バアルのイタズラ 3
(魔力反応が消えた……意識を失ったか、あるいは……)「……まあ、どちらにしても瓦礫の下敷き程度でアルハさんは死なないでしょうし、早々に出てこれないよう闇の空間に閉じ込めちゃいましょう!」
そう言うとバアルは、両手を広げ、周辺に散漫する黒い霧を瓦礫の山に注ぎ込む。
「さて、残りは守護者さん、マノさんと由利さんだけですか……。
行きましょうルキさん! 案内ヨロですっ!」
「……」
バアルの指示に従い、マノ達のいる酒場へと歩き出すベルフェゴール。
その後をルンルンと楽しそうにバアルは鼻歌交じえてついて行く。
「あ、そういえばフェニックス……ま、いいでしょう! また人間を喰い殺したり、アルハさん達の逃げ道を塞ぐのにも一役買ってくれそうですしっ!」
二人が去っていった後、蘇ったフェニックスは生き残っていた人間をまた捕食を開始する。
その行為を妨げる者はもういない。
⬛
「…………ん。
…………あ……っ! ここは……」
「よっ、気がついたみたいだな」
「アルハ……さん……」
神皇の瞳を発揮した状態だったから聖盾魔法シャリドを即座に周りに張り巡らせる事が出来たが……。
「ちょっと厄介な感じだなぁ……」
「厄介……ですか?」
「ああ。
バアルの奴、ここにある瓦礫全てに、あの黒霧をこれでもかってぐらいに練り込んで異空間にしやがった。
これじゃ、瓦礫を吹っ飛ばしても元の場所に戻るまでに時間がかかるだろうな」
「っ……。
すみません……僕が油断したせいで……」
「璃空が悪いわけじゃない。 大罪魔法への対処なんて限られた奴にしか出来ないし、姉貴に手を出さなかったのは飯島璃空が姉想いの優しい人間だからだ」
「アルハさん……」
「だから、お前は何も悪くない」
璃空は俺から視線を逸らしつつ……。
「……ありがとうございます」
はにかみながら、そう返した。
「……よしっ! んじゃ、さっさとこの瓦礫を退かすか!」
「そんな簡単に出来るんですか?」
「おうよ! ふぐぐぐぐ……」
俺達を守っていた聖盾魔法シャリドを全方位に向け、押し出していく。
「わっ……あの光の盾、そんな使い方もあるんですね」
「守るための魔法だから、この押し出しには別の魔法との兼ね合わせもだけどな。
おりゃああああっっ!!」
魔法で全ての瓦礫を吹き飛ばす。
「!……。 アルハさん……」
「っ……」
瓦礫の外側はナトミーの町と隔絶された真っ暗な世界が広がっていた。
「さっきまで町中だったのに……。 これが、黒霧の異空間なんですか?」
「だろうな」
瓦礫に覆われていた時は光属性を含んだシャリドのお陰で足元ぐらいは見えていたが……。
「璃空、ファボエルを常時発動して、松明代わりしておこう。 こんなところで迷子になるなんて洒落にならないからな」
「はい」
火属性の魔法により互いの手元足元ぐらいは視認できるが、よくもまあ、こんな空間を即席で作り出せたものだと敵ながらあっぱれというか……。
立ち止まっていても何も始まらないと判断した俺達は、まずは真っ直ぐと地面がある限り進みだした。
「……」
「っ……」
「……?」
「!……。 っ……」
なんだ……璃空がこっちを見てはすぐに目を逸らす。
そう思っていると、意を決したのか、ガッと顔を向ける。
「……アルハさん!」
「ん?」
「アルハさんは知ってたんですよね? ベルフェゴールが姉さんだった事」
「……まあ、な。
っていうか、気付いてたんだな……」
「いえ、バアルさんが言ってたので……」
バアル……また、アイツか。
「ごめんな、隠していて」
「いえ、そんな事は……。 むしろ、僕が動揺しないように黙っていてくれたんですよね……。
ごめんなさい、気を遣わせてしまって」
「……」
そこまで親しいわけじゃないからだろうけど、よそよそしいというか謙虚というか……。
今まで関わってきたのがアホ全開な奴と臆病だけどすぐ懐いてくれた少女と陰キャなのに当たり強めな守護者だっただけに、普通なタイプ過ぎて逆に接しづらい……。
「そういえばアルハさんも、バアルさんとはお知り合いなんですね」
「ああ……まあ、そうだな」
「なんか、嫌そうですね……」
「アイツは他の悪魔を道具としてしか見てないからな。
使い潰して、自滅すれば事後処理が楽だ……とか思ってるタイプは好きじゃないんだよ」
「そんなタイプには見えなかったです……」
「明るいフリをしてるからな。
さっきの璃空とベルフェ……飯島瑠樹を戦わせた時も、あんな回りくどい事しないで、お前を洗脳して身動きを封じれば、それで勝敗は決していた。 でも、その手段を選ばなかった。
その答えは簡単だ、アイツは他人が一番嫌な思いをする行為を誰よりも最前席で見たいんだよ」
「姉さんが一番嫌な思いをする行為って……」
「お前を殺す事だよ、璃空」
「えっ?」
「飯島瑠樹がこの世界でも悪魔になってまで叶えようとした願いがあるのなら、それはたった一つ。
お前の幸せだ」




