海底神殿
「……あ! エナさん!」
「ああ。 恐らくあそこだ」
人魚討伐から十数分、、、
海中の底までやって来たマノとエナは海底にある石造りの建造物を発見する。
「よっ…と!」
「っ……」
「すぅーーっ!はぁーーーっ……。
ここ、空気がありますよ!」
建造物内へと立ち入った二人。
屋内は空気が循環しており、壁には様々な形をした月が描かれている。
「この月の模様は……それに、あの高い位置に幾つもある女の石像はいったい……」
「エナさん、考えていても仕方ないですし行きましょ?」
「……うむ。そうだな」
「それにしても…なぁーんにも無いですね〜」
「そうだな…」(いや、物の有無以前に、このような神殿に近い物がなぜ海底に? 表側の月光世界では、こんな神殿の発見報告は無かったはず……)
考えを巡らせるエナ。
「エナさん危ないっ!」
「っ!」
その時、少し前を歩いていたマノの声に気付く。
四方八方からは落ちていくような軌道で矢がエナに向けて射られる。
「聖奥解放、レイバ!」
剣の刀身にのみ魔力を充填し、視界に入る矢を全て薙ぎ払う。
エナの眼前から迫る矢は眩い輝きを放ちながら消失したが、、、
(くっ…!背後の矢は対処でき――)
「ナイトオブセイバー!」
マノが咄嗟に発動した聖奥が、刹那の間に騎士の化身が彼の背後へと射られた矢を粉砕する。
「……」
「ふぅー……大丈夫ですか?」
「あ、ああ……。 また、助けられてしまったな」
「いえ、困った時は助け合いですから!
さ、警戒心高めつつ奥に進みましょう!」
その後も不規則に放たれる矢を退けながら、神殿の深部へと歩を進める。
十分……二十分……三十分…と終わりが見えない中。
「うぅ〜…つかれましたぁ〜……」
「そうだな……先程から歩きっぱなしだし、少し休憩を取っておいた方が良いだろう」
代わり映えしない景色も相まって疲れが溜まったので、近くに拵えていた石のベンチへと腰をおろす。
「やったー!おやつタイム! …って、おやつ無いんだったぁ……」
「やれやれ……ほら」
「?」
落胆するマノに色鮮やかな粒状の物をいくつか手渡すエナ。
「グミ…! いただきます!
あーむ……う〜んッッ!!」
「それで我慢してくれよ」
「はい! 我慢できます!
もぐもぐ……!」
久方振りの甘味に幸せを感じ、口の中で何度も噛み締める。
「でも、意外です。
エナさんみたいな人でも、お菓子を隠し持ってたりするんですね」
「ん。 知り合いの子供にせがまれたりするからな、そういう時にすぐ渡せるように…ということだ」
「へぇ〜……。 エナさんは彼女とかいないんですか?」
「唐突すぎないか……? ああ。いたよ、昔」
「昔……破局したんですか?」
「死体蹴りをしないでくれ……」
「あ、すみません」
「フッたのは俺の方だがな」
「えっ、どうしてですか?」
「その娘…アリアが俺ともっと一緒にいたいから騎士になる…なんて言い出してな。 そんな軽い気持ちで騎士になって死なれては困ると思い、騎士になるのなら別れようと言ったんだ。
そうすれば、無理に騎士にはならないと思ってな」
「でも、別れちゃったんですよね? ん?ってことは……」
「アリアは騎士になったんだよ。
しかも、今の役職は副団長だ」
「すごっ……才能があったんですね」
「当時の自分の観察眼の無さを恥じたいよ……」
「でも、それなら改めて付き合っちゃえば良かったんじゃ……」
「騎士になるなら別れると言い出した手前、開き直って『また付き合おうぜ!』と言えるほど、俺は…常人は、そんな異常な精神力を持ち合わせてない」
「あー……それもそうですね……」
マノはアルハ基準で考えていた。
「それに彼女は騎士になってから別に恋人が出来て、その恋人との間に娘もいる」
「子供がいるとなると手が出せませんねー」
「子供がいなければ良いのか……」
「はい! 略奪愛は男の特権ですよ!」
「……今の台詞だけは強欲の悪魔っぽいな」
「あ、アタシも思いました!」
「はははっ……。 まあ、アリアもシングルマザーだし、俺も力になれるところは…」
「え、ちょっと待って下さい。 旦那さんは?」
「子供が産まれてすぐに他国とのいざこざでな……」
「なるほど……やっぱりチャンスですね!」
「この話やめ」
ポンっ、とマノの頭をチョップする。
「あうっ…。 今なら、アリアさんもエナさんの事を受け入れてくれると思いますよ?」
「受け入れるか入れないか以前に、そんな卑怯なやり方で自分に振り向かせようとは思ってない」
腰掛けていた石のベンチから立ち上がるエナ。
「俺はそろそろ行こうと思ってるが、君はもう少し休むか?」
「いえ、アタシも元気80%ぐらいになったので行きます!」
「100%ではないのか……」
「誇張して迷惑かけるわけにもいかないので!
あ、グミ、ごちそうさまでした!」
「はい、お粗末様でした」
「マノ」
「はい?」
「俺の方から終わらせておいてなんだが、君には想いを寄せている相手はいるのか?」
「はい! 未代志遠さんという人なんですけど……。
一目見て、好きになっちゃったんです!!」
「一目惚れか。 ははっ、若いな」
「ぐぬっ……。 前にも言いましたけど、アタシこれでも二百年以上は生きてますからね?」
ご覧いただきありがとうございます。次回は10月1日18時に投稿予定です。
イイねボタンを押していただけると励みになるので何卒宜しくお願いします!




