海岸沿いの町ナトミー 4
「ふぅ〜……結構走りましたね……で、ここはどこなんでしょう……」
バカ丸出しの少女、マノ・ランブルグはバカみたいに爆走した結果、現在地不明になっていた。
ぐぅ〜……。 腹の音が聞こえてくる。
「お腹が空きました……あむ……」
へたり込みながら、木の植え込み脇に生える草をテキトウに食む。
「みたらしがあれば美味しいのになぁ……あむ……」
人通りの少ない場所だからか、寝転びながらムシャムシャと雑草を食み続けていると……。
「あの……」
「もぐ……ん?」
寝転んだ状態から顔だけを翻し、視線を声の方へと合わせる。
「何してるんですか?」
紙袋いっぱいの食材を持った少年が訊ねる。
「お腹空いてたので草食べてました」
羞恥心を昨日の彼方へ置き忘れた阿呆が素直に答えると、少年は呆然としながらも、紙袋から林檎を取り出し、マノへ手渡す。
「えっ! 良いんですか!?」
「構わないので寝そべりながら草を食べないでください……」
「ありがとうございます……!! あむぐっ!!」
グシャグシャ……ムシャムシャ……と、(見た目だけなら)可愛らしい十代少女とは思えない食い意地を発揮したマノは一瞬にして林檎を芯まで平らげしまう。
「はぁ〜〜っ……美味しかったぁ……。ご馳走様です!」
「いえ、お粗末様でした。
お姉さん、いくら空腹だからって、雑草なんか食べてしまったら、お腹を壊しちゃいますよ?」
「あはは……エネルギーの配分間違っちゃって……」
体を立たせ、服に付いた汚れを叩くマノ。
「っ……」
立った事で眼前にいる少年が自分よりも小柄な事に気付く。
「……今、僕の背が低いって思いましたよね?」
「ぅえッ!? いえ!全然ッ!」
「ヒドイなー……タダで食べ物あげたのに、内心チビ呼ばわりされちゃうなんてなー……」
「ごごごごめんなさい! そんなつもりは……あ」
墓穴を掘るマノ。
謝罪をした瞬間、彼女は少年に対して、どういう思いを抱いていたのかを自白したのだ。
「しゅみましぇん……本当にそんなつもりは……」
「ははっ……冗談ですよ。
でも、そうだなぁ……。 本当に悪いと思っているのなら……僕の頼み、聞いてもらえませんか?」
「頼み……?」
「実は僕、この町の酒場でバイトをしていまして、そのお手伝いをしてほしいんです。
今日、複数の団体のお客様が来ることになってるんですけど、他のバイトの人が一人、風邪で休む事になっちゃって……」
「酒場……」
少年の職場とアルハから聞いた話と重ね合わせる。
(もしかして、その酒場ってアルハさんが言ってたとこかな……? だったら、帰り道わかんないし、この子のお願いを聞けば先に着けるし、ついでに美味しい物も沢山食べられるのでは!?)
マノは何を思ったのか、働く=食事付きが当然のような考えらしい。
「……もしかして、都合が悪い感じでしたか? なら、別に無理強いはしないですけど……」
「いえ、そうじゃないんですけど、この町の酒場って、そこだけですか?」
「えっ? はい……そうですね」
「っ! うふふ……」
(気持ち悪いぐらいに)柔和な笑みをたたえ、少年の手を包むように優しく握りしめるマノ。
「? あの……お姉さん?」
「是非、お手伝いさせてください……」
「お姉さん……」
本人は今も美しく微笑んでいるつもりなのだが、少年から見たマノは……。
(なんでこの人、ヨダレ垂らしながらニヤニヤしてるんだろ……)
明らかに不審者だった。
「じゃ……じゃあお願いします。 えっと……お姉さんの名前……」
「ジュル……ハッ!?
アタシ、マノ・ランブルグって言います! アナタは……」
「飯島璃空です。 よろしくお願いします、マノさん」




