表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
罪に願いを 新世界の先駆者  作者: 綾司木あや寧
四章 魔剣使徒編
125/175

それは世界と共に

「遥か昔、神と世界を造った第一の神がいた。 その名は創造神アフラ・マズダ。

 ただ、その名称だけだとゾロアスター教の神と同一視されかねないから、名前の最後にスプリウム……つまり、最高位を意味する名を冠しているみたい。 ここからはスプリウムって呼ぼうかな。

 スプリウムは神と世界を造ったけど、それ以上は何も生み出そうとはせず、他の神に委ねた。

 そこで生命体……生き物を造ろうとする神が現れる。 それが第二の神、創生神クロノス。

 本来、生き物はクロノスによって生み出されるけど、私は違った」


『…………』


「私が目を覚ました時、そこは真っ暗な海の中だった。

 天を見上げると、そこには白くて丸くてぼんやりと光る複数の月。

 私は、月光世界の誕生と同時期に月光世界の海で生まれたんだ」


『綺麗……』


「私は天に浮かぶ月に見惚れて、いつも月を見る事が出来て、海の中で自由に泳ぎ回れて……私は、それだけで幸せだった。 ただ、ある時を境に私は自由を奪われた」

「それって……」

「うん。 創生神さまの力で世界に生き物が造られた時からだよ。

 と、いっても、海の生き物達は私を怖がっていても刺激しなければ無害と判断してたから、たいして気にしなかった。

 でも、人間は違った」


『見つけたぞ、化け物!』

『化け物……?』

『何だあの化け物、人の言葉を話せるのか!?』


「人間は、私を見てすぐに化け物と呼んだ。

 ……酷いよね、見た目が違うだけで敵とみなして殺意を向けるんだもん。

 人間は私に雷の魔力を込めた矢や魔法で海の中から追い出し、出てきたところを大砲で撃ち、槍で突き刺し、最後に海に沈めた」

「……」

「痛かった。

 痛くて痛くて痛くて痛くて、どうしてこんな苦しい思いをしなくちゃいけないのか理解できなかった。

 私は人間に危害を加えたことなんて無いのに、ただ海の中で静かに月を見ていただけなのに……。

 ねえ、マノちゃん。 人間にとっては化け物がそんな事をするのも罪なのかな? それだけでも許されない事なのかな?」

「っ…………」


 言葉が出なかった。

 自分なりの正義でレヴィアタンと相対していたマノの心情は揺らぎ、敵愾心は失われた。


「でも、それだけなら別によかったんだ」

「……よかった?」

「私はあらゆる攻撃を受けた後に無効化する最奥の力を持っているから。

 どれほど痛くても海に沈められた後、受けた攻撃を無効化すれば、自然治癒でどうにかなる。 そう思っていた。

 あの時までは……」


『ん……ぅ……こ、ここは……』

『化け物が目を覚ましたぞ!』


「その日も、人間の手によって気を失うぐらいに何度も何度も暴力を受けていた。 けど、いつもと違う事が一つ……」


『あれが、海の化け物……』

『ままーこわいよー』

『クワバラクワバラ……』


「人が、たくさんいた。

 私は、海に沈められずに地上へと運ばれていた。

 傷は回復していない。ううん、回復させないように休む間もなく槍で攻撃を繰り返していた。

 思えば不思議だった、気付くべきだった。

 私がいたのは沖合の深海だった。 なのに、それを分かっていたように人間は私を見つけた」


『あら、なんと醜い姿なのかしら』

『……だれ?』


「その声に呼応するように、周囲の人間は一様に跪き、私の目の前に髪や瞳の色が月のような色合いをした女がやってきた」


『ワタクシの事を存じませんの?』

『知らない……。 そんな事より、早く、海に帰らせて……』

『……神奥解放』


「女の言葉を皮切りに、()()()()の慟哭がけたたましく響き渡った」


『な……にを……』


「どうにか痛みをこらえた私は月色の女に問いかけた」


『誰の許可を得て、ワタクシに口ごたえしているのでしょう?

 ワタクシはこの世界の管理神ですのよ?』

『管理神……?』

『まさか管理神すら知らないなんて……無知だから罪が無いなんて思っていませんこと?』

『私が何をしたの?』

『まぁ……なんて白々しいのでしょう……。

 アナタはこの世界に生きてる事自体が罪なのですよ?』

『生きてることが……罪……』

『周りを見てごらんなさい』


 月色の女の言葉に従い、周囲を見回すレヴィアタン。

 見渡す限り彼女へ畏怖するヒトがいた。

 見渡す限り彼女に嫌悪するひとがいた。

 見渡す限り彼女を叱咤する人がいた。


『…………』

『お分かりになりまして? アナタの様な醜さの象徴たるバケモノが人の住まう世界に居られては邪魔なのです』

『私は、何もしていない……』

『ワタクシの管理する世界において、最優先する種は人なのです』

『私は、何も求めていない……』

『ですから、早くこの世から消えてくださいまし』

『私は、何も悪い事をしていない……』

『神奥解放』


「月色の女がその言葉を言った次の瞬間、超新星爆発と同等の質量を持った技が、巨大な蛇のような私の体を跡形もなく消し去った。 しかも周囲への被害を与えないよう私だけを殺せるように空間、次元操作までして……」


『これで月光世界には平穏が訪れるでしょう。

 人の世界に幸福があらんことを……』

『流石は……様だ!』

『……様があたしらをまた救ってくれた!』

『……様ー!』


「人間はみんな、その女神に感謝の言葉を述べた。

 私はというと、肉体はチリ一つ残らず、一切の痛みを感じる間もなく死んじゃった。

 残ったのは、理不尽に私を傷つけたあの女神や人間たちへの憎しみと、あんなにも思い思われている事への嫉妬だった」

「っ……」(そんな管理神がいたなんて……)

「魂だけが残ってしまった私はどの次元か、どういった空間かもわからない場所を揺蕩っていた時、魂を彼女に拾われ、彼に出逢った」


『なんだ、これは……』

『これはですねぇ……魂ですよっ!』

『違う。 ぼくが聞きたいのは肉体の消失から数億年が経過しているにも関わらず、なぜ魂が現世に残っていられるのかという事だ』

『…………た……て』

『? この魂、人の言葉を話せるのか』

『みたいですねぇ! おもしろ~いっ!

