バアルのイタズラ 2
「ベルフェゴールが……姉さん……」
「……おっ、噂をすれば……」
「?」
コツコツ……。
バアルの後方から聞こえてくる足音、霧の向こうから見える人影。
「っ!」
「……」
現れたのは全身が真っ赤な血で染まったベルフェゴールだった。
「ねえさ……ベルフェゴール!」
霧の中からフラリと出てきたベルフェゴールに神経を尖らせる璃空。
「……」
そんな璃空の事など眼中に無いのか、ベルフェゴールは無機質な面持ちで瞳に移る虚空をぼんやりと見つめている。
「ではでは、ルキさん? 私のお願い、ちゃ〜んと果たしてくださいねっ!」
「っ……」
バアルに肩をポンっと叩かれたベルフェゴールが不安定な足取りで璃空に向かいながら腰の剣を引き抜く。
「っ……!」
ベルフェゴールからの殺気を感じ取った璃空も自らの得物に手をかけるが……。
「っ…………」
バアルの言葉が頭に残り、剣を引き抜けない。 その間に璃空との間合いを詰めるベルフェゴール。
「邪奥解放……」
「!」
ベルフェゴールを中心に魔力的干渉が大幅に低下し、その影響から彼女の周囲から殆どの黒い霧が消えていく。
「スラッシュエピリスディア」
可視化された超重力が剣から押し出される。
「聖奥解放! ラズリ……っ!?」
ベルフェゴールからの攻撃が被弾する既のところで水の魔力を有した聖奥を発動する璃空。 だが……。
(魔力が……かき消されている!?)「くっ……!」
魔力の力を含まないため、自らの力だけで邪奥を防ごうと試みる璃空。
しかし、大罪魔法という最強クラスの魔法による邪奥を受けきれる筈もなく、璃空の剣の刀身は真っ二つに折れ、ベルフェゴールの邪奥により彼の体は薙ぎ払われる。
勢いは留まることなく、邪奥を一身に受けた璃空は建物に打ち付けられる。
「が……ハっ……」
「っ――――!」
その一撃で戦闘続行を困難となった璃空にベルフェゴールは拳を打ち込む。
「ぐっ……うっ……」
「っ……! っ……!」
無機質ながらも一発一発に最大の力を込めるベルフェゴール。
邪奥の斬撃で抉られ開いた傷口が拳を受ける都度、鮮血を滴らせる。
「璃空っ!」
「グイエェェェエ!!!」
「チッ……邪魔なんだよ!」
「ゲェ……」
ナイトオブセイバーでフェニックスを叩き切り、璃空の元へと駆け寄る。
「ベルフェゴール!!」
「っ……!」
声に反応したベルフェゴールの頬を殴り、璃空から遠退かせる。
「璃空……しっかりしろ、璃空!」
「…………」
意識を失っている……が、これなら生命魔法でどうにかなる。
「おい、ベルフェゴール。 お前、どういうつもりだ……!」
「…………」
ベルフェゴールは眉一つ動かす事なく、得物をこちらに向け構えている。
「あはっ☆ ダメですよぉアルハさん?
これは璃空さんとルキさんのキョーダイゲンカなんですから、部外者がジャマしちゃ……」
「……俺が気付いてないとでも思ってるのか?」
「と、言いますと?」
「他人を犠牲にしてでも璃空を救おうとしてたベルフェゴールが、その考えを急に変えるとは思わない。
そして、お前が意味も無くこの世界にいるなんて事はありえない」
「ふむふむぅ……。 つまり、私も一枚噛んでると……」
「一枚……? 戦犯の間違いだろ」
「えぇ〜……ヒドォイ……」
猫をかぶるような振る舞いで困り眉をするバアル。
「私はただ、アザトゥス様復活の邪魔をするアルハさん御一行や璃空さんを殺してくださいってお願いしただけなのにぃ……しくしく……」
「自分じゃなくて他のやつに任せるところ、性格の悪さが滲み出てるな、お前」
「えぇ〜! 皆さんが善人すぎるだけですよぉ?
ね、ルキさん?」
「っ……」
ベルフェゴールが歩を進め、こちらに向かい出す。
彼女がバアルの力によって洗脳されているのなら、神皇の瞳による上書き洗脳で解呪出来るはず……。
「邪奥解放……」
詠唱と共に接近速度を高めるベルフェゴール。
「ッ――――!」
それに対し、神皇の瞳で上書きを行う。
ベルフェゴールの瞳には神皇の瞳から放たれる黄金の輝きが反射する。 これでベルフェゴールの洗脳は……。
「スラッシュエピリスディア」
「!?」
壁際という逃げ道が狭まった場所で発動したのが間違いだった。
ベルフェゴールの邪奥は俺と璃空には直撃せず、背後の建物を崩壊させ、俺達は乱雑に砕かれたコンクリートの下敷きとなった。




