赤陽世界編 エピローグ
ブラッドブースト
体内の血液を自傷行為で外側に出す事で発動される強化能力。 聖奥、魔法とは異なり魔力は一切使用せず、自らの血液を消耗し、限られた時間内で爆発的な戦闘能力と敏捷性を得る。
毛、瞳、皮膚、衣服までもが紅色に上書きされる色合いとなる。
欠点として、動体視力の向上は強化の対象外なのと、発動の代償で一秒間に4%の血液消耗を強いられる。
人間が失血死するのが50%とされているので、死の一歩手前となると持続して使えるのは十二秒である。
尚、この能力発動中は痛覚無効化が付与されているため、致死量の失血をしない限りは倒れるということは無い。
新支配者ラ・イレブの件から数日後、、、
天照城の修繕やその他諸々は才色兼備で最高なアルハさんの頑張りでどうにかなった!
「アルハぁァァァ!!」
「っっ!?!?」
天照城の外側から聞こえる怒声に身を震え上がらせるアルハ。
声の主である金髪碧眼の少女は目の下にクマを作り、汗を流しながらも修繕作業を続けていたというのに、自称才色兼備で最高なアルハさん(笑)は日の当たらない涼しい場所でかき氷を口にしていた。
外側へと顔をひょっこりと出すと、ルイがこちらを睨んでいる。
「貴様……人を呼んでおいて自分だけ涼むとはどういうつもりだ!」
「俺だって頑張ったもん! 頑張ってクトゥルーの神やっつけたもん!」
「昨晩は逃げられたと言ってたじゃないか!」
「あれれー? 覚えてないぞ〜?」
「……そうか」
ギュイィィィィン!!!
閃光の槍がアホ面でフザケていたアルハの頬を掠める。
「…………」
不意の出来事に呆然とするアルハ。 ルイは笑顔でグングニルを放っていた。
「あ、ごめんねアルハくん♡ イライラしてうっかりグングニっちゃった♪」
「あ、あはは……気をつけようねー……」
「うん! 今度は確実に当てるね〜!」
愛想よく可愛らしく言っているはずなのに殺意しか感じられない。
「アルハさん!」
後ろからの声、布団を持ったマノが無愛想な顔でこちらを見ている。
「oh! マ☆ノ! マイスウィートエンジェル!」
「ふざける暇があるんなら手伝ってもらえませんか? あっちの押入れにある布団、かなりホコリを被ってるみたいなんで」
「そっかぁ……ガンバ!」
「……どいてもらえます?」
「ハイ」
頑なに手伝いをしたくないらしい役立たずの才色兼備さん。
「マノちゃん、ちょっと休憩しませんか? もう九時間も動きっぱなしですよ?」
「お気持ちは嬉しいですけど、誰かさんが散らかすだけ散らかして一切片付けないからその分も埋めないとなので…
ね、だ れ か さ ん?」
「全くだ、急用と聞いて世界転移までしてきたというのに、その用件が誰かさんの後始末とは……。
しかもその誰かさんは暇があっても働かず、菓子を食いながら、ステラの膝枕を堪能するというイカれ具合だ」
「ふゅー……ふゅ、ふゅー……」
二方向からの尖った視線から逃れようと吹けもしない口笛で誤魔化すアルハ。
「まあ、良いじゃないですか。 アッくんがいなかったら赤陽世界はクトゥルーの神に奪われてたかもしれないですし」
「ステラ! 君は甘いんだ!
いくら愛した男だからといって、このゴミクズの肩を持ちすぎだ」
「ゴミクズ……ぴえん…」
「それにこのゴミクズはな、他所で何人もの女を抱いているんだぞ!」
「おまっ…!」
「あー……」
「うわ……最っ低……」
唐突すぎるカミングアウトに慌てふためくアルハ。 マノからはゴミを見る目で蔑まされ、ステラは愛想笑いを浮かべている。
「違う! 違うんだステラ!
おい、ルイ! それは内緒にする約束だろ…?」
プルプルと唇を震わせながら今にも泣きそうな目でルイへ「言わないでくれ!」と合図を送る。
「はぁ……分かったよ……」
「っ…! ルイ…!」
「森奏の世界に四人、水明の世界に二人、紫闇の世界に五人、月光の世界に六人。 私調べなのでもう少しいるかもしれないがな」
「お前……」
「……フッ」
「なァ!?」
呆然とするアルハに対し、ざまあみろと言わんばかりの嘲笑するルイ。
「はぁー……疲れた……。 せっかくだし私も涼むとするよ」
「テメェ、クソ幼女ふざけんな!」
屋内に入ってきたルイに開口一番毒を吐くニート崩れ。
ステラが用意したかき氷を口にしたルイは喜々とした顔でアルハへと視線を向ける。
「誰が黙っていると言ったぁ?」
「さっきの分かったよは言わないでくれる雰囲気だっただろうが!」
「分かったよ、言ってやる。 という意味だ」
「性格悪っ! そんなんだから幼女ボデーなんだよ!」
「クソ創造神の性癖でこうなったんだ! 私だってこんな姿を望んだわけじゃない!」
「はい、不敬罪ー! お前もう神じゃいられませーん! ざんね〜ん!」
「神のいざこざに不敬罪が適用されてたまるか!」
二人の痴話喧嘩にやれやれと思いながら布団を干すマノ。 この二人の挟まれているステラが不憫である。
「あはは……。 やっぱりマノちゃんも少し休みませんか? 一人だけで動いていても効率が悪いでしょうし」
「う〜ん……。 そうですね、今取り出した布団を全部干したら休憩しようと思います」
「ホッ……」
ようやく騒音から離れられると思い、安堵の息を吐くステラ。
「分かりました。 かき氷は何味にします?」
「みたらし団子で!」
「……え?」
「みたらし団子ですよ! み た ら し だ ん ご!
