路地裏の神隠し 3
「…………」
「決まりだな。
これは神隠しでも、隣国による誘拐でもないらしい。
さっきの強烈な咀嚼音からして、神隠しの被害にあったとされる子供はナニカに喰い殺されている可能性が高い。
そして、痕跡を残さずにこんなイカれた事をやれるのは限られている……」
「まさか、これも大罪の悪魔なのか……?」
「珍しい。 私達、大罪の事を知っている子供がいるなんて……」
「「!!」」
声は壊れた街灯の上からだった。
「二人……魔力量からして、ただの子供じゃないみたいだけど、それでも私には敵わない」
「志遠……あの女……」
「この状況でなら言われなくても分かるさ……」
「あるはしゃん達のこと、子供認識してくれたぞ……!」
「…………まともに話そうと思った俺が馬鹿だった。
おい、大罪の悪魔。 俺達は子供の服を着てるだけで、れっきとした成人だ」
「えっ、そうなの? 確かに背は高いけど、童顔だから成長期の小学五、六年生だと思っちゃった……ゲフンゲフン!
そう……で、あなた達は私の事を知っているみたいね。 一体、何者なのかしら?」
「名乗りもしない相手に、どうして俺達が自己紹介をしなくちゃ――――」
「はいっ! アルハ・アドザム二十歳!
好きなモノは親子丼と処女!嫌いなモノは非処女とNTRです!よろしくお願いしますンゴ!」
「…………は?」
「っ…………」
ボケ得意なんだよね!と言いつつ、その場を寒くする事にしか長けていない陰キャの様な自己紹介で現状を液体窒素よりも冷ややかにしてしまうアルハ。
これには志遠も頭を抱えてしまう。
「で、お前は誰なんだよ? セーラー服の悪魔少女ちゃん?」
「っ……」(私の姿が見えている!?)
「セーラー服? アドザム、見えているのか?」
「いや、ほぼ見えてない。
ただ、風に揺れる布の動きや面積で下はスカートだったり胸元にリボンがあるのは何となく分かったからな」
「ふーん……凄い洞察力だね、ちょっと見直しちゃった」
「だろ? ふざけたつもりで相手の様子を見るのは俺の常套手段なんだ、仲間にもちゃんと伝えとけよ?」
「でも、セーラー服がわかったから何? それがわかったぐらいで……」
「なんなら、お前がなんの大罪かも当ててやろうか?」
「……!」
アルハの言葉に暗がりの中、息を呑むセーラー服姿の悪魔。
「ハッタリじゃないだろうな?」
「憶測だけどハッタリじゃねーよ。
さっきの子供の悲鳴の後に聞こえたガツガツって音、そして次いで匂った焦げ臭さ。
これはどちらもヤツの眷属が子供の捕食に必要な行動だった」
「…………」
セーラー服の悪魔は何も言わない。
「啄むことで好きな量だけを喰い、焼くことで水分を奪い、口に摂取しやすくした。
この事から、火の性質を持った鳥だと分かる。
そして、大罪の悪魔の中で火の鳥の幻獣を従える悪魔はただ一人……」
バチバチ……と、街灯に明かりが灯り、セーラー服の悪魔の顔が二人の瞳に映る。
「……!」
志遠はセーラー服の悪魔よりも先に、その後ろに佇む大きな影に一驚した。
「そうだよな? ベルフェゴール」
「……ルシファーの眷属だとは思わないの?」
「グリフォンはな、火を吐かねーんだよ。 ちゃんとお勉強ぐらいしとけバーカ」
「…………」
アルハの言葉に腹を立てたのか、ムスッ…と、険しい顔を見せるベルフェゴール。
「なんで子供を食い物にした」
そんな事など意に介さず、ベルフェゴールへ続けて問うアルハ。
「何? フェニックスの養分にしたいから食べさせただけなんだけど?」
「そんな理由で……」
「…………」
ベルフェゴールの身勝手な考えに志遠は静かな怒りを見せる。
「そっちの金髪は怒ってるけど、貴方は怒らないの? 銀髪」
「…………可哀想だな、お前」
「…………は?
私が、可哀想?」
「自分が人間だった事も忘れて、今、怠惰の悪魔の枠にいる事に違和感を持たないのを可哀想と言わないで何て言えば良いんだよ?」
「……え」
「なッ……! アイツも、マノと同じように人間なのか!?」
「いや、マノ以上に純粋な人間だ。
それも、志遠。 お前と同じ世界から転移したきた人間だ」




