海岸沿いの町ナトミー 1
「なるほど〜……ベルフェゴールさんですか〜……あむっ……」
「マノ、君は何か知らないか?
その……元は仲間だったみたいだし」
「もぐもぐ…………う〜ん……そうですねぇ……もぐ……」
「おい、暴食まがい」
「むぐっ……誰が暴食まがいですか!」
「はいお前です。 愛しのしおんきゅんが聞いてんだから答えてやれよ」
「…………」
口を濁しながらも二人を訝しげに睨むマノ。
「なんだよ?」
「二人は美味しい物食べてきたくせに、何も言うことないんですね……」
「「!……」」
マノの一言に目をそらす野郎二名。
「すまなかった……」
「……腹が減ってはなんとやらなので別に良いんですけどね? 少しは残された人の身にもなってくださいよ?」
「気をつける」
「ほら、アルハさんも何か一言ありますよね?」
「ごめんちゃい」
「おい、アドザム……」
「許しましょう」
「……」(許すのか……)
「それで、ベルフェゴールさんの話ですよね」
「そ。 マノはなんか知ってるか?
俺の知識じゃ、アイツはオッサンだったはずなんだけど、いつの間にかセーラー服美少女悪魔になってた」
「え? ベルフェゴールさんは前からセーラー服の女の子でしたよね?」
「はぁ? アイツは昔……って、お前は無理矢理悪魔にされた数百年ぐらいの記憶しか残ってないんだったな」
「すみません……」
申し訳無さそうにうつむくマノ。
「いや、しゃーないさ。 お前が美徳の聖者だったのは、俺もアスモデウスから聞いて初めて確信した事だったし」
「……やっぱりアモちゃんは知ってたんですね」
「悲しいか?」
「……そう、ですね。 ちょっぴり悲しいです……」
「マノ……」
落ちこむ姿に不憫に思い、肩に手をそえる志遠。
「すみません志遠さん。 もう、平気です。
それで、得られた情報はベルフェゴールの事だけだったんです?」
「んにゃ、も一つある」
「なんです!? この世界に居るっていう生き残りの聖者さんですか?」
「残念ながら聖者の情報についてはまだ……。 ただ……」
「飯島璃空っていう志遠と同じ枠組みの世界から、こっちに迷い込んだ転生者を見つけたんだよ」
「転生者……。
志遠さんと……あの、久導星明っていう赤陽世界で戦った人を含めると三人目ですか……」
「俺はまたそいつが働いてる酒場に行こうと思ってるけど……」
アルハは視線をベッドで寝返りをうつ由利へと向ける。
(由利を人に慣れさせるためにも……)「今日は四人で行くか!」
「えっ、ついて行って良いんですか……!?」
「おう! あるはしゃんが好きなだけご馳走してやんよ!」
「やったぁ~! そうと決まればお腹空かせるために、ちょっとそこら辺走ってきます!」
勢いよく部屋の扉を開き、駆けていくマノ。
「夕方頃にみんなで行くから、それまでには戻ってこいよ〜!」
「はーい! わかりました!」
「……行ったな」
「だな。 アイツのメンタル食い物だけで復活するから燃費良いよなぁ。
さ、俺らもちょっとお昼寝タイムといこうぜ〜」
アルハ達は深夜行動の疲れからか、部屋に備えられた椅子に腰かけ、暫しの間、仮眠を取るのだった。
⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛
一時間後、、、
「ん……んぅ〜〜〜っ」
ベッドで眠っていた癖毛の長い黒髪をした少女、黒井由利は目を覚ます。
「……私、寝てたんだ…………って」
由利はいつの間にか見知らぬ部屋に居ること驚きながらも、近くにいたアルハのそばへ静かに近づき様子を窺う。
「……寝ている…………のかな?」
「……どした?」
「!?」
目を閉じたままのアルハが起きていた事に驚いた由利は、慌てて二つあるベッドの間に掛け布団を纏って小さくなる。
「…………」
「…………あ……あのっ………………あ……」
返事をしただけで最大レベルの警戒をされた事に傷心しつつ、由利をなだめるために神王の瞳を用いて動作無しのラドジェルブを発動する。
「……あ、あの…………」
「少しは落ち着いたか?」
「うん……じゃ、なくて…………はい……」
「話しやすい口調で良いぞ?
年上だから敬語使えなんて言わないからさ?」
「っ…………。
うん……ありがとう、アルハさん……」
「おう」




