神の正体 1
「神……そうか、だから聖者であるマノですら精神干渉を……」
「っ…………」
志遠から向けられた視線に無意識に目をそむけるマノ。
「だな。 しかもマノは外傷よりも精神的にやられているのを見るにバアルは支配者の可能性が高い」
「支配者……クロユリさん同じってこと?」
聞き覚えのある呼び名に由利が問う。
「そうだな。 ま、リリラクブみたいな新たなる支配者なのか、アザトゥスみたいな旧支配者なのかは分からないが、どちらにせよ俺と由利以外はアイツとは戦えない。
二人共、理由は分かるよな?」
「…………」
「……ああ」
その話題に触れるのすら嫌なのか、俺に言葉を返したのは志遠だけだった。
影の月光世界にて志遠はレヴィアタンの支配権能の影響を受け、この水明世界ではマノがバアルから精神崩壊一歩手前まで干渉を受けた。
マノがレヴィアタンからの支配権能を無効化したのは聖者という悪魔への完全耐性を生まれながら持った存在のためだ。
しかし、バアルが正真正銘の神だった場合、いくら聖者といえど人間。 人が神に抗うなんて事は不可能。
「バアルが神なら俺は制限無く戦えるし、由利もリリラクブがいるから精神崩壊を起こす事はないだろうしな」
「…………」
俺が話しているのを神妙な面持ちで聞いている璃空。
「どうした、璃空?」
「えっ?」
「いや、なんか随分静かにしてるからさ。 また自分の姉貴の事でも考えてんのかな〜って思ったんだよ」
「……ア、アルハさんは僕の事をシスコンだと思ってませんか?」
「違うのか?」
「違いますよ!」
「じゃあ、何考えてたんだ?」
「それは……その……」
璃空は部屋全体を眺め、最後に視線をベッドに向けた。
「て、店長さんですよ!」
「……無理があるだろ、その誤魔化し方……」
璃空が働いていた酒場の店主トーマ。
水明世界の管理神ティアマトが人間になるために分断し残ったカスのような存在。
「ティアマトに関しての情報を持ってるだろうが、まだ意識は無いみたいだな……」
「神皇の瞳を使えば記憶を読み取れるんじゃないんですか?」
自身が経験した事があったマノが布団から顔だけを見せて訊ねる。
「そう思って試してみたんだけどなぁ……。 ティアマトのやつ、外部から干渉されないよう神の加護を付与してるらしい。
首をへし折られたのに死なずに済んだのも、その加護があってだな」
「そうなんですね……。 すみません……無意味な質問して……」
「ネガティブだなぁ……。
多少なりとも力になろうと思って聞いたんだろ? あんまり気にするなって」
「でも……アタシ…………」
「……」
マノがここまで落ち込むのは意外だった。
由利からの話で、みたらし団子が食いたいとか言っていたから元気を取り戻したと思ってたが、これは重症だな……。
「唯一の救いは、バアル達が目立った行動をしてないってとこだな」
「……目立った行動をしてないだけで姉さんが誰かを傷付けてる可能性はあります…………」
不安げに答える璃空。 確かにそれは否定出来ないが……。
「でもな……」
「飯島璃空、君の言ってる事も分からなくはない」
俺の言葉に被さるようにして志遠が口を開く。
「ただ、ベルフェゴールが人を襲っていたのは君を探すためだった。 その君が見つかった今、無意味な殺人をするとは思えないんだ」
「志遠さん……」
「……悪い。 関係無い相手からこんな事言われても困るだけだった」
「志遠……」
本来いた世界の記憶が失われていたとしても、かつての相棒のことは信じたい……という事なのだろう。
「ま、そゆことだ!
あーだこーだと考えるのは、このオカマスターから事情を聞いてからでも――――」
ベッドに眠りについている酒場の店主に触れた瞬間。
「嫌ァァァァ〜〜ンッッ!!」
「『!?」』
突然の驚嘆と共に身体を起こした酒場の店主に俺達は戸惑った。
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