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罪に願いを 新世界の先駆者  作者: 綾司木あや寧
二章 赤陽世界編
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ギイム 7

(さて、行くか…ん? あれ?)


 ブ〜〜〜ン………。 そこには、弱々しく羽を震わせる蝿がフラフラと宙を浮かんでいた。

 悪魔などが生み出す眷属であれば、ラドジェルブの光芒により消滅するが、こいつだけはベルゼブブに利用されていたただのハエらしい。

 よく見ると左側の羽が千切れている。


「気をつけろよ〜」


 指の上にハエを乗せると治癒魔法で羽を修復し、転移魔法で森奏の世界を指定、ハエのみを転移させた。


(じゃあ、改めて行くか……って……)


 アルハの脳裏に見える光景には白髪の青年の前に倒れ伏せる二人の男。

 白髪の青年の右手には草薙剣と思われる銅剣が、左手には八尺瓊勾玉と思われる三つの勾玉を所持している。


(えぇ……こちとら一、二分の間の出来事ですよ? 暴食の悪魔さんヤバくね? 聞いてないよー……)


 やれやれ…と、頭を抱えていると次の光景には、アルハを認識したのか、口端を上げ、手にした得物を構えるベルゼブブの姿が見えた。


 口を動かしている。

 おそらくは聖奥解放と言っているのだろう。


 草薙剣の硬度に八尺瓊勾玉に秘められた神力を付与し、内側から山へ衝撃を与えようとするベルゼブブ。


(富士山内部からブッ壊すなんて、ここ数万年でアイツぐらいだな……。

 はぁぁぁぁぁぁぁ………疲れるけど、ちょっと本気出すか……)


 アルハは嫌そうに左手に魔力を貯め作り出した刃で右手に切り傷をつける。


 その右手を前に突き出す。


「…………」


 当然、切り傷からは血がこぼれ落ちそうになっている。


「…………」


 ポタリ…と血が溢れたその時、、、


「っ!」


 全身に力を込めると、呼応したように血は重力に逆らい、天へと登る。

 ギュウゥゥゥゥゥン!!!

 空間が歪むほどの赤い風が吹き荒ぶと、アルハの皮膚や毛髪、瞳の色は赤い風によるものとしか思えないほどに赤く染まっていた。


(へぇ……確かに凄いな、これは。

 っ!)


 富士山内部の光景がまた脳内に広がる。


(聖奥として草薙剣を使うまでには三秒の時間を有する。

 聖奥解放をしてから既に一秒…いやそろそろ二秒になるか……だとすれば、騎士の護剣による相殺よりもぶん殴ってマグマに沈める方が手っ取り早いっ!!)


 バシュン!! 光速を超える速度で移動したソレに、空を揺蕩う雲は吹き飛び、空には一片たりとも残っていなかった。




 富士山内部火口


「っ!?」

「っ……」(みーつけたっ!)


 一瞬の出来事だった。

 ベルゼブブはスサノオから奪った剣とツクヨミから奪った勾玉で山を砕こうとしていた。 それも砕こうとする秒以下コンマのタイミングでソレは現れた。

 火山によるものか、そういった姿だったのかも考察できないほんの一瞬の間、獲物を捉えた獅子のような眼差しをしたソレは渾身の一撃をベルゼブブに振るった。


「くっ……!」


 たまらず聖奥として放った草薙剣を赤いソレが振るう拳にぶつけ、相殺しようとするがそれは無意味に終わった。

 当然だ、腕を捻り、対象を変更するのだ、最大で放たれるはずだった威力は損なわれる。

 それ以上に相手の力量が異常だったのも理由であろう。


 バギンッッッ!!


 真っ二つに折れる銅剣。


 ドゴォッ!!!


「がァ!?」


 反吐を吐き散らすベルゼブブ。

 その後、胴体を突いた拳は、文字通り何かを手中に収めた。


 バシャァァァン!!!

 溶岩に殴り飛ばされたベルゼブブは這い上がろうと抵抗する事なく、そのまま赤い水底へと沈んでいった。


「…………」

「…………」


 たった一瞬で勝敗が決まった事に火口内部に点在する地面に倒れていたスサノオとツクヨミは言葉に出来ないほどの驚きを見せている。


「スサノオ、ツクヨミ。 色々聞きたい事があるだろうけどさ、この変身は百秒しか保たないから脱出優先って事で俺の手に掴まってくれ」


 言葉を出せずとも信頼して良い相手という解釈をしているのか、二人は手を差し伸べ、アルハは来た時と同様に光の速さで火口内部から出て、周囲の安全な地帯へと着地する。


「……はぁ。 悪いなぁ、草薙剣も八尺瓊勾玉もマグマの中に落としちゃってさ…」

「あ……」


 ニィィ…と誤魔化すように作り笑いをするアルハを見て、中性的な風貌の青年が何かに気付く。


「もしかして……アッくん兄様?」

「ん? アッくん兄様…?」


 スサノオは腕を組み、誰だったかを思い出そうとしている。


「スサノオは忘れたんですか? そうですよね…! アッくん兄様!!」

「うん、あのー……まあ、ツクヨミが言うアッくん兄様は多分、俺で間違いは無いと思うんだけど……兄様とは…?」

「あ、はい! 姉様が、いずれ自分達の兄になる方なのでこう呼べと」

(アイツかぁ…!)「なるほど……」

「それにしても驚きましたよ! 以前とは姿が異なっていますし、ギイムにいらっしゃるのであれば、事前に教えてくだされば式の準備もしたというのに……」

「式は挙げねーよ! 結婚とかはステラの妄言だからな!?」

「え、そうなのですか?」

「随分、昔から同じやり取りをしてた気がするけど、何故理解しない……」

「すみません、アッくん兄様。 自分、姉様が嘘を吐くとは思えず、その言葉をつい鵜呑みにしてしまうんです」

「あー…そうだったなー……。 まあ、それがお前の良いとこでもあるし仕方ないのか……」


「はぁ…」と深いため息を吐くアルハをよそに、自分の長所を褒められたと思っている第一のシスコン(ツクヨミ)は嬉しそうな顔をしてこちらを見ている。 仲間に加えるとおまけで姉様(アマテラス)が付きそうなので、この赤陽世界編のみの出演と先に記述しておこう。


「アンタが…本当にアニキなのか…?」

「……」(お前もかーい!!)


 そしてもう一人のシスコン、スサノオもアルハを兄呼ばわりするらしい。

 彼等のアルハに対する認識はアマテラスによって義兄として書き換えられているようだ。


「だーかーらー!」


 アルハはイトー○ーカドーサトー○コノカドーといった感じに先程と同じ説明をした。 が、スサノオは普通にアホだったので理解できなかった!

 アルハは端的に結婚しないと言った。 が、なぜ結婚しないのか?と言い出した。

 そして理解してもらおうと思っても理解されないので、そのうちアルハは考えるのをやめた。

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