もしかして食べた事ないですか?」
「あ、いえいえ~! 美味しいですよねみたらし団子!」
「はい! なので、みたらし団子味のかき氷をお願いします!」
「は、はい……」
一番おかしな事を言う人物をこちらに呼び込んだ事を若干後悔した。
ドンガラガッシャン十数分後、、、
「美味しいっっ!!! なんですかコレ!?」
「なんですか……って、マノちゃんが食べたいって言ったみたらし団子味のかき氷ですよ?」
「確かに言いましたけど、こんなに美味しいとは思わなかったので驚きです……!」
思いのほか上手く作れてしまったようだ。
「みたらしの甘じょっぱさがかき氷によく合ってて、この団子みたいな団子じゃない小さい団子も美味しいです!」
「ふふ……それは白玉って言うんですよ」
「あー! マノたんいいなぁ……。 同じスプーンで良いからキャッコいいアルハしゃんにもひとくちちょーらいっ!」
「絶対嫌です。 あと、なんですかその気持ち悪い言い回し」
「ぴえん……」
「ふふふ……。 で、アッくん。 次はどの世界に行くんです?」
「次かぁ……。 あんまし考えてないなぁ……」
「なら、森奏世界に赴いてほしい」
「森奏世界?」
ルイの提案に眉をひそめる。
「お前がそんな事を頼むなんて珍しいな」
「あの世界の管理神であるファフヌスからの連絡が、ここ数日無くてな、暇人を探していたんだ」
「誰が暇人だ」
「貴様以外にいるか?」
「答えは聞いてない!」
「まあ、そう怒るな。 気になる件もいくつかあってな」
「気になる件?」
ルイは頷くと、ポケットから写真を取り出す。
「あれ? アルハさん、これって……」
「ん〜?」
「あ……」
その写真には、銀髪に青い瞳をした青年が森に佇む姿があった。
「これって、今のアッくんですよね?」
「ああ。 私もそう思ったのだが、森奏世界にいる私の部下が話すには、この男は自分の事を未代志遠と名乗っていたそうだ」
「未代志遠……」
その名前を聞いた途端、険しい顔をしたアルハをルイは見逃さなかった。
「……何か知っているようだな?」
「……さあ、聞いたこともない名前だなぁ」
「……そうか、貴様がそう言うのなら今はそうしておこう。
で、行くのか? 行かないのか?」
「そりゃもちろん! ルイたんのおねだりであれば、アルハお兄さん頑張っちゃうぞ〜!」
「……相変わらず素直じゃないな。 では、森奏世界への転移魔法陣を作っておこう」
「えっ? あの、ルイさんは一緒に来てくれないんですか?」
マノが不安そうに質問する。
「ああ。 私はこの世界を守護するための神位魔法を使わなくてはだからな」
「神位魔法?」
「神が扱う魔法の総称だよ。 でも、良いのか?
今回の件は確かにクトゥルーの神が関わっちゃいるが、天上の連中は……」
「六大世界の管轄外の神では老いぼれ共はおいそれとはいかないだろうな。 というか、だからこその貴様なんだぞ?」
「ん? どゆこと?」
「貴様がクロノスに報告して、天上の奴らを黙らせるように仕向けるんだ」
「…………」
一言も口にはしないが、アルハはしわくちゃに顔を歪ませ、あからさまに嫌そうにしている。
「なんだその気色悪い変顔は」
「結局、俺が尻拭いかよ……」
「人間が好きならそれくらい努力しろ」
「へーい……ほんと、上司の扱いが雑だなぁ……ぶつぶつ……」
作中で「ぶつぶつ」と口に出して言うのは彼ぐらいだろう。
人差し指と中指を立ててこめかみに当てると、数秒間の沈黙が生まれる。
「よぉーし! とりあえず伝えといたぞー」
そう言うと、こめかみから指を離す。
「そうか、感謝する」
「?? あの、アルハさん」
何をしたのかよく分からなかったのか、マノからのご指名が入る。
「ん? どした?」
「今の指を当てる動作とクロノスっていう人が気になったんですけど……」
「これは通信魔法で、クロノスっていうのは神以外の生命を造り出した創生神のこと」
「へぇ〜……。 アルハさん、そんな凄い神様ともお知り合いなんですね」
「まあな!(どやあ…!) 知り合いっつーか、親友?
