霧夜事変 7
「さてさて〜……ベルフェゴール様は…………と、おやおや〜?」
マノとの戦闘から離脱し、ベルフェゴールの元へと向かったバアルは、そこでサタンとの戦いを繰り広げる姿を遠目に発見する。
「邪奥解放、スラッシュエピリスディア!」
怠惰の大罪魔法を宿した抜刀で遠距離から真空の刃を放つ。
「その程度で……!」
翼の先端から四大元素全ての力を同時に発動し、牽制するサタン。
しかし、怠惰の力が宿りし邪奥により、熱度上昇、水質硬化といった元素変化現象は発生しなかった。
「!……」
自身の元素能力が無効化された事でまともな競り合いで負かされると判断し、真空の刃の軌道から外れるサタン。
刃はコンクリート壁へと衝突するも、その威力は減り込む程、威力だけで言えば彼女の翼から放たれる超硬度の水やそよ風の方が上である。 ただ、純粋な力だけでは覆らない異能もある。
「驚いたかしら? これが私の大罪魔法、エピリス。
異能の扱いになる力なら全てを無力化させる魔法。 もっとも、この魔法自体は攻撃性能が皆無だから邪奥と組み合わせないといけないけど……。
それでも躱すって事は、貴女はこの技の打開策が無いみたいね、サタン?」
「また、サンをその名前で呼ぶの……?」
サタンの拳に力が入る。
「うわぁ……サン様怒ってるなぁ……。 せっかくベリさんが好感度上げてたのに、ベルフェゴール様のせいで台無しだぁ……口調もところどころ変わってるし、止めた方が良いのかなぁ?」
二人に気付かれない少し離れた場所から、心配しながら観察を続けているバアル。
ただし、その不安気な口調とは裏腹にニヤケ面には拍車がかかっている。
(この感じ……もしかしたら勝てる……)「邪奥解放!」
抜刀術の構えを取るベルフェゴール。
(ベルフェゴールの邪奥、あれは大罪の力込めた一撃だった。 つまり、それを相殺する異能さえ使えば、サンの敵じゃない……!)
「スラッシュ……エピリスディア!」
鞘から引き抜かれた刀が真空の刃を弾き出し、サタンに向け放たれる。
当人の感覚的な理由も相まって、二度目の斬撃は刃の速度、威力共に段違いに向上している。
「さあ、サン様はどう切り抜けますかねぇ……」
「…………はぁ〜。 っ……」
「!……」(おや、気付かれてるみたいですねぇ……)
溜め息を溢したサタンが一瞬だけバアルに目線を向ける。
「よく、見ておきなさいバアル……」
小さな呟き後、三対の翼を仕舞うサタン。
「大罪魔法!!」
容姿にそぐわない怒声が夜の町中に轟く。
瞬間、サタンを中心に高濃度の魔力が周辺の黒い霧を吹き飛ばすほどの乱気流を発生させる。
乱気流の影響はベルフェゴールが放った邪奥、スラッシュエピリスディアにも、、、
「ウソ……」
全ての異能を無力化するはずのベルフェゴールの邪奥は乱気流に飲み込まれてしまう。
「どうして!? 私の邪奥は……」
「だからアンタは二対の翼だって気付かないわけ?」
「なんですって……!」
「大罪魔法は確かに強力。 だけど、対抗策が無いわけじゃない。
ましてや、同じ大罪の上位種であるサンを相手にしてそれを忘れるなんて……。
どれだけあの飯島璃空って子の事で頭がいっぱいになってたんだか……」
呆れたような口調で笑みを浮かべるサタン。
「じゃ、とりあえず一発行っとく?」
全身から解き放たれる乱気流のような魔力が地面へ円網状に張り巡らされる。
「!……。 なにこれ……」
「これが憤怒の大罪魔法、リア。 自身を中心とした半径数百メートルに蜘蛛の巣模様の魔力を張り巡らせて、サンが敵と認識した人間全てに死を付与する」
「こ……んなの……私の大罪魔法で……」
「あ、そうそう。
サンの大罪魔法は極彩色の翼の力と併用していて、大罪魔法単体の力じゃ相殺できないから」
「あ……が…ァ…」
嗚咽混じりに苦しみだすベルフェゴール。
「はっきり言ってリアの範囲内で一秒以上生きているだけで奇跡に近いんだけど……」
「ぐ……ふぐッ……」
顔中のありとあらゆる水分が垂れ流れ、醜悪な姿を見せるベルフェゴール。
「ぷっ……そんなんになってまで生きたいなんて、やっぱり人間って面白〜い」
「わだ……しは…………」
「もう飽きたからそろそろ死んでくれる? さっきの子も後から殺してあげるから」
「り……ぐを…………アっ……」
「邪奥解放っ!」
その時、軽快な口調と共に、蜘蛛の巣模様に張られていた魔力の線を真っ黒な泥が塗りつぶしたのだった。
「あはっ☆ ギリギリセーフ……ですねっ!」




