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罪に願いを 新世界の先駆者  作者: 綾司木あや寧
五章 水明世界編
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霧夜事変 6

「…………」

「…………それじゃ、始めよっか」

「っ……」(来る!)


 サタンの翼の先端がそよ風に触れたように僅かに動く。


「…………!?」(マズい!)


 思考が働いた時には遅かった。

 ベルフェゴールの体は、僅かに吹いたそよ風により吹き飛ばされ、直線上にある建物を次々と粉砕していく。


「はぁ…………は……」(何……今の技……。 これが……大罪No.2の実力……)


 いくつかの建物を体で粉砕し、早くも満身創痍に陥るベルフェゴール。


「あなた大丈夫?」

「っ……」


 声をかけたのは、その建物に住んでいる家族の母親らしき女だった。


「……」(母親、父親、あとは姉と弟の兄弟か……)

「今、自警団を呼んだので待っていてくださいね!」


 父親らしき物腰の柔らかそうな男があたふたしながら救急箱を探している。


「……貴方達を使えばいっか」


 その頃、そよ風だけでベルフェゴールを吹き飛ばしてしまったサタンは体操座りだの正座だのと、何故か意味も無く多様な座り方をして時間を潰していた。


「ちょっと本気出しすぎたかな……にしても弱すぎる。 何か狙ってるんじゃ……」


 そう思い始めた時だった。


「!……」(魔力反応……ベルフェゴールを吹き飛ばした正面から。

 この黒い霧のせいで彼女本人かは分からないけど……)


 サタンの翼の先端から小さな火の粉が揺蕩いながら彼女の前方で浮遊する。


「ギャァァァァァァッッッ!!!!!」


 直後、感知した魔力を持った何者かが火の粉に触れ、体中が炎に包まれ丸焦げとなり、サタンの眼前で絶命する。


「……囮を使ったわけだ。 ま、格下らしい良い手段じゃない?」


 丸焦げになったのは成人男性だった。

 手元には誰かへ渡しそびれた包帯が焼け切れずに残っている。


「……っ!」(また魔力反応が……)


 翼の先端から湧き出た一粒の水滴がサタンの前方で先程同様に浮遊する。


「あ゛」


 魔力を感知した水滴が自律的に細い線となり、接近するそれを真っ二つに両断、今度は女性が犠牲になった。

 よく見ると女性は丸焦げにした男性と同じ指輪を左手薬指にしている。


「……あー、この感じだと次は……」


 当然の様に新たにサタンの元へ迫る魔力反応。


(今度は二つ……でも、この二人よりも小さいって事は子供か……)


 ベチャ!


 翼の先端から生み出された土が薄い壁となって、少女が体を激しく打ち付ける。

 続いてやって来た少年も、翼から吹いたそよ風で上空へと吹き飛ばされると、重力に従って地面に叩きつけられ間もなく息絶えた。


(ベルフェゴールって、こんなにつまらない悪魔だったわけ? こんなんだったら来るんじゃなかった……)「……っ、もう一つ魔力反応……今度は今まで一番速く接近している?」


 サタンは翼の先端の温度を上昇させて作り出した火の粉を自身の前方へと漂わせる。


 火の粉は接近した人物に着弾し、一気に燃え広がる。


(あーあ、また――――)「……!?」


 肩透かしを食らったと思ったサタンの目に映ったのは、超高温の業火の影響を一切受けずにいるベルフェゴールの姿だった。


「……あっ」

「フェニックス!」

「ドラゴ……」


 一手先に動いたのはベルフェゴールの眷属だった。

 フェニックスは嘴でサタンの胴体を穿つと、そのまま体から炎を放出し、サタン諸共燃え盛る。


「うぐっ……」


 不意の一撃に翼を維持できなくなったサタンは強化魔法を自身に付与し、フェニックスへ打撃を繰り返す。

 ベルフェゴールはその隙に璃空の安否を確認すると、牛の眷属の背に括り付ける。


「この子を……璃空をさっきの酒場まで連れて行ってあげて」

「モォ〜!」


 牛の眷属はベルフェゴールの指示を聞き入れたのか、全速力でその場を後にする。


「さて……」


 最優先の私用を終え、もう一つの用事を済ませようと振り向く。


 ドシャッ! 燃え盛っていた炎は消え失せ、ただ大きいだけの鳥がピクピクと痙攣を起こしている。

 フェニックスの頭部をグチャグチャに潰したサタンは額に血管を浮き出させ、その怒りをより一層強調させる。


「格下のくせにバカだなぁ……。

 そんなガキのためだけに、どうしてそこまで熱くなれるんだか……」

「……あら? 熱くなっているのはサタン、貴女の方じゃなくて?」

「…………ああ、もういいや。 ベリアルの頼みだから生かして使い潰すつもりでいたけど、今ので気が変わった。

 やっぱりアンタはサンの嫌いなタイプだから殺す」

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