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罪に願いを 新世界の先駆者  作者: 綾司木あや寧
五章 水明世界編
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バアルのイタズラ 1

 ナトミー中心地。


「あっつ! どうなってんだ……」

「……あ! アルハさん、あそこ……!」


 璃空の指差す方へと目を向ける。


「……! なんだ、あれ……」


 目に飛び込んだのは、黒い霧の中、一羽の巨大な鳥が所構わず炎を吐き散らす光景。


「あ……あづい…………」

「イヤだ……死にたくナい!」

「あ、あ、アアハハハハ!!」


 その炎で身動きの取れなくなった人々が断末魔の叫びを上げ、気が狂いながら、鳥に捕食されている。


「アルハさん、あの鳥って……」

「間違いなくベルフェゴールの眷属だろうな……」


 暴れさせているのは璃空をおびき出すためだろうか。

 そうだとしても、こんな回りくどい事をする前に酒場を確認する手段があったはずだ。 それに肝心のベルフェゴールの姿がどこにもいないのも不自然だ。


「璃空、フェニックスは俺が相手をする。 お前は怪我をしている人達の救助を頼む」

「分かりました!」


 戦火の中をかいくぐり、負傷者の救助へと向かう璃空。


「さて……あのクソ鳥にはとっとと退場してもらうか……」


 手の甲を引っ掻き、血液を一滴、外へと出す。


「ブラッドブースト」


 血液は命が宿ったように俺の体の周囲を回転しながら上昇し、頭のてっぺんに落ち、頭髪と瞳に鮮血の加護が付与される。


「はぁッ――――!」


 瞬間的に千倍にまで向上した敏捷能力でフェニックスまで接近、スピードにより増強された一撃を食らわせ、遥か空まで蹴り飛ばす。


「ギィエ!」


 胴に決まった膝蹴りは片翼の制御を奪い、フェニックスは体勢を立て直すことが不可能に。


「もう一発――――ッ!」


 次いで落ちる直前のフェニックスの位置まで飛行し、海面に向けて殴り飛ばす。

 その一撃で人を啄んでいた嘴は粉々になり、海から巨大な水飛沫が上がる。


「……」

「凄い……」


 あまりにも一瞬すぎる戦いに自然と言葉が出る璃空。


「璃空、見ている場合じゃないぞ」

「あっ、はい!」


 ブラッドブーストの変身解除後、俺も璃空と一緒になって建物の残骸から怪我人を探し、神皇の瞳を用いた回復魔法で今、生きている人間全員の治癒は終わらせた。 ただ……。


「百人以上が……あの鳥に捕食されたみたいです……」

「……」


 転生聖奥を使えばどうとでもなるが、今、天上の連中に邪魔をされるわけには……。


「おやおや〜? 転生聖奥……使わないんですかぁ?」

「!……」


 この嫌気がさすような口調と耳障りな声には聞き覚えがある。


「こうして顔を合わせるのは森奏世界以来ですねぇ……アルハさん?」


 黒い霧の奥から現れたのは艶やかな黒髪に赤い瞳をした女。


「バアル……」

「覚えていてくれて嬉しいですっ! 璃空さんも、お久しぶりですねっ!」

「…………」


 璃空はジッとバアルを睨んでいる。


「おやおや……その感じだと、私が言った嘘がバレちゃいましたか……。

 でも、怒らないでくださいね? 私も上司の指示に従って動いた結果が璃空さんを騙すことだったんです……はい。

 いわば、私も被害者ですっ! ええ!」

「っ……」


 バアルの被害者発言に、険しげに睨んでいた璃空の表情が曇りだす。


「璃空、アイツの言う事は真に受けるな。

 おい、ふざけんなよアバズレ。 お前は常に加害者側だろうが」

「アバ……!? アルハさんヒドーい!

 バアルちゃん、男の人にそんな事を言われたのは初めてですよ? たぶん」


 とぼけた態度、空っぽの言葉。 前から思っていたことだが、コイツからは璃空以上に自分というものが感じられない。


「お前、何しにこの世界に来たんだ」

「ふふっ」


 三日月の形をした目つきで笑みを浮かべるバアル。


「言いましたよ、上司の指示って……。

 私はとある理由……って、もうご存知の通り、アザトゥス様復活のために六大世界の崩壊を目的として、この水明世界にも馳せ参じたんですよっ!」

「ベルフェゴールがいるのにか?」

「おっ!」


 その言葉を待っていたと言わんばかりにニコニコと満面の笑みを浮かべるバアル。


「はいっ、そういえばいましたいましたぁ!

 ルキさん! 出てきて良いですよっ!」

「ルキ……さん?」

「!……。 お前、アイツの正体を……!」

「……ああ、なるほどぉ……」


 こちらの反応の違いを見たバアルが嘲る。

 次の瞬間。


「ギイエエエエ!!!」

「「!?」」


 海中からフェニックスが命を吹き返し、再び町の人々に襲いかかろうと暴れ出す。


「アルハさん、止めなくて良いんですかぁ?」

「テメェ……」

「安心してくださいっ。 私、璃空さんには手を出しませんからっ!

 だから、アルハさんがフェニックスを止めに行った方が良いと思うんですよぉ?」

「くっ……!」


 バアルの言葉に乗せられているのを重々承知のうえで璃空をその場に残し、フェニックスの追撃へと移る。



「ふふっ、これでお話が出来ますね、璃空さんっ!」

「……いまさら僕と何を話そうっていうんですか?」


 腕を組み、うぅ〜ん……と頭を悩ませる素振りをするバアル。


「璃空さん、私がどうしてこの世界の大罪の悪魔を倒せって言ったか分かりますか?」

「僕に、願いを叶えさせようと……」

「それは嘘だったじゃないですか?」

「っ……」


 璃空の言葉を一蹴し、話を続けるバアル。


「ベルフェゴール様はどうあっても璃空さんに手を出せない理由があったんです。 それを知った私は、この世界に璃空さんを留まらせ、ベルフェゴール様の抑止力とする為に嘘をついた」

「っ……」


 思いもよらないバアルの言葉に呑み込めていない様子の璃空。


「どうして自分が抑止力なんだ……って顔をしてますね。 そんなの簡単ですよっ!

 だって……璃空さんがベルフェゴール様が人間だった頃に眼球や臓器をくれた恩人なんですし」

「……え」


 璃空の思考が凍りつく。


「やっぱりアルハさんから聞いてなかったんですねぇ……。 あの人、隠し事ばっかりするから同業者としては困りものですよっ……」

「まさか……」

「彼女が人間だった頃の名前は、飯島瑠樹。

 璃空さん、あなたのお姉さんですよ」

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