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罪に願いを 新世界の先駆者  作者: 綾司木あや寧
二章 赤陽世界編
53/175

星を明かす罪人 4

「はぁァァァァ!!」


 背中から露出した八本の骨を羽のように広げ、マノへと襲いかかる星明。


「……っ!」


 キンッ!

 しかし、その攻撃はマノが魔力で生成した剣で往なされる。

 マノが手にしているのはレイピアのような細い刀身でありながら、突きではなく切ることに特化した剣である。


「チッ……ふんッ!」


 続け様に剣戟を繰り出すも、それらを間一髪で防ぎつつ、アルハからの距離も離していく。


「なんだ、今回は眷属ではなく自分で戦うのか」

「いけませんか?」(どうして……)

「ハッ……いいや、随分と素直な戦い方だと思ってな。

 だが、嫌いじゃない。 もう少し楽しませろよっ!!」


 キ゛ン゛ッ゛!


「ぐっ…う…!」(どうして……)


 先程よりも力強い刃の衝突に往なす事は敵わず、防御時の衝撃により、手首に軽い痛みが走る。


「ハハハハッ! どうした? こんなもんじゃないだろ!?」

「っ………!」(どうしてこの人は……)


 痛めた手に負担をかけないために、両手持ちして事で動きは鈍くなり、一方的に追い詰められる状況となる間も、マノは星明の行動に不信感を覚えていた。


(どうしてこの人は、格闘戦で攻めてこないの……)




 マノが星明を誘導している隙に、聖奥の準備を整える。


「…………」


 空を見る。

 事前の予定では聖奥、アローレイ・ラピス・ラズリによる最高威力の一矢で決着をつけるつもりだったが……。

 異常な速度で過ぎ去るも尚、延々と続く黄昏の空、空間内部の空は常に変わることなく不気味な色合いをしているらしい。

 つまり、青空の下でのみ使用可能とされるこの技は、この空間では、文字通り無意味な技となっている。 


「…………」


 マノと星明の戦いも予想していた時とは異なった状況となっている。

 こちらと距離を取りつつ、星明を牽制しているマノは何故か剣を用いて戦っている。が、それは現状、僥倖と言える。

 だが、立て続けに片手で防いだからか、途中から両手持ちに切り替えている。 手を痛めているのだろう。

 意外な事にマノの剣術が高い点と格闘戦ではないという理由で一分以上の戦闘も可能かもしれないが、手の負傷を庇いながらとなると話は違ってくるだろう。


「……」


 そして、この聖奥結界……。

 こちらを誘い込み、自身が優位に立つために作り出したと当初は思ったが、そうじゃない。

 この空間は風景こそ若干の不気味さを漂わせているが、別の空間というだけ。

 予定としていたアローレイ・ラピス・ラズリによる一撃必殺という考えがあったこちらとしては、発動出来ないこの状況は悪手と言える。 しかし、それを理解した上でこの空間を作り出したとはあまり考えられない。

 むしろ、ルシファーの力を有していたとしても無駄な魔力消費は避けたいはずだ。


 三十秒経過。

 本来ならマノが引きつけてすぐに魔力を一点に蓄積しなくてはいけなかったが、使用不可となった今、第二候補としていた抜刀術を用いて怠惰の力を解き放つ聖奥スラッシュ・エピリスディアが有効打である。 この技は発動、最大の威力までに時間を有さないのが利点である。

 尚、注意点としてこの聖奥は決定打にはならない。

 傲慢は大罪を統べる事自体が能力の全容であり、それは怠惰の力を用いるこの技も例外ではない。

 星明が元いた世界にて、効果の詳細を理解した上でこの技を受けた経験があれば、最初の一撃で無効化。 経験が無くとも、二度目で完封されてしまうのは必須。 しかし、こちらの記憶では、この聖奥の発案者はアザゼルという悪魔にしか使用していない。 となると、、、


(ま、駄目で元々だ)