 ツンツンっ!』


 ハツラツとした声の女は、レヴィアタンの魂をつっつきながらケラケラと笑っている。


『ベリアル』

『ここに……』

『この魂に、人の体を』

『畏まりました』

『えぇ〜っ!?!? 体、あげちゃうんですかぁ!?』

『バアル、口が過ぎますよ』

『ベリさんがカタブツなだけじゃないですかぁ?』

『アザトゥス様、こちらの肉体でよろしいでしょうか?』

『あっ、無視したっ!』

『構わない』


「そうして私は人としての肉体を得た。

 嫉妬するほどだった人間の肉体を得た事がたまらなく嬉しくて、憎悪するほどだった人間の肉体を得る事でしか生きられないのがたまらなく悔しくて、最初は心の中がグチャグチャになっていた。

 肉体を得て、まず目に入ったのは人間の姿をした男女三人だった。

 茶髪に眼鏡をかけた細い目の男の人、艶やかな黒髪に赤い目をした笑顔の可愛い女の子、そして……」


『…………』


「影のような黒に塗り潰されたような……そんな姿の誰か」


『貴方達は誰?』

『ぼく達は新たな世界を創る者……とでも言っておこう』

『新たな世界?』

『この世界って、アフラ・マズダ・スプリウムっていう創造神様が創り出した世界なんですけど、それを気に入らない人が一定多数いたりいなかったりって感じなんですよ』

『それって……』

『口を閉じろバアル』

『ぶぅ〜……。 アザトゥス様まで邪険にしなくてもぉ……』

『女、名前はなんという?』

『女……私のこと?』

『お前以外に誰に聞いているというんだ』

『は〜いっ、バアルちゃんです☆』

『黙れ』


 ゴンッ! アザトゥスに代わりベリアルが拳がバアルの頭へと振られる。


『ッッッ〜〜〜!!! 本気で殴らなくてもぉ……』

『いい加減口を閉じてくださいバアル。

 名前が無いのであれば、貴女の記憶を頼りにアザトゥス様が名を与えますが、如何なさいますか?』

『名前なんて……』


「そんなものを貰ったところで、何が変わるんだと思った。

 でも、アザトゥス様は暫くの沈黙の後……」


『…………。

 …………。

 …………。

 …………レヴィアタン』


「レヴィアタン。 私の事をそう呼んだの」


『レヴィアタン? ……って、なんです?』

『ヘブライ語で"渦を巻く"という意味です。 バアル、貴女はもう少し勉学に勤しむべきでは?』

『あーーっ! またベリさんが意地悪なこと言ったぁーーっ!!』

『不満か?レヴィアタン』

『……分からない。 私、誰かを呼ぶために一人一人に付ける言葉があるなんて知らなかったから……』

『あっ! じゃあじゃあ、大事なお話の時だけはフルネーム呼びで、普段はレヴィなんてどうです?

 短くて呼びやすいし、可愛いし、この私、バアルちゃんとお揃いの三文字ですよっ!』

『バアル、貴女はアザトゥス様の命名が気に食わないとでも言うのですか?』

『そうじゃないけど、女の子の名前なら可愛い方が良いじゃないですかぁ〜! ね、アザトゥス様っ?』

『…………同性であるお前が良いというのなら、ぼくはその呼び名でも構わない』

『やったぁ! じゃあ、レヴィさんって事でヨロですっ!』


 ウインクを交えた敬礼で挨拶を済ませるバアル。


『さあさあ、他のみんなにも会いに行きましょ!

 新人歓迎会ってやつですよっ!』

『え……あっ……』


「その後、ルシファー、サタン、アスモデウス、ベルゼブブ、本来のマモンと挨拶を交わして、みんなが今の世界を終わらせる考えを持ってた事を知った。

 もっとも、ルシファーは楽しければ世界なんてどうでもいいって言ってたけどね。

 でも、幸せだった。 ここにいる皆は、私を腫れ物扱いせず、友として、同じ生き物として受け入れてくれたから」


 思い出に耽り、閉じていた瞼が開く。


「だから……」

「ッ――――!?」(今、魔力が……)


 悪寒を感じるほどの濃い闇の魔力を身近で受け、身を震わせるマノ。


「だから、あんなに優しくしてれたみんなのためにも、みんなの居場所を奪った人間を許さないし、この世界の神様たちも許さない。

 ……さあ、マノちゃん。もう一度聞くよ。

 私と……私たちと一緒に、この世界を終わらせない?」


 ⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛


「ガイム、本気で言ってるの!?」

「今の僕がレヴィアタンの認識改竄の影響を受けないのが何よりの証拠だ。

 頼むイオ。 あのお嬢さんの賭けに乗ってくれ」

「…………わかった」

ご覧いただきありがとうございました!次回投稿日は12月7日21時です。

よければイイねを押してもらえると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