海岸沿いの町ナトミー 3
ここはナトミーの中心地にある喫茶店。
「はい、あ~ん」
「あ~〜〜むっ……もぐもぐ…………」
その一席にて、銀髪碧眼の男がフォークに刺さった分厚く柔らかなきつね色の食べ物を黒髪黒目の少女に食べさせている光景があった。
「美味いか?」
「もぐ…………もぐ…………」
アルハからの問いに、こくり…と頷く。
「……なあ、由利。
別にあーんするのは嫌じゃないんだけどさ、そんな顔赤くされると、こっちまで気恥ずかしいんだけど……」
「…………私の言うこと……きいてくれるんでしょ……?」
「……あ、はい」
由利の羞恥心は周りの席がほぼカップルだった事も影響しているのだろう。 そもそも、他にも飲食店はあったのに、何故こんな可愛らしい内装の喫茶店を選んでしまったのか……自分のセンスを疑う。
「ごちそうさまでした……」
「お、満足できたか?」
「うん。 満足……はしてないけど、夕方にみんなでご飯食べに行くんだよね?
だから、腹六分目?ぐらいにしたよ」
「あ……そう……」
この時、彼女はパンケーキを二十枚は食していた模様。
「…………」
「…………?」
「………………」
「……どした?」
「へっ?」
「いや、さっきからずっと見てるからさ。
あっ、あるはしゃんに惚れちゃった? 気持ちは分かる!俺、イイ男だから……」
「あ、うん。 アルハさんは顔は良いと思うよ」
「あ、そっすか」
「…………」
「……えーっと、由利さんや?」
「へっ? 何?」
「何か質問があるなら何でも聞くぞ?」
「…………」
由利は俯き、少し考え込んだ後、意を決したように再び顔をこちらへと向ける。
「アルハさんは……私のこと、どれくらい知ってるの」
「…………」
なるほど。 いや、当然だな。
あたかも全て知ってると言わんばかりの言い回し、当たり障りの無い態度で接してたら気になるよな。
さっき、無理に外へ連れ出したのは置いといて。
音を遮断する魔法を
「……お前の実の父親が亡くなって、再婚相手の男に酷い事をされたぐらいは知ってるよ」
「っ……!」
由利の顔が引きつる。
しまった……こんなすぐに彼女の根底を突くべきじゃなかった。
「由利――――」
「それを知って……アルハさんは、どう思ったの……?」
はぐらかすよりも先に話を進行させられた。
「……そういう人生の奴もいる。 それぐらいだよ」
「本当に……?」
「同情してほしかったか?」
「……ううん。 もし、同情なんかされたら、私の中の真っ黒な何かが溢れちゃうかもしれない」
真っ黒な何か……。
明快ではないにしろ、アレに気付いているらしい。
「だから、今度の人がアルハさんみたいな人で嬉しい……」
今度の人……か。
彼女と初めて出会ったあの洞窟。 あそこには人が入った形跡があり、残留した魔力も感じられた。
そして、あの不気味なエネルギーを秘めていた黒百合の花…………。
潜在的な記憶から「今度」なんて言い方をしたのかは知らないが、あの黒百合はあそこに迷い込んだ人間の成れの果て。
黒百合の支配者、リリラクブが由利に合わないと判断して由利の栄養源代わりにあの姿に変えたのだろう。
「ふわぁ〜……」
「眠いなら一度部屋に戻るか? まだ夕方まで結構時間もあるし」
「うん……。 そ……す…………る」
今にも眠ってしまいそうな由利を背中に担ぎ、会計を済ませると、トボトボと宿屋まで帰った。
……人慣れさせるために外に出したのに、おやつ食べて眠くなって一時帰宅とは……トホホ。
その頃、宿に一人残された志遠は……。
「…………」
目を覚まし、誰もいないことに気付く。
「……」
時計を確認し、昼を過ぎたぐらいだと確認すると。
「………………」
テーブルに突っ伏して眠りについた。