つーか、前に俺は神様だ!……って説明しなかったっけ?」
「してましたけど、どうせ嘘だと思ったので記憶の片隅に追いやってますね。 何の神様なんですか?」
「フッフッフッ……何だと思う?」
ニンマリ顔でマノへと問いを返すアルハ。
アルハに明確な好意を抱くステラは子供っぽいアッくん可愛い〜♡と微笑んでいるが、残りの二人は面倒臭そうにした後、アルハから顔をそむき、かき氷を食べだす。
「え、無視!? 待って、落ち込むから! 無視はしないで!(泣)」
「らしいぞ、マノ。 キミぐらいは答えてやれ」
「えぇぇ……イヤです」
「そんなため息混じりに「えぇ……」って言う? 普通言う…? ホント泣くぞ? ただ、俺は何の神様でしょうか? ってクイズ出しただけなのに、何でこんな言の葉フルボッコ状態なの? え、マノたん、ルイたん、そんな興味無い?」
「私はそもそも知ってるだろうが」
「私は別に……あんまり興味は……」
「……あ、そう…………」
アルハ・アドザム。
普段ふざけている彼だが、メンタルはあまり強くはない。
その後、ステラから借りたサングラスをかけたアルハは、森奏世界エリシウムへの転移魔法陣が完成するまで部屋の端で三角座りで凭れかかっていた。
「ボクハ……イラナイコ……キョウミ……ナイコ……」
成人男性が部屋の隅で体を小さくして、サングラス越しに涙が流れている光景が視界に入る。 女子三人は気まずいことこの上ないだろう。
彼の面倒な性格が原因なので何とも言えないが、、、
「クロノスうるせー……その地の文やめろ……」
地の文にすら力無くツッコむ所を見ると、相当に落ち込んでいるらしい。
そうこうしている内に転移魔法陣が完成した。 アルハのメンタルも少し回復した。
「二人共、エリシウムでは自分が魔法を使えるということが周りに知られないよう気をつけてくださいね」
「え、どうしてですか?」
「森奏世界では、魔法を扱える人間は神の使いと思われて、いつの間にか軟禁状態になるからなぁ。 前に別の姿であの世界に行ったときはそうだった」
「えぇ……」
その話を聞き、一気に行きたいと思わなくなるマノ。
「マノの場合は悪魔体じゃなければ使える魔法なんて飛行魔法ぐらいだろ?」
「そうですけど……なんか、えぇ……」
「なんだよー、ついて来ないと主従契約の解除してやんないぞ〜?」
「うっ……それを言われると……ぐぬぬ…………」
(契約解除だと?)「おい、アルハ。 そんな話聞いてないぞ」
「ん? そりゃ誰にも言ってないもん」
「いや、言えよ。 何故、私はおろか、主従契約を行ったステラにすら話さないんだ?」
「え……ステラ良い?」
「良いですよ〜」
「即決!? ステラ、君は本当にそれで良いのか?」
「はい。 マノちゃんとの主従契約も、この天照城の神気の影響を受けないようにするためのものだったので、ここから離れるのであれば別にどうでも良いかなぁ…と」
「そ、そうか……。 君が納得しているのであれば私からこれ以上の口出しは出来ないが……」
「そういうことだ! んじゃ、バイナラー!」
「ちょっ……アルハさ……」
マノの手を引き、駆け足で転移魔法陣へと入るアルハ。
二人が魔法陣に踏み入った事で、その力を発揮すると、転移が行われた後に魔法陣の模様も消失した。
「……行っちゃいましたね」
「そうだな」
「良かったんですか?」
「何がだ?」
「オーちゃんが後ろに隠しているその小箱……マノちゃんへの謝罪も込めたプレゼントだと思ったんですけど?」
「っ……! なぜそれを……」
「ふふふ……。 オーちゃん、昔から素直じゃないので〜♪」
「フンっ! 何故、私が謝罪しなくてはならないんだ! 全く理解できないな! ハッ!」
(あーあ、拗ねちゃったみたいですね……ふふ……)「じゃあ、私が預かっておきましょうか?」
「っ? 君がか?」
「はい。 アッくんは近いうちに、絶対に此処に来るので、その時に私の方から渡そうかな、と……」
「……そうか、なら、預けておこう」
ラッピングの施された小さな箱をルイから受け取ると、ステラはそれを服の袖に仕舞った。
「…………」
「……? どうしたんですオーちゃん?」
「前から気になっていたんだが、何故、巫女装束なんだ?」
「ふふふ……私が好きな人の趣味だからですよ〜」
赤陽世界編が今回で終わり、次回からは森奏世界編となります。 これからもよろしくお願いします。
ここまで見てくださった皆様、よければブクマや星を押してもらえると嬉しいでーす!