「聖奥解放…」


 魔力で生成した剣に光の魔力を集中させる。 星明は未だ自身のいた世界のマモンと思っているのか、それとも初歩的な聖奥の魔力量だからか、こちらの行動には見向きしない。


 白い騎士の化身が体と重なる。

 聖奥の中でも最初に覚えられる程度の技なので必殺としての威力は期待出来ない。 


「お前の技、二つばかり借りるぞ……。

 ナイトオブセイバー」


 二人の間に割り込むと、聖奥を用いた剣戟で星明の剣を弾き飛ばす。


「っ!」(この男、何のつもりだ……)

(アルハさん!? えっ? もう、一分でしたっけ?!)

「もう、いっちょ!」


 一驚するマノには目もくれず、聖奥による二度目の剣戟で星明の胴体を切り裂く。


「チィッ…!」


 ドンッ! という鈍器の衝突したような音と共に星明は後方へと吹き飛ばされる。


(物理的な防御力を高めて斬撃による負傷を軽減したか……とは言っても……)


「はァ……はぁ……くっ…!」


 アルハの剣が触れたと思われる星明の右肩から左腹部までの衣服は裂け、その部分の肌の色合いがくすんでいる。


(無傷とまではいかないよなっ!)


 大地を蹴り飛ばし、吹き飛ばされた星明に迫るアルハは三度目のナイトオブセイバーを間髪入れずに放つ。


「っ! 付属品が……ナメるなぁ!! 聖奥…!」


 星明も聖奥の発動をしようとする。 しかし、、、


「聖奥解放…」

「っ!?」(何だと……!?)


 右手に握られていた剣からは既にナイトオブセイバーの一撃が構えられているにも関わらず、アルハはもう一度聖奥の発動を宣言した。

 聖奥とは、全ての力を一点に集中させる能力であり、本来一人で複数同時使用は不可能である。


(ふざけるなよ……!)「解放! パラダイス・ロスト!」


 出来もしない事を茶化すように行うアルハに怒りが湧き上がる星明は、自身の力を最大限にした聖奥、パラダイスロストを発動する。

 極彩色の十二枚羽が星明の背後より顕現した。

 それぞれに異なる魔力の性質を持ち、満開の花のごとく広がったそれが、星明が向けた剣の切っ先にいるアルハへと大砲の様に放たれる。


 一直線に向かってくる色鮮やかな魔力の塊。

 マノはその魔法大砲を前に呆然と立ち尽くす。


(あらら……マノちゃんったら、ビックリしちゃってるな〜)


 星明の聖奥はアルハの聖奥射程圏外だったため発動を許してしまったが、彼は微動だにしなかった。

 何故なら、アルハは星明への攻撃を仕掛ける瞬間、意図的に左半身を隠していたからだ。


(パラロスは予想外だったなぁ……ま、腕の一本、くれてやるかっ!)

「許してくれよぉ右腕ちゃん!ナイトオブセイバァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」


 最大威力のナイトオブセイバーでパラダイスロストを相殺しようとするアルハ。

 アルハの剣戟に、極彩色の羽は一枚……また一枚と朽ちていく。


(後、八枚……)

「いっけぇぇぇぇぇ!!!」

「なんだとっ!?」


 羽は更に朽ちていき、数を減らしていく。


(あと、四枚…!)


 その時。


「残念だがここで終わりだ」

「っ…!」


 朽ちていき生じた羽と羽との間から星明が現れる。

 星明はナイトオブセイバーの軌道から逸れ、アルハの心臓を目掛け拳を穿つのだった。


 バキバキッ! と骨が砕けた後にバンッという破裂音。


「ガッ…ふ…ゥ…」


 吐血したアルハは声にならない一瞬の苦しみを見せ、千鳥足で数歩後退り、立っているほどの意識も無くなったのか倒れてしまう。


「……アルハさん?」


 現状を理解できないマノはなぜアルハが倒れているのか理解できなかった。

 抉られたように窪んだ胸部。 瞳孔が開ききっているその目には何も映っていないように思える。


「アルハさん……アルハさんっ…!」


 膝をついたマノはアルハの体を揺すりながら名前を何度も呼ぶも一切反応しない。


「その男は付属品かと思ったが……」

「っ………」


 星明の剣先がマノの首に向けられる。


「お前がオマケだと思わせるほどには楽しめたよ、強欲の悪魔」

「…………」

「ん? なんだ、その目は…?」

「…………」


 逃げるわけでも言葉を交えるわけでもなく、ただ怒りを込めて凝視する。

 ハッ、と嘲笑うと、星明は手にした剣を喉元へと差し込みはじめる。


「懇願しないのか?」

「言ったところで、命拾いできるとは思っていないので」

「そうか、賢明だ。 なら、安らかに死なせてやる」


 逃れる間もなくマノの首には剣が突き刺さる。


「…………」

「……フッ、呆気ないな」


 星明は首を貫通した剣を引き抜き、血を払い飛ばす。

 硬直したようにマノの体は膝をついた状態からピクリとも動かない。


「っ!?」


 そう。 体は倒れるどころか傾く事もなく動かないのだ。


「っ! 後ろ…か……」


 何かに気付いた星明が咄嗟に背後を薙ぎ払おうとするも、、、


「!? あ……か、から、だ…が……」


 彼の体は自由を奪われたように地面を這っていた。


 意識が混濁する中、振り向きざまに見えた誰かの足がマノの側へと歩み寄る。 それが星明の意識の中で残った最後の光景だった。


「は~い回復〜」


 マノの首にある傷に手を翳し、回復魔法を発動する。 細胞、神経、血液、皮膚といった全ての損傷を治癒……というよりも再構築させていく。


「ゴボッ! ゴホッ! ゴホッ! はぁ…はぁ……。

 死ぬかと思いました……」

「ちゃ~んと俺の指示に従えて偉いぞ〜」


 マノの頭をクシャクシャとかき乱すアルハ。 本人は撫でているつもりらしいが、あまりにも雑だったのか、撫でられている側は嫌そうに手から離れようとしている。


「やめっ…止めてください!」

「なんだよ〜……褒められて嬉しくないのか〜?」

「嬉しいですけど、アルハさんの褒め方はなんかムカつきますし、撫で方が動物にやってる感じで不愉快です!」

「えっ…ヒドォ〜い……」


 あいも変わらずふざけながらも、へたり込んでいるマノに手を差し伸べる。


「でも、どうやってあの状況から切り抜けたんですか?」

「切り抜けたも何も、ナイトオブセイバーを使ったのは俺の分身だ」

「分身!? そんな忍者みたいな技も使えたんですか?」

「いや、暴食の悪魔のをパクった」


 そう言って倒れたもう一人の自分の亡骸の胸部から何かをちぎり取る。

 アルハが取り出したのは一匹の蝿の死骸だった。


「パクった!? 分身って、パクって使えるものじゃない気が……それに星明…さんが倒れた理由は一体……」

「大罪魔法っていうのを使ったんだよ。

 怠惰の大罪魔法エピリス。 対象の肉体、神経、意識等の動きを停止させる魔法だ」

「大罪魔法……聞いたことの無い魔法なんですけど……」

「別次元の世界にある魔法だからな、神様連中と友達にでもならない限りはそんなの一生知らないだろうな」

「……アルハさんって、何者なんですか?」

「神様です!」

「アルハさんみたいな人が神様なら、この世界終わってますね」

「フッ、まあn…って、まってまって! 終わってるってどういう事? 褒め言葉だよね? ねえ!?」

「そんな事より、星明さんを警戒しなくて良いんですか?」

「そんな事より? そんな事より!? マノちゃん何でそんな酷いこと言うの!?」

「あぁーー! もう! ウザ絡みしないでください!

 星明さんは死んだんですか、生きてるですか?!」

「ハイ、生きてます! さっきも言ったように色々な機能が停止してるけど死んではいません! ハイ!」

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