「とりあえず村ぐらいは探さないと……」


 距離が開くに連れて声も遠退いていく。


「下が濡れちゃってるし、動きやすいスボンとかがあればいいんですけど……」


 ズボンよりもスカートの方が興奮する。 なんて事を考えながら俺は意識を失った。


「…………。

 ………………。

 ……………………ハッ!?」


 目を覚ますと先程まで真上に昇っていた太陽は西へと傾き、周囲はオレンジ色に染まっていた。

 何時間眠っていたのだろうか、喉が渇き腹の音も鳴っている。


「マノのやつ……こっちがさみしいって言ってんのに置いて行きやがってぇ〜〜〜っ!!」


 既に必要が無く、転んだのも自業自得だというのに、未だ相手にだけ責任があるとゴネるアルハ。


「ま、いっか……」


 ポツリそうこぼしながら立ち上がると、先程の泉へと再び歩み寄る。


(これでこの泉を再確認できるし)「よっ…!」


 バシャン!と泉の中央へと飛び込むアルハ。 泉の外側は立っていられたが、中央部分は人一人が通れるぐらいの深い穴が出来ていたのだ。

 つまり、さっきの溺れるボ○ちゃんはガチで溺れかけていたのだ。


(うわ、深っ! 泉の数も前来たときより十数倍に増えてるし、絶対なんかあるんだろうけど…って……ん?)


 泉の奥底へと潜りはじめて二分、アルハの視界は黒いモヤに遮られる。


(なんだこれ……イカスミ、なわけないか。 魔力帯びてるし、何かを守ってるって感じなのか?)


 更にしばらく進む。 と、奥の方からまんまるとした光が水中へと射し込んでくる。

 泉に潜った時間帯には太陽は沈みかかっていた。 月とも思ったが、ここまで強い光となるとそうじゃないし、潜水してからまだ十分も経ってない。


(じゃあ、あれは…………って、ん?)


 まんまるとした光が大きくなっているように見える。

 近付いているからというのも理由なのだろうが、それにしても速い。速すぎる。 しかも何故だか熱い。

 というか、あの光、水の中に入ってきているような……水の中で距離感覚がブレているからだろうか?


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……………。


 前言撤回、距離感覚は正常だ。


(なんか来てるぅぅぅぅゥ!?)


 光の球体が水中へ、こちらへと故意的に向けられているようだ。


(それなら……っ!)


 右手を突き出し、円を右回りに二度描き、その中心部分を押し出す。

 次の瞬間、淡い色の泡が障壁となり、迫る光の球体を相殺する。


(無属性版のシャリド、覚えといてよかった〜。 つーか、防御力高めの右二回転を一撃で破壊かよ……って……!?)


 安心したのも束の間、第二、第三と光の球体が次々にこちらへ向け放出されている。


(ちィっ…!)


 瞳を黄金色に染めた事で遊泳速度が格段に上昇。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ…………。


 それでも尚、水中から抜け出すよりも先に球体と衝突する事は避けられない。


(やっぱ基礎能力上げて躱すのは無理かぁ……。 でも、ま、この状態の無属性シャリドなら……)


 先程と同様に手で円を描くアルハ。 今度は一度だけ円を描くと聖盾魔法として展開する。


 ドッ!


 二回転の後に展開したシャリドより低いはずの今回のシャリドは球体と衝突したにも関わらず破壊される事はなかった。


 ト゛ッ゛! ト゛ン゛ッ゛!


 それどころか、近付いてくる光の球体はシャリドを相殺する事すらなく弾き飛ばされていく。


(よし、今のうちだな)


 バシャン! という水の跳ねる音と共に水中から顔を出す。


「…………」


 森にあった泉、その泉の底に出来た穴の先はどこかの洞窟へと繋がっていた。

 洞窟内部の泉から出ると、光の球体の攻撃はいつの間にか止んでいたため、瞼を閉じて瞳を通常状態へと戻す。


(真っ暗だな……人の手が加えられていない場所か? でも……)


 洞窟にわずかに吹く風、その風の音に乗って草花が揺れる音がすぐ近くから聞こえてくる。

 洞窟内部の泉の周辺を歩き回り、草花の位置を確認しながら、目を暗闇に慣れさせていく。


「…………っ」


 見て、触れて分かった事。

 まず、この洞窟の草花は人が育てている。 じゃなきゃ、こんな整備されたような植物の配置はされない。


(輪郭や触った感じからして咲いている花の花弁は六枚、それに甘く濃い匂い……百合か?

それにこの花から感じる感覚……これはまるで魂のような……)


 ガサッ……。 瞬間、草を踏みしめるような音、それもかなり近いところから聞こえてくる。


「誰だ!」

「ヒッ…!」


 か細く震えた声で上擦った悲鳴を上げたと思うと、今度はタッタッタッタッ…と、走って逃げていく音が洞窟内に反響する。


(あちゃー……逃げられちゃったか……)


 やれやれと頭を抱えようと思った矢先、、、

 ドサッ!


「ゔッ…! ゔッ……う…うぅ…………」


 何かを勢いよく地面に叩きつけた音と、それに合わせ少女の籠もった唸り声が聞こえてくる。


(これは……顔から逝ってるなぁ……)


 見なくても分かる。 後、場所を探られないように必死に声を押し殺しているみたいだが、声が反響しないから逆にいる場所を突き止めてしまった。


(この辺りだよな)


「っ………っ〜〜ッ!!」

「…………」(目の前か……)


 声を押し殺しているせいで若干の鼻息がものすごくしっかり聞こえている事を本人は自覚してないらしい。


 人差し指に火の魔力を集め、灯りの代用として火性魔法ファボエルを発動する。

 ボウッ! とライターのように指先から火の玉が現れると、その周囲が少しだけ照らされる。


「キャッ!」


 目線を落とすと、そこには腕で顔を隠す黒髪の少女が佇んでいた。

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