バアルのイタズラ 6
「っと……」
璃空の聖奥でなんとか異空間を抜け出す事が出来たけど……。
「まさか、お前が異空間を壊すとはなぁ……。 これなら俺も遠慮せずに神皇の瞳を使うべきだったかな〜」
「あはは……すみません……」
聖奥で全ての魔力を消費したであろう璃空は俺の腕の中で弱々しく答えた。
「それにしても、酷いですね……」
「だな……」
フェニックスは璃空の聖奥を受けてか、もうそこにはいなかった。 が、異空間に閉じ込められる直前に助けたはずの人は一人残らず消え、その代わりに赤い絵の具をぶち撒けたかのごとく町は赤一色に染まっている。
「…………」
町の惨状に拳を握りしめ、怒りの形相を覗かせる璃空。
「璃空、分かってるとは思うが、今は――――」
「マノさん達の所に早く行きましょう!」
「っ……。 ああ」
感情と思考を切り離した発言。 やっぱりコイツを普通の子供だと思うのは筋違いか。
璃空を抱えたまま酒場へと舞い戻る。
道中にはバアル……いや、アイツは自らの手を極力汚さない主義らしいので、ベルフェゴールに指示し、殺害したであろう死体がいくつも見受けられる。
年齢性別問わず何人もの死体が道の端に散らかっていたが、その中でも女の死体は総じて無惨なものが多い。
男は胸部を一突きで結構綺麗な状態なのに対して、女は四肢切断や顔面の皮膚を剥ぎ取るとか……ベルフェゴールの女嫌い要素を遺憾なく発揮し過ぎでは?
「アルハさん、あれって全部姉さんが――――」
「違う。 あれに関していえば、お前の姉さんの意思でやったものじゃない」
あれに関してだの意思でやってないだのと璃空が不安を抱かないよう出来るだけ優しい言葉を選ぶ。
うん……あれ以外では故意に人殺しをしてるが、それは聞かれてないので言わないだけだ……。
「っ!」
前方から接近する二つの気配に足を止め、物陰に隠れる。
「今、誰かの気配がしたような…………あ」
「…………あ、れ?」
「おや……もう洗脳が解けかかってるみたいですねぇ……」
黒髪の女が赤かった瞳を銀色に変色させ、薄く明るい茶髪の女と見つめ合う。
「…………」
瞬間、茶髪の女は人形の様に虚ろな眼差しになり、頭や腕をぷらぷらと垂らす。
「よーしっ! 洗脳再度完了っと!
さ、ルキさん! 私についてきてくださいっ!」
「っ……」
茶髪の女は、黒髪の女の言葉に促され、彼女に付き従うようにその場を後にした。
「アルハさん、今のって……!」
「ああ、バアルとお前の姉貴だろうな。 それに……」
「再度、洗脳をかけたという事は、バアルさんの洗脳は完璧なものじゃない……って事ですよね?」
「らしいな。 あの銀の瞳、バアルは借りたって言ってたが、借り物なだけあって制限があるんだろう」
よかったぁ〜……! あんな俺の目のパクリみたいな能力を制限無しで使われたら普通に負けるもん!
「? アルハさん、どうして一息ついてるんですか?」
「えっ!? あ、いや、バレずに済んだなって事で……」
「何、悠長な事言ってるんですか! あの二人がやって来た方向って酒場の方なんですよ!
もしかしたら、みんな酷い目に……」
「あ、サーセンっ! すぐ行きまッス!」
男子中学生に言葉に成人男性は慌てながら走り出すのであった。
⬛⬛⬛⬛⬛
「由利!」
酒場の扉を勢いよく開け、一階の酒場を見渡すと、床の一部分に不可解な力で空けられた穴の痕跡を発見した。
「これは……」
「何かが生えてきた? 植物……ですかね? でも、だとしたら違和感がありますよね……」
植物……それにこの甘ったるい匂い……。
「そうか……これは由利の……」
穴の原因を突き止めたと同時に軽快な足取りで階段を降りてくる音。
「アルハさん!」
「うおっ!?」
璃空を頭の上まで持ち上げ、黒髪癖毛少女からの良質タックルを心置き無く堪能……したいところだが。
「由利……俺の腕が限界だから、先に璃空を下ろさせてくれ……」
「えっ……あっ! ごめんなさい!」




